不思議な図書館 ふぉっくすらいふ番外編 (短編:内と外の巫女)
見知らぬ林の中を彷徨い歩く二人。
霧のせいで視界も悪い。
「ねぇ、菊梨。」
「はい、なんでしょうご主人様。」
「ここ、どこよー!」
私の叫びは虚しく山に響いた。
~数時間前~
「うん! 現地民がいるのは心強いなぁ!」
「任せて。」
私、坂本 雪とペット?の菊梨はガイア2大都市の一つ、京都へ訪れていた。
秋奈町商店街の福引に当選するなんて、なんてラッキー!
そして偶然、同期生の猿女 留美子と出会ったのだった。
ここまで運がいいと、なんか事故にでも会うんじゃと不安もあるのだが。
「それにしても、家の用事って京都に来てたんだ。」
「うん、でも教えられない。」
「はいはい分かってますよ~」
両手を挙げてやれやれのポーズをする私。
というかこの子、巫女服で平然と町を歩いてるけど、いいのかそれで。
「ねぇねぇご主人様! どこ見に行きます!? 私は――」
「伏見。」
菊梨の言葉を留美子が遮る。
「いやですね、これ私達の新婚旅行なんですけど。」
「待ちなさい、なんで新婚旅行なのよ。」
全く、この狐は油断ならない。
いつ何を言い出すか分かったものじゃない。
「これから伏見神社に向かう。」
「うん、観光地としては有名なとこよね! ほら、菊梨は嫌なの?」
「嫌じゃないですけど、二人っきりがいいと言いますか……」
「こっち。」
私達のやり取りを無視して歩き続ける留美子。
「ほら行くよ!」
私は菊梨の着物の裾を引いて歩き出した。
―――
――
―
「それがどうしてこうなった。」
「理解不能、でもよろしくない空気。」
いやいや、現地民が分からんってどういう事よ!
「ご主人様、冗談抜きで宜しくないのですよ。」
「え、何々? 急なシリアス展開?」
唐突に二人が臨戦態勢、アレ的な気を感じるやつですかな。
一般人の私にはまったく分からないんですけど!
留美子は巫女服の袖から見慣れた霊銃を取り出す。
アンタの袖は四次元ポケットか!
霊銃ってのは、由美子の所属した組織が作った対霊、妖用の武器らしい。
どこまでが嘘か未だに分からない。
けっして指からでるビームではないよ!
「って、人影じゃん! おーい!」
「ちょっとご主人様!」
「あまてるちゃん、空気読んで。」
「なんで私が悪者みたいな扱いなわけ!?」
理不尽に2人に責められる私、なんてかわいそう!
ちなみに、あまてるちゃんとは留美子が私を呼ぶときのあだ名である。
ほんと謎。
「どうかなさいました?」
人影が声をかけてくる。
ほら、やっぱり普通の人じゃないの!
私は悪くありませーん、二人が反省してね!
そんなルンルン気分で人影に駆け寄る。
2人は相変わらず警戒しているのか、その場から動かない。
「実は迷っちゃって、帰り道とか分かります?」
「あらあら、それは珍しいですね。」
近くに寄ったおかげで人影の正体が分かる。
あら巫女服なんて着ちゃって、神社の巫女さんかな……
『あぁぁぁ!!』
私と人影の声が重なった。
――
―
「京都出身とは聞いてたけど、神社の娘だったとはね。」
「まさか貴方とまた出会う事になるとは……」
彼女の名前は八雲 瑠璃。
まぁ簡単に言えば商売敵? ライバル? そんな感じの相手だ。
今年の夏のコミマでは、売り上げ対決みたいな感じの珍事件まで発生した。
まぁそれはまた別の話だ。
とりあえずは、霧が晴れるまで彼女の家に避難させてもらう事になった。
留美子は険しい顔のまま、菊梨は頬を膨らませている――ちょっと可愛い。
「お父さん、ただいま戻りました。」
「ええい、たのもー!」
「なんであんたはそうなるの!」
ハリセンを全力で後頭部に叩き込む。
綺麗な炸裂音が家の中に響く。
「その偏った現代知識はいい加減どうにかしなさい!」
「躾不足。」
「うるさいわね!?」
「なんだ、やけに騒がしいな。」
少年? 少女? のような声が聞こえてくる。
「すみません、ご迷惑おかけします!」
深々と頭を下げる。
両手で2人の頭も無理矢理下げさせる。
「お前が友達を連れてくるなんて珍しいね。」
「だってお父さん、神域があるのに無理でしょう?」
「まぁその通りなんだけどね。」
しかしお父さんっていうわり――にぃ!?
なんてこった、こんな可愛い子が展開だと。
彼女が父親と呼ぶ相手は、超☆ロリであった。
身長は私よりも頭二つくらいは低い。
着物のようだが、やけに丈が短く生足が丸見えだ。
そして何より――
「ねぇ菊梨、あんたの友達?」
「……」
菊梨はノー反応。
だってあれ、狐耳よね。
紫のおかっぱ髪の上で、ぴくぴくと動いている。
「ふむ、そこの君は宇迦の眷属神かな。」
「ふぁい、その通りでございます!」
急にガチガチになる菊梨。
なんだこれ、何がどうした。
こっそりと留美子に耳打ちする。
「ねぇ留美子、あんた分かる?」
「私達、かなりまずいとこ来てる。」
「何その怖い返答。」
「圧倒的な神気、勝ち目ない。」
うん、別に戦う必要はないよね?
ホラ、ミンナ、ナカヨク。
「まぁ娘が連れて来た客人だ、中にどうぞ。」
にっこりと微笑んで中へと案内された。
――
―
「へぇ、趣味で図書館をねぇ。」
「色々と見聞きする事が多くてね、多くの物語を用意出来たのさ。」
「ほほぅ。」
菊梨は完全に私の背に隠れながら歩いている。
留美子は私の左手を握ったまま放さない。
まったくこの二人は、話してみればいい人なのに。
いや、人なのか?
「ちょっと玉耀! お酒まだぁ!」
並べられた席に飲んだくれがいた。
うん、これは私でも一目で人間じゃないと分かるな!
人間にはあんな尻尾と耳はない!
「やれやれ、まだ飲んでいたのか。 玉藻はどこに行ったんだ?」
「んぁ? なかなか来ない綾ちゃんを迎えに行ったわよぉ。」
しっかしお酒臭いなぁ。
一体どれだけ飲んだのだろうか。
「葛の葉叔母さん、少し飲みすぎですよ。」
「あーら瑠璃ちゃん! おかえりなさぁい!」
よっぱらい狐に抱擁される瑠璃ちゃん。
すごく、臭そうです……
「叔母さん、苦しいです。」
「こんなに大きくなって、お母さんに似ずに可愛いわねぇ!」
どうやら全く話を聞く気はなさそうだ。
その間に私達3人は適当な席についた。
「実は、今日は古い知り合いが集まる約束でね。 騒がしくてすまない。」
「いえいえ! 私達は無理矢理お邪魔した身ですし!」
「ん、おかしいわねぇ?」
酔っ払い狐は瑠璃ちゃんを解放し、私にロックオンしてきた。
サイドステップとかしたら、ロック外れるかしら?
「あんた達だれよ。」
「通りすがりの一般人です、はい!」
「違うわよ! なんで私と似たような匂いしてるのかって聞いてるのよ。」
気づくと目の前にいた酔っ払いは、扇子で私の顎を持ち上げていた。
あまりにも瞬時の事で、留美子も菊梨も反応出来ていなかった。
「え、えっと、何か怒らせる事しました?」
私は苦笑いでそう答える事しか出来なかった。
「まさか――ありえなくはないけど。」
「おいたはそれくらいにしておけ、葛の葉。」
「――分かってるわよ。」
そう言われると、私は解放された。
「ご主人様!」
「あまてるちゃん!」
二人が慌てて身体を支えてくれる。
流石に今のはビビったわぁ、視線で殺すってやつ?
「さてと、玉藻が戻るまで物語の一つでも語ってあげようか。」
「おぉー!」
何故か私だけしか拍手をしていない。
この流れ、早く変えなければ!
「どんなお話なんですか!」
「これはね、とある2人の巫女のラブストーリーだ。」
「わぉっ、お父様もそっち系がお好きなんですね。」
「いや、これを選んだ理由は――」
この親にしてこの子ありか、百合好きの家系恐ろしい。
「お父さん、その話って私の事じゃないでしょうね?」
「む、やはりバレたか。」
「ちょっ、実体験なの!?」
「実体験なら私だって!」
「だから、なんであんたはそこで張り合うの!」
まぁ少し元気が出たのはいいけど。
「昔々あるところに、2人の巫女がいました。」
「やめてってば!」
瑠璃ちゃんは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めている。
かわいそうだが、正直聞きたい!
「よし留美子、瑠璃ちゃんを拘束しなさい。」
「――任せて。」
背後から羽交い絞めにして拘束する。
うん、普通の人なら鍛えられた留美子からは逃れられない。
「では続きお願いしまーす!」
「うん、では続けようか。」
―――
――
―
巫女はそれぞれ神域の内と外に暮らしていた。
本来であれば、出会う事も叶わないはずだった。
だがある日、外の巫女は神域を抜けて中に入ってしまったのだ。
「こんにちわ。」
内の巫女は、初めて見る人間に興味津々だった。
外の巫女は、悲しみに暮れた顔をしていた。
「貴方はだあれ?」
外の巫女が訪ねると、内の巫女は笑顔で答えた。
「私は〇○、貴方は?」
「私は〇。」
互いに挨拶を交わすが、外の巫女は悲しそうに俯いた。
「貴方はどうして、そんなに悲しそうな顔をしているの?」
「お父様が、私をいじめるの。 だからお家に帰りたくない。」
「そうなの? じゃあうちの子になる?」
内の巫女にとっては何気ない言葉であった、しかし外の巫女にとっては天から差し出された救いの手だったのかもしれない。
「なりたい。」
「なら私達は姉妹だね!」
「……うん!」
その時初めて外の巫女は笑った。
当然、神域の外では騒ぎになっていた。
大事な一人娘が消えたのだから当然だ。
彼らの捜索が、神域に迫るのも時間の問題だった。
「どうか、娘をお返しください。」
外の巫女の父親が、現世と神域の境界を訪れた。
外の巫女は帰る事を拒否したが、そういうわけにはいかない。
彼女はどうしても帰らなければならないのだ。
「泣かないで〇、きっとまた会えるから。」
「じゃあね、指切りしよ。」
「うん、ゆびきりげんまん。」
「嘘ついたら、――もふもふくすぐり!」
「なにそれ! 指切った!」
こうして二人は、笑顔で別れた。
もちろん、内の巫女の父親は外の巫女の神域での記憶を全部消して。
―――
――
―
「ちょっと、バッドエンドじゃないのぉ……」
私はダラダラと涙と鼻水を流していた。
「ご主人様、はいチーン。」
「チーン!」
「――そろそろ疲れた。」
留美子はまだ羽交い絞めを続けていた。
「結局、二人は会えたんですか?」
「あぁ、会えたよ。」
「ならよかったぁ。 でも、外の巫女の記憶はないからそれってやっぱり……悲しいなぁ。」
そっかぁ瑠璃ちゃんってそんな経験してるのね。
我が宿敵に影ありか、宿敵かはさておき。
「なんじゃ? 騒がしいと思ったら客人かの?」
「おかえり玉藻。」
ついに瑠璃ちゃんのお母さん登場か。
わぁい九尾の狐だぁ、もふもふしたぃぃ。
既に私の思考回路はショートしているようだ。
菊梨も、人間への変化を止めてるし。
「ほんと貴方達、いつになっても変わらないわね。」
玉藻の後ろにはもう一人狐娘がいた。
なんというか、一人だけ纏っている空気が違う気がした。
「あら、また会えたわね。」
「え?」
「そっちのあなたも。 約束通りになったでしょ?」
「はい、お蔭様で。」
ん、この人は菊梨と知り合いなんだ。
でも、私も会った事あったっけ?
また会えたってどういう事だろ。
「やっと揃ったな、それじゃあ宴を始めようか。」
「えぇ、狐達の宴を……」
―――
――
―
「ご主人様。」
「ん、あと10分……」
「キスしますよ?」
「ひっ!」
耳元に囁く声で休息に意識が覚醒する。
「お目覚めです?」
「――お陰様で最悪の目覚めね。」
どうやら留美子におんぶされて運ばれているようだった。
「あまてるちゃん、胸のわりに重い。」
「おおきなお世話よ!」
ってあれ、私今まで何やってたんだっけ?
一緒に伏見神社に向かっててそれで……
「ご主人様、今日は楽しかったですね!」
「え、えぇ、そうね?」
「あまてるちゃん、はしゃぎすぎて寝るとか、子供みたいでかわいい。」
「ぐぬぬ……」
そっか私寝ちゃってたんだ。
ぜんぜんっ覚えてないけど!
「さて、この後は私とお夕飯、そして湯浴み、最後にはしとねを共にして――」
「はいはいすとーっぷ!」
「私も、一緒に寝る。」
「なんであんたも入ってくるわけ!」
「仕方ないですね、今日は共闘としましょう。 しかし! あくまで正妻は私ですからね!」
「正妻の位置は、いつか奪う。」
「私を置いて話を飛躍させるなぁぁぁ!」
田舎のおばちゃん、今日も私は元気です。
―――
――
―
「玉耀、浮かない顔ね。」
「全く、嫌な仕事だよ。」
玉藻と葛の葉は酔いつぶれて机にもたれて眠っている。
娘の瑠璃は部屋に戻った。
「それ、昔の事も含めてる?」
「その通りだ、同じ事をもう一度やらされたんだから。」
「彼女が入り込んだのはイレギュラーよ。 そもそも普通は神域と現世の行き来は出来ないもの。」
「それは分かっているさ。」
「初めての友達、ね。 私にも経験はある話だけどね。」
「そういえば、そうだったな。」
「きっと彼女達の運命は、もう一度交わる。」
「以前のようにか?」
「いいえ、そう決まってるのよ。 それは幸か不幸か、私には分からないけどね。」
「……」
少女は席から立ち上がる。
「もう帰るのか?」
「えぇ、これでも忙しいのよ?」
「頑張れよ、全知全能の神様。」
少女――綾香は手を振りながら図書館を後にした。
町外れにある不思議な図書館。
此度の開館もここまで。
次の開館は、小さな管理人のみぞ知る。
「ご主人様! 終わっちゃいましたよ!」
「えぇそうね。」
「ふぉっくすらいふの連載開始じゃなかったんですか!」
「そんなの私が知るわけないじゃない!(ハリセン叩き込み)」
「あぁぁん、痛いです。」
「私達が活躍するふぉっくすらいふの連載はもう少し先になるそうです。
待ってる方はごめんなさい!」
「今回の特別編は、少しだけ私達がどんなキャラかというのを紹介するための執筆だったそうですよ。」
「しかし結果として4/1に間に合わず、なんて筆の遅い作者。」
「私、とても悲しいです。 よよよ……」
「はいはい。 もう一つネタを仕込んでるらしいけど、それはいつなのかしらね。」
「それはご主人様の胸の成長くらい期待できませんね。」
「さーて、今日の晩御飯は狐汁かなぁ! あとは襟巻も作ろうかな!」
「それだけはどうかご容赦を!」
「それじゃあみんな、連載が始まったらまた会おうね!」
「私もがんばってOP歌いますね!」
「え?」