第一章 01-03
「もう大丈夫だ」
もう一度、先ほどより穏やかな声が聞こえ、少女はゆっくりと目を開けた。
真っ黒な長いブーツ、白い服には金の鎖とエメラルドのボタン、白く長いマントが風にひらひらとはためき、鮮やかな金色の髪に深い湖のようなブルーの瞳の男が少し微笑みながらこちらをじっと見ている。
その後ろに、薄茶色の長い髪の毛を風になびかせて大きな弓を持った美しい女、がっしりとした鎧に身を包み大きな鉄の盾とメイスを持った少し小柄な男がいた。開いたドアから銀色のマントに身を包んだ男が父親に肩を貸して支えながら出てきた。
「お父さん!」
少女は思わず駆け寄ると銀色のマントの男は
「少し治療が必要だけど命は問題ないよ。」
と言った。
その後ろから大きな身体の男が両手に魔物をぶら下げながら出てきた。
雲が途切れて月の光が静かに溢れた。
騒動を聞きつけたのか、いつしか家の周囲に手に手に鍬や鎌を持った村人たちが集まっていた。
金色の髪に白いマントの男が一歩前に出て凛とした声で告げた。
「民よ、この村の魔物はこの通り片付けた。もう大丈夫だ。」
母親が頭を下げ
「ありがとうございます」
と言うと、村人たちが口々に
「ありがとう、ありがとう」
と彼らにお礼の言葉を捧げた。
少女がぎこちなく白いマントの男のもとに行き、小さな声で
「ありがとう」
と伝えると、
「どういたしまして。ところで、明日の収穫祭の準備は進んでいるかな?」
と、白いマントの男は彼女に聞いた。少女は小さく首を横に振った。
男は周囲の人々に向かって
「私はこの国を魔物から守るために選ばれた勇者レグルスだ。メイスを操るグラウィ、弓使いのリベラ、力自慢のエッツィオ、魔術使いのロムアルドとでこれから魔物退治の旅に出立する。明日の収穫祭では城でわれらの出立パレードを行うことになっている。ぜひ皆にも来て欲しい。」
と大きな澄んだ声で告げた後、男はしゃがんで少女の目線に合わせて微笑みながら小さく言った。
「明日は君もいっぱいおめかししてお城まで来て欲しいな。」
少女はにっこり微笑むと大きく頷いた。
やさしい月明かりが周囲を包み込み
「勇者様万歳、レグルス様万歳」
の声が幾重にも響いた。きっと明日は晴天に違いないだろう。