第一章 01-02
とっさに母親は少女を引き寄せ、少女と母親は抱きしめ合ってガクガクと震えた。
音に気づいた父親が手に鎌を持って駆け込んで魔物の前に出た。比較的ガタイの大きい父親だが、魔物の大きさと力にはかなわない。
魔物の大きな長い手が鞭のようにしなり、爪が父親に襲い掛かってきた。倒れる寸前に父親は
「逃げろ!」
と叫び、母親は小さく
「はい」
とつぶやき、放心状態少女の腕をつかんで玄関へ向かい、外に出てドアをしっかり閉めた。
雲は厚く月明かりをさえぎっている。
暗闇の中に黄緑の大きな瞳が一対また一対と輝き、白いガウンを着た母親は黙って娘を自分の背に隠し、少女は母のガウンを握り締めながら震えた。
玄関のドアがゆっくりと開いた。
父親が魔物を倒して助けに来てくれたに違いない。
「お父さん...えっ?」
出てきたのは大きな長い毛むくじゃらの手と爛々と光る黄緑の瞳が二対。
少女はへなへなとその場に座り込んで頭を抱えて目をぎゅっと閉じた。もうだめだ、お父さんは殺されたし、お母さんも私もきっと食べられるんだ。
「ビシッ」
ドアの前の二体がゆっくりとこちらに近づこうとしたとき、矢の刺さる音が鈍く響いた。
「ギャア」
という魔物の声がして、一体がその場に崩れ落ちたと同時に、大きな鉄の塊のようなものが魔物の頭をザクッとつぶした。
魔物の背後から
「もう大丈夫だ」
と凛とした声が響いた。
刹那、キラリと剣が宙を舞い、胴を引き裂かれたもう一体の魔物は、前のめりにドサリと倒れた。