シーン23:頼りになるよ
先に断っておけば、別に寂しくない。姉と楊と美久と、四人家族で充分だ。
じゃあなぜ隣にいる陰気で猫背でうだつの上がらない人間を雨宮家に近づけようとしているのだろう。
ハガネが雨宮家に来ると。
――姉は楽しそうだ。
――美久は嬉しそうだ。
……楊はよくわからん。
あたしは、どうかな。よくわかんねーや。
「考えるのは柄じゃねーってやつかな」
「なに?」姉の作ったカレーを一心不乱に食べ続けていたインキヤローが、美羽の呟きに反応した。
「なんでもね―よ、あにき」美羽は霧崎にウインクをする。
「…ぼく美羽ちゃんの兄貴じゃねーよ」
「だって、ハガネは美久のおにいちゃんで、楊の兄貴で」美羽はニヤついた眼差しを雨宮に送る。「あねきの嫁だろ」
霧崎は動じず、「また美羽ちゃんはそういうこという」とただ笑顔だけを返した。
「てか美羽、嫁ってなによ」雨宮が霧崎と美羽の会話に口を挟んだ。「霧崎は男なんだから、普通婿でしょ」
「お、あねき認めたじゃねーか。ハガネはあねきの婿なんだな」美羽はケタケタと笑う。…しかし、実際この二人の関係はなんなんだかなー。
「それはおいといて………、雨宮さんは男っぽいからな」
「どこが男っぽいって?」
「漢気がある。なんとなく」
「な!ねぇ美久。そんなことないよね。おねえちゃん、つつましやかでおしとやかで奥ゆかしくて綺麗でかわいくて麗しくてスレンダーでお肌すべすべで(以下略)どこに出しても恥ずかしくない女の子だよね!」雨宮は美久に助けを求めた。
「長い!」霧崎が呟いた。
「んーそうだなあ。よくわかんないけど、おねえちゃんは頼りになるよ」美久は笑顔で答えた。ガン、と雨宮の上に岩が落ちた。
「はい、認定です。美久ちゃんからも雨宮さんの漢気は認められたと。いやぁ、ほんと雨宮さんは頼りがいのある漢ですなあ」
「いや、あねきほどの漢の中の漢はいませんからなあ」霧崎と美羽はニヤついた微笑を交わす。
「ん?ちょっと待てよ。美羽の言い方でいうと、霧崎は女っぽいってことになるよ。『嫁』なんだから」
「うんそうだねえ」霧崎は平然としていた。
「なんだよつまんねえな。あにきももっと反応するかと思ったのに」美久は落胆した。「女でいいのかよ」
「別にどうでもいいんじゃないスかねえ。男っぽいとか女っぽいとかなんだとかかんだとか。自分が自分であれればさ。ぼくはテキトーにだらだらやれりゃあ、それでいいよ」
ほう、と雨宮は感嘆の声を漏らした。「今はやりのバリアフリーというやつですな」
「ジェンダーフリーな。はやってるかはしらんけど」霧崎が訂正した。
「じぇんだーふりーってなあに?」美久が霧崎に訊ねる。
「さあ、よくしらないけど、女だから、とか、男だから、とか言うのやめましょうっていうこと。だから男でも嫁になれるし、女でも婿になれるし、男と男が仲良く手をつないでても『キモーイ』って言われなくなるってことさ。つまり、大きなお姉さんたち大喜びってことだね!」
「………。霧崎、なに言ってんの?」
「忘れてください」
「どうでもいいけど、あんたはもうちょっとシャキっとしな。背筋伸ばして顔上げて。見苦しい」
「いや…、自分が自分であればそれでいいんですよ………」
ウジウジした霧崎の態度に、雨宮家姉妹は顔を見合わせた。
「シャキっとしなさい!」




