シーン14:有無を言わさず
外は雨が小降りになってきたようだ。
楊は夕食を終えるとすぐに自分の部屋へ戻ってしまった。いつものことだからどうということもない。ただ、リビングから出るとき振り向いて、
「ゆっくりどうぞ、兄貴」と、いたずらっ子のような顔で言ってから去った。楊にも冗談をいうようなことがあるのだと、雨宮は驚いた。
「…それも霧崎がいるおかげかな」雨宮は呟いた。
「ん?」反応した霧崎に「なんでもないよ」と返す。
美羽も美久もリビングでテレビを見ている。本当は霧崎と遊びたいようだ。よく考えれば、美羽にも美久にもあまり構ってやってなかったな、と雨宮は思う。二人とも、構ってくれるおにいちゃんがいて嬉しいのかもしれない。これも、霧崎がいる効力といえる。
「雨宮さん。終わったよ。今日は鍋がなくて楽だねえ」当の霧崎は、雨宮の隣で皿洗いをしていた。別にいいと言ったのに、霧崎が「ご馳走になったのに悪い」と頑張ったのだ。律儀なやつだ。美羽と美久の相手をしてくれる方が雨宮にはありがたかったが、霧崎の意思を尊重して手伝ってもらった。
「…そういや、あんたの都合も聞かずに晩飯誘っちゃったけどさあ、おうちはだいじょうぶなの?」
「…さあ。メールはしておいたからだいじょうぶだと思うけど」霧崎はさっさとリビングに戻っていってしまった。
「…。そろそろ帰ろうと思ってたんだけど、そうもいかないみたいだねえ」リビングのテーブルの上には、トランプが配られた状態で置かれている。美羽の前に一組、美久の前に一組、もう一組配られているのが、霧崎の手札だろう。美羽と美久は、有無を言わさず霧崎と遊ぶつもりらしい。
「って、あたしの分がないじゃん!」
「あ、じゃあ雨宮さんがやる?」席につこうとした霧崎が言った。
「だめだよおにいちゃんはあたしたちと遊ぶの!」
「ハガネとやるために配ってんだからさ」美羽と美久は相変わらずステレオで即座に制止した。
「いや」霧崎は雨宮の方を窺った。雨宮は顔をうつむけて悲しそうな顔をしている。「ほら、お姉ちゃんが可哀相じゃん」
「おねえちゃんは宿題で忙しいから」美久が少し寂しそうに言った。そういって断られたことがあるのだろうと、霧崎は想像した。
「ていうか、雨宮さんに宿題があるってことは、ぼくにもあるってことなんだけど」霧崎は雨宮の方を向いた。「今日宿題あったっけ?」
「ない日の方が珍しいよ」雨宮は、霧崎があまり宿題をしてこない生徒であることを思い出した。「古典、数学、英語、日本史、化学。ほとんど全教科だね」
「ハガネはそんなもんしなくてもいいんだよ」美羽が決め付けた。霧崎は着席する。
「美羽ちゃんに命令されちゃ仕方がないね。ぼくのご主人様だからね。いや、ぼくは宿題やりたいんだよ?だけどご主人様の命令は絶対だからなあ」霧崎は嬉々としていった。
「…どっちにしろやんないくせに」雨宮はつぶやいた。




