第一章 02-04
「いただきます。」
平日はこうやって家族全員で朝食をとるのが日課だ。同時に作って同時に食べて、同時に片付けるのが何よりも効率がよい。
「目玉焼きの塩とコショウとソースとしょうゆ、ここに置くね。」
「ん?」
と三女、
「私ソースでしょ、お父さんたち塩コショウだし、しょうゆは誰も使わないよ。」
「あ、そっか、しょうゆかけるのお兄ちゃんだったね。」
いつもどおりの場面だが、いつも窓際に座っていた席が1つ空いている。席の主は今頃目玉焼きにしょうゆかけて食べてるのかな、コーヒーも飲んでるかなと次女はふと思う。
そもそも、わからないことが多すぎる。普段から家族を大切にしてくれている長男がある日突然いなくなった。予兆も皆無でいつもの通り朝ごはんを取って各自学校へ向かった後帰ってこなかったのである。
数日間の学校行事での宿泊で外泊するときでさえ、行く前にいろいろと気にかけてくれていたのに、今回は行き先も何も言わずに突然なのである。
父曰く、語学勉強のため、欧州の方の国を転々と旅するから連絡は取れないとか、みんなに言うと寂しがるからあえて黙って行ったとか、一ヶ月くらいかなとか言ったが、そんな長期なのにスーツケースや着替えなどは全く持って行っていない。なんせ3ヶ月以上たった今でも、葉書の一枚も届かないのだ。
ドリップしたてのコーヒーの香りが広がってきた。お兄ちゃんは結構コーヒーにこだわりあって駅前の喫茶店でいつも分けてもらっている。
「ねぇお父さん。」
ミルクをいっぱい入れたコーヒーのマグカップを片手に三女が切り出した。
「なんだ?」
「お兄ちゃん、どこ?」
ぷはっと父親は飲んでいたコーヒーを噴出す。