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愛憎のラプンツェル  作者: 銀ねも
第七話 結実
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生と死

 

 入浴の時に、適当な用事を言いつけてメイドたちを追い払い、リディだけを残す。他のメイドたちが戻ってくるまでの僅かな間に、ラプンツェルはリディから情報を引きだした。


 大事件が発生していた。リディでなくても、ブレンネン城に出入りする者ならば、誰でも知っているだろう。


 高い塔の家族は無関係だった。その点では、ラプンツェルの心配は杞憂に終わったのだが、良かったと、胸を撫で下ろすことはできなかった。


 入浴を終えたラプンツェルが寝室の扉を開けると、ニーダーがすぐそこで、うろうろしていた。無事に帰って来て良かったと、迎え入れられるのには、もう慣れっこだ。「浴室で転んだらどうする、同行させろ」と言い張るニーダーを説き伏せて、待て、をさせているのだが、その間ずっと、ニーダーは落ち着かないそうだ。


 ニーダーが両腕をひろげている。大袈裟な歓迎を、ラプンツェルはすり抜けた。面食らったニーダーに、ラプンツェルは問いかける。


「ルース公爵が亡くなったんですって? ルナトリアの旦那様の」


 ニーダーは眼を丸くする。両腕をぱたりとおろした。


「……誰が君にそんなことを?」


 ニーダーの声が低くなる。引き摺られるように、空気も冷たくなったようだ。ニーダーが眉を顰めて、唇の両端を吊り上げると、ぞっとするような冷笑が出来上がる。

 ニーダーは吐き出すように言った。


「以前もこんなことがあった。行儀の良い者を選抜し、君の侍女に取り立てたつもりだったが、下品なお喋り女が混ざっていたようだな」

「誰だっていいの。そのひとは関係ないよ。私が無理に聞きだしたんだからね。そんなことより、ルース公爵はどうして亡くなったの? ご病気?」


 一歩踏み込んで、強い眼差しで見上げると、ニーダーの瞬きが増えた。ラプンツェルは一度も瞬かない。


 ややあって、ニーダーは疲れたように眼を伏せた。大きく息を吐いて、話しだす。


「……毒杯を煽ったそうだ。ルース公爵は毒の収集家だった。蒐集品を用いた自決と見られている。遺書も残されていた」

「遺書には、なんて?」

「仮に君が故人であり、個人的な秘密に関わる事を、みだりに吹聴されたら嫌だと思わないか?」

「ルナトリアとノヂシャのこと?」


 この場合の沈黙は肯定の意味を持つだろう。ニーダーは早合点するな、と感情を排して言った。


「死に至る理由は、明記されていなかった。ただ、生き甲斐を失った、とだけ」


 明記されていない。それでも、推測はきっと正しいのだ。ラプンツェルは絞られたように痛む胸を押さえつける。指が小刻みに震えた。

 ラプンツェルはかさつく唇を引き剥がすように開いた。


「きっと……知っちゃったんだ。ルナトリアとノヂシャが特別な関係だってこと……それで、毒を……私のせいだ」

「それは違う」


 ニーダーは間髪いれずに否定する。長い腕が伸びてきて、ラプンツェルを胸に抱いた。 

 椿が香る、湿った頭髪に指を通しつつ、ニーダーは言った。


「もしも、ルース公爵が妻の不貞を知り、死を選んだとしても、それは君のせいではない。ルナトリアを招き、ノヂシャと関係を結ぶきっかけをつくったのも、二人が許されぬ関係だと知りながら、引き離さなかったのも、私だ。咎は私にある」


 ニーダーは一息つくと、宥めるようにラプンツェルの髪を撫でた。


「感じやすい君は、責任を感じると思った。だから黙っていたのだ。君に余計な心労をかけたくなかった」


 ニーダーはラプンツェルの頬に手を当て、顔を上向かせる。涙をいっぱいに溜めた双眸を見下ろして、ニーダーは困った顔で微笑んだ。


「君が自責の念に苛まれる原因となった行為は、善意で為したものだ。君は何も悪くない。心安らかに過ごしなさい。決して、一人でここを出てはいけない。ここにいれば、皆が君を守る。何も、心配はいらない」


(違うの、ニーダー。こうなったのは私の悪意のせい。あなたとルナトリアの仲を引き裂く為に、私がノヂシャをけしかけたの。ルース公爵がルナトリアの不倫にショックを受けて自殺したのなら、それは私のせいなんだよ!)


 ニーダーに優しく抱きしめられながら、ラプンツェルは己の罪深さに震えていた。


 告解することも出来ない罪の意識が、ラプンツェルの胸に雪のように降り積もる。凍えそうな体が暖を求めて、ニーダーにしがみついていた。


 ずるい女だ。自分のことが心底、嫌いになった。



次回から「第八話 狂気」に入ります。

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