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シーン17:自分以外の人間はみんな友達たくさんいると思ってない?

 隣を歩く男子の曲がった背骨を見るとため息が出そうになる。かなり不格好な姿勢だ。人生の疲れここに極まりといわんばかりに曲がっている。もう少し何とかならないだろうか。せめて背筋だけでも伸ばせば、霧崎の印象はかなり変わってくるだろうに。

「…そしたら人気も出るだろうに」

「人気?」雨宮の呟きに霧崎は怪訝な顔をしている。

「背筋伸ばして髪切ったら、あんたもモテるかもよ?」歩くのを止めて雨宮は冷やかしてみた。

「モテるぅ?」霧崎は頓狂な声を上げた。「な、な、なわけないじゃん。ぼくみたいな暗くて存在感なくて根暗で教室中に嫌な空気撒き散らして気持ち悪くて空気なやつ。も、モテるわけないじゃん」霧崎はモテるという言葉に意外と大きな反応をした。

「そこまで自分をおとしめるなよ。こっちが悲しくなる」雨宮は涙をぬぐう素振りをする。「にしても…」雨宮は不思議そうな目で霧崎を見つめた。

(…モテたい気持ちはあるのか)

「なに?」

「なんでもないよ」すぐに目を逸らして歩きはじめる。

「雨宮さんさあ。さっきの、カレー食べに行く話だけど…」霧崎も雨宮について歩きはじめた。

「なに?やっぱりママの手料理が食べたくなった?」

「いやいやいや。そうじゃなくて、ぼくでいいのかなあって」

「なに?『ぼくなんかじゃ、凛々しくて美しくて麗しい雨宮さまの手料理を食べる資格はありません』ってか?またひっぱたくよ?」雨宮は軽く手を掲げる。

「もうかんべん」霧崎は拝むような素振りをした。「じゃなくてさ。ぼくなんて呼ばなくても、雨宮さんなら誰か呼べるんじゃない?」

「誰かって?」

「雨宮さんの友達」

 雨宮は振り返って霧崎を見据えた。霧崎も驚いて立ち止まる。

「あんたさあ、自分以外の人間はみんな友達たくさんいると思ってない?」

「…いや」霧崎は少しだけ思案していった。「けど、雨宮さんにはたくさんいると思う」

 雨宮はまた振り返ると歩き出した。霧崎もついていく。

「それはさあ……、あたしだって友達はいるよ」雨宮は顔を上げて、空に話しかけるかのように話した。よく晴れた空だった。「何人かはね。けど、うちに呼べる人っていないかな」

「……へえ」

「うちには楊美羽美久がいるから、友達に余計な気使わせたくないしね。あたしは面倒見る立場だしさ。それに………」雨宮はうつむいた。「………親が家にいないって状況、人に見せたくない」

「雨宮さん?」

 雨宮が霧崎の方を向いた。笑顔だった。

「というわけで、うちに誰かを呼ぶなんて芸当、できないわけですよ」雨宮は明るい声で言った。

「雨宮さん。ごめん」

「ん?なんで謝る?」

「なんとなく」

 雨宮は、そ、というと、あとは黙ったまま歩いていった。霧崎もその性格らしく黙ったまま歩いていく。

「ん?」学校に着く手前で霧崎は気づいた。

「なんでぼくは雨宮家に入っていいんだ?」

「あ、そこに疑問がいった?」雨宮は悪戯っぽく目を細めた。「あんたはどうでもいいからだよ」

「…ひでえ」


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