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シーン22:食費!

「大丈夫?」霧崎が行ってしまうと、雨宮は改めて美久の怪我を気遣った。見れば、両膝に右ひじまで怪我をしている。この妹は少しばかりおっとりしているから、うまく受身も取れなかったのだろう。

「けど……、霧崎がいてくれてよかった……」聞けば、美久がこのような怪我をしているところに霧崎が通りかかったらしい。霧崎がいなければ、美久は一人自分の力で家まで帰り着かねばならなかっただろう。霧崎がいてくれてよかった。

 けれどどこか釈然としない。胸の奥に引っかかって取れないものがある。

 もしかしたらそれは、嫉妬のようなものかもしれない。美久の保護者は自分なのだという嫉妬。美久だけではない。美羽も楊も自分が支えてきた。自分独りで――。

 ――まあ、そんなことはどうでもいいか。

「大丈夫?もう痛くない?」雨宮は美久に怪我の具合を訊ねる。

「うーん。やっぱり、まだ痛いかな」

「だよね。でも大丈夫だよ。すぐ治る」雨宮は力づける。

「なあ、あねき。なんで今日もハガネが来てんだ?」横から美羽が話しかけてきた。

「カレーを作りすぎちゃったから」

「ふうん。じゃ、今日だけってことか」美羽は残念そうだった。

「どういうこと?」雨宮は訊ねる。

「もしかしたら、毎日くんのかと思ってさ。だったら――美久じゃねーけど、兄貴ができたみたいで楽しかったかもな」

「楊の立場ないね」楊も一応、二人の兄だ。

「そんなに好きなんなら、毎日でも呼ぼうか。ま、あいつ次第ってことになるけど」

「それいいね」

「ん。できるんなら」雨宮の承諾を得て、美久も美羽もうれしそうだ。

 やれやれ、ずいぶん好かれたものである、と雨宮は思った。美羽も美久も、霧崎を兄のように慕っているらしい。うちには本物の兄はいるが、それが楊では仕方がない。

 霧崎でも大同小異に思えるが、思いのほか、霧崎は面倒見がいいらしい。慕うのなら慕ってくれればいい。その分、自分の負担が減って助かる。いや、妹たちは負担でもなんでもないけれど。

「けど問題が一つあるなあ」雨宮はうーんと唸る。

「なに?」美羽と美久は姉の深刻な様子に強く身構えた。

 雨宮は人差し指をピンと伸ばし、鋭い口調で言い切る。

「食費!」

「食費?!」

「そう。マジな話、うちはそんなに余裕ないからね。あんたたちにこんな話するのどうかと思うけど、霧崎を養うだけの生活費はない。だから、霧崎が毎日うちに来るとしたら、食費は払ってもらうしか…」

 一介の高校生が、食費を払ってまで他人のうちの晩飯を食べにくるだろうか。

 妹たちは残念だろうが、あきらめてもらうしかない。

 と考えていると、霧崎が家事を終えて帰ってきた。

「お、いいところに霧崎。あんた、食費払って毎日うちに晩飯食べに来ない?」

「いいよ」即答だった。

「……………、え?」雨宮家の面々は、霧崎の返答のあまりの軽さに、唖然としている。

「あー疲れた。家事って普段しないけど、結構疲れるねえ」霧崎はソファに寝転がった。

「霧崎、食費、払うんだよ?」

「うん」

「月2万くらい払ってもらうよ?」

「うん」

「…。あ、そうかわかった」雨宮は手をたたいた。「あんたん家、金持ちだな?」

「いやだな雨宮さん。うちは貧乏でもないけど、金持ちでもないよ?」

「じゃ、いったいなんなんだよ。親に出してもらうってのか?子どもに他所ん家で晩飯食わすために、あんたの親は金払うのか?」そう、そもそも、霧崎には霧崎の家族があるのだ。にもかかわらず、毎日うちに来いというのだから、おかしな話なのだ。

「出さないだろうねえ。ぼくも出してほしくない」

「じゃ」

「どーにでもするよ。どーにでも」雨宮がしつこいので、霧崎は大きな声を出した。「だから大丈夫」力弱く親指を立てて見せて、微笑する。

「まあ………、あんたがそういうんなら、そういうことでいいけど………」雨宮は戸惑いながらも、了承した。

 霧崎は寝返りを打った。顔がソファの背もたれのほうを向き、雨宮家の三人を背にする形になる。「………、毎日ここに来れるんなら、どーにでも」と霧崎は誰にも聞こえないように呟いた。


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