シーン24:嫌いなもんは?
夕食を終えて、雨宮家はしばしのくつろぎを楽しんでいた。雨宮はテーブルの前に座っており、霧崎は両手を組んで仰向けに寝転び、美久と美羽はソファに背を持たせかけていた。楊はもう自室の帰っていていない。
楊、今日は一言もしゃべらなかったな、と雨宮はそっとため息をついた。
「もうちょっと、楊が協調性を持ってくれればねえ」
雨宮の呟きに霧崎は体を起こした。
「そんなことないよ。楊くんは美久ちゃんの手当てを手伝ってくれた」
雨宮は目を見開いた。へえ、あの楊が。
「でもあれはおにいちゃんが無理やり連れてきてくれたんでしょ?」美久が嬉しそうな声を出す。
「美久ちゃんが怪我してるって言ったら、すぐ出てきたんだ」
「下手なうそつくなよな。おーかたハガネが強引に引っ張ってきたんだろ?」美羽が口を挟んだ。
さあね、と霧崎はごまかした。「でも、ちゃんと手当てしてたじゃん」
二人はうなずいた。確かに楊は嫌がる素振りもなく、テキパキと美久の手当てをしてくれた。楊にあんな面があったのか、と二人の妹は兄を見直した。
自分も居合わせたかったなあ、と雨宮は少し寂しい目をした。
――それから話題を変えて雨宮が霧崎に訊いた。
「ねえねえ霧崎。あんたの好きなもんってなに?」
「なに?雨宮さん。藪から棒に」
「次にうちに来る時、初日くらいはあんたの好きなもん作ってやろうと思ってね」
「ふうん。サービスいいね」霧崎は少しだけ考えた。「カレー」
「なにい!」この場にいる全員が反応した。そんなもん、今食ったばかりである。
「いや、だからカレー」
沈黙。
「あの、カレ」
「却下!ほか!」
「あとは特にない」
雨宮は頭を抱えた。美羽は爆笑し美久はニコニコしている。
「………いいよ。もうあんたにはなにも訊かん」
「いや、事実ですからね?」
「事実でもむかつく。…あんた、嫌いなもんは?」
霧崎はしばし躊躇してからつぶやいた。「………………茄子」
「よし、今度茄子カレー作ってやる」
「あの、それは勘弁してください雨宮さん」
「だめだ」
「うう」
そういえばデザートがあるのを思い出した、と雨宮は席を立って台所に向かった。
「美久ちゃんは嫌いなもんとかあるの?」気を取り直して霧崎が訊いた。
美久はかぶりをふった。「ううん。あたしは嫌いなもの、ないよ」
へえ、と霧崎は鼻を鳴らした。羨ましいな。
「美羽ちゃんは?」
「あたしも嫌いなもんはねーよ」美羽は親指を立てた。
「そっか。いいなあ二人とも。ぼくなんて嫌いなもんが多くて怒られてばっかだよ」
「ピーマン」背後から急に声がした。
振り返ると、雨宮がキウイフルーツを盛った器を持って立っていた。
「なに?雨宮さん」
「美久はピーマンが嫌い。だからうちでは出さない」
霧崎が美久の方に目を向けると、美久は目を逸らした。
「べつにかっこつける必要ないでしょ。嫌いなものなんて誰にでもあるんだから。それから…」雨宮は美羽のほうを向いた。「美羽はえびが嫌い」
「あねき!」
「なんであんたたち、霧崎にかっこつけるの?」雨宮はデザートを机の上においた。
「別にかっこつけてるわけじゃないよ」
「でもわざわざ言うこともねーじゃん」二人はバツが悪そうに抗議した。
「でも、さすが雨宮さんだね。家族のこと理解してるんじゃん」
みんなデザートに手を伸ばして食べ始める。
「で、肝心の雨宮さんは?」
雨宮は妹たちの方に視線を向ける。妹たちはニヤニヤしながら姉のほうを見ていた。雨宮は目線をそらした。
「嫌いなもん?………ないよ?」
「あー、おねえちゃん嘘つき!」
「あねきは刺身食えねーじゃん!」
「ちょ、わざわざ言うことないでしょうが!」雨宮は妹たちに口を尖らせる。
妹たちはあっかんベーを返した。




