第一章 02-03
道場に隣接する家は、庭に大きく面した明るいリビングダイニングがあり、朝の光が薄いカーテンを超えて部屋の奥まで降り注いでいる。
家の外見は古風な純日本風の家屋だが、その内装や家具はこげ茶色と白色に統一されてとてもすっきりとしており、シンプルで無駄がない。
ダイニングテーブル横のキッチンでは、幼少の頃に他界した母親の替わりに炊事全般を担当している次女が朝の準備に忙しい。
ふわふわのセミロング髪を大きめのバレットで無造作にまとめ、抜けるような白い肌に大きな真っ黒で垂れ目の瞳、華奢な身体に生成りのエプロンをかけている。
フライパンに卵を4つ割り入れ蓋をして目玉焼きをつくり、庭からつんできたハーブやレタスでサラダを作る。軽く焼いたトーストと玄米のおにぎりをテーブルの中心に並べ、先に焼いたベーコンを4つの皿に分け、少女はてきぱきと4人分の朝食の準備を整えた。
キッチンのシンクの前には腰高の長いスツールがあり、ここに身体を預けながら調理を行う。一連の動きは全く無駄がなく、手の届く範囲に最低限必要な調理器具が並び、全てが効率よく配置され、驚くほどの手際のよさで朝食の準備が整った。
「朝ごはんできたよー」
と、彼女は大きな声で家族を呼ぶと、両手で身体を支えながら移動し、車椅子に座った。
ほどなく鶯色の作務衣姿の父が席についた。 父は日本人離れした彫りの深い顔に濃紺の瞳を持ち、茶色のきれいなウェーブした髪を後ろでぴたりとまとめて結んでいる。視力は良いくせに薄い黒縁の伊達眼鏡をかけて、あえて年配に見せようとしている。眼鏡を外して髪をほどき、カジュアルな服装になれば、すらっとした均整のとれた身体と容姿でモデルと言っても通用するだろう。
とはいえ、外見に似合わず天然な性格がご愛嬌なのだが。
そして制服姿の長女、少し遅れてドタバタと三女がテーブルに着席する。