嵐のあと
ピロートークというアレ、かもしれません(^-^ゞ
愛の試練は嵐のように、ラプンツェルを揉みくちゃにして過ぎ去った。ニーダーはまるで台風の目で、少しも乱れず、端然としていた。ラプンツェルはそれが気に食わなかった。
妃に似つかわしくない、幼い罵詈雑言を吐き散らかしたが、ニーダーはそれすら愛しそうに微笑む。それがまた癇に障って、ラプンツェルは始終、怒ってばかりいたように思う。
ニーダーは半ば強引に、本懐を遂げた。ラプンツェルは途中で恐れをなして、本気で逃げようとしたのだが、逃げられなかった。ニーダーが宣言した通り、歯止めが利かなかったようだ。利かせるつもりが、露ほどでもあったのかどうか、そもそもの疑問である。
事を終えると、腹を満たした獅子がごろごろと喉を鳴らすように、ニーダーは満足そうだった。ラプンツェルはニーダーの固い腕枕に頭を預けている。指一本動かすのも億劫なくらい、ぐったりしていた。ニーダーの甘ったるい顔を視界から締めだす為に、ラプンツェルは天井の模様を凝視していた。
「疑いは晴れましたか?」
あてこする声が掠れる。下腹部の疼痛と全身の倦怠感のせいで、気分は最悪だった。顔はおのずと険しくなる。ニーダーはラプンツェルの眉間の皺を、人差指で捏ねまわしながら、かわりに自分の眉間に、浅く皺を寄せた。
「私たちはこの時をもって、晴れて誠の夫婦となったのだぞ。第一声がそれとは……」
ラプンツェルはぎろりとニーダーを睥睨する。甘く愛を囁けとでも言いたいのだろうか。恥ずかしい思いと痛い思いをさせられて、やめてと懇願しても聞き入れられなかった。それで、機嫌良く甘えてみせろなんて、虫が良い考えである。
ニーダーは軽く首を竦めた。責められてみれば、身に覚えがあったらしい。いつの間にか、襟元のボタンまで、きっちりと留めている。自分ばかりがおかしなことになっていたかと思えば、ラプンツェルの機嫌は地を這った。
シーツを捲り上げてみる。転々と散る赤い斑点が目に入って、ラプンツェルの顔が歪んだ。ラプンツェルは投げやりな口調で言い捨てた。
「ちゃんと、初めてだったでしょ」
ニーダーも一緒になってシーツの中を覗きこもうとしたので、額をぐいっと押しやる。ニーダーはラプンツェルの顔を見て、素直にこくんと頷いた。それから、ちょっとだけ首を傾げる。
「それについて、考えてみたのだが……君の治癒力をもってすれば、処女膜の再生も可能なのでは?」
ニーダーは真顔で言い放った。ふざけていたとしても性質が悪いが、ニーダーは真剣そのものに見える。性質が悪いどころの話ではない。ラプンツェルは言葉を失い、口をぱくぱくさせた。
「あっ、あなた……あなた……!」
ラプンツェルが怒髪天を突く寸前に、ニーダーは小さく吹きだした。
「君を疑ってはいない。冗談だ」
冗談だとしても悪趣味だ。しかし、ニーダーがあっけらかんと笑うので、ラプンツェルは怒るに怒れなくなる。ぶすっと頬を膨らませ、寝がえりをうってニーダーに背を向けた。ぶつくさとぼやく。
「あなたが何処まで本気なのか、わからない」
拗ねていると、ニーダーの腕が伸びてきて、ラプンツェルの腹に巻きつく。ラプンツェルの耳元で、ニーダーが笑みを含んで囁いた。
「どうなのだろう。再生するのかな」
「……もう冗談はやめて」
「するとしたらどれくらいで?」
「お願いだから、ちょっと黙ってくれないかな」
「試してみなければ、わからないな」
「ニーダー……あなた、本当に頭がどうかしちゃったんじゃないの!?」
ラプンツェルは猛然と寝がえりを打ってニーダーの顔面に張り手をした。鼻頭を真っ赤になったが、ニーダーは愉快でたまらないといった具合で笑っていた。とにもかくにも、頭に来ていたので、ラプンツェルは、ニーダーを怖がることを忘れていた。体の自由が利いたなら、寝台から飛び出して、夜着の裾をたくし上げて部屋を出て行くところだ。
怒ったり、喚いたりするうちに、諸々の疲れがどっと押し寄せてくる。ラプンツェルがニーダーの腕の中で眠りについたのは、明け方だった。
その夜以来、ラプンツェルはニーダーと肌を合わせるようになった。抵抗はあるものの、仕方ない。これが義務なのだと自分に言い聞かせた。
復讐のためにも必要なことだ。しかし、ニーダーの嬉しそうな顔を見ていると、後ろめたくて、深くは考えられなくなった。
季節は移ろい、薔薇の花は枯れ落ちた。薔薇をなくした中庭で、茶色く干からびた枯れ葉が、かさかさと音をたてながら、木枯らしにふかれて舞い躍る。
そして、ラプンツェルのお腹に、新しい命が宿った。




