表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛憎のラプンツェル  作者: 銀ねも
第六話 暴露
66/227

異変と脅威2

 ラプンツェルは一番に、ノヂシャに足があるか確認した。死んでいるとは思っていなかったのだが、なぜか幽霊かと思った。


 ラプンツェルは弾かれるように立ち上がると、バルコニーに続く窓を開け放つ。ノヂシャは、ゆっくりと近寄って来た。


 ノヂシャに変わった様子は見られない。強いて言うなら、肩には小鳥がとまっているのに、胸ポケットは空っぽだ。質素な白いシャツから、痛々しい傷跡が透けて見えることを恐れて、ラプンツェルは目を固く瞑り、ぐいっと頭を下げた。


「ノヂシャ、ごめんなさい!」

「なんで謝るんだ?」

「だって、私……君たちに酷いことを……」

「俺と、誰に?」

「君とルナトリア」

「酷いこと? 俺は君に感謝してる。君が助言してくれたから、俺はルナトリアと仲良くなれた。それが、酷いことなのか?」


 要領を得ないノヂシャ。ラプンツェルがそろりと顔を上げ、片目を開けて見ると、ノヂシャは不思議そうに目を丸くしていた。

 気が重いが、仔細まで詳しく説明しなければならない。ラプンツェルは、重い口を苦労して開いた。


「ニーダーを東屋に連れて行ったのは……私なの。あなたとルナトリアが会っているところを、ニーダーに見せようと思って。言い訳になっちゃうけど、あんなことになるなんて、思わなかった。ごめんなさい、ノヂシャ」

「ああ、そのこと」


 ノヂシャは鷹揚に頷くと、こともなげに言った。


「知ってるけど」


 ラプンツェルは耳を疑った。信じられない思いで、ノヂシャを見つめる。ノヂシャは独特の自然体を崩さない。焦点が、夢と現実の間をふわふわと漂っているようだ。ノヂシャは悪くないとわかっていても、ラプンツェルは大きく溜息をついてしまう。無駄だと思いながら、ラプンツェルは訊いていた。


「どうして? 知ってたなら、どうしてルナトリアにキスしたの?」


 納得のいく返答はきっと得られないだろうと思った。ノヂシャは心が壊れているから、物事を、秩序を立てて組み立てることが出来ない。


 ラプンツェルの配慮が足りなかった。ドレスをぎゅっと握りしめ、奥歯を噛みしめる。

 すると、ノヂシャがにっと笑った。


「見てみたかったんだ。いつも強いニーダーの、弱いところを」


 漫然とした微笑みではない、入れ子のある含み笑いとともにノヂシャは言葉を紡ぐ。


「ニーダーのいい顔が見れて、満足してる」


 ラプンツェルには、言葉の意味するところがぴんとこなかった。喉にものが仕えたような違和感がある。それを落とそうとするように、ラプンツェルはふるふると頭を振った。


「ニーダーに一泡吹かせてやろうって、あんな無茶をしたの? 下手したら君は、殺されていたかもしれないんだよ?」

「そんなんじゃない。言ったろ、俺はニーダーが好きなんだ。それに、殺されやしないさ。ルナトリアは俺なしじゃ、もう生きていけないらしいんだ。ニーダーはルナトリアのことが好きだから、ルナトリアを死なせない。つまり、ニーダーは俺を殺せないってこと」


 ノヂシャはひょいと肩を竦めた。小鳥が飛びあがり、ノヂシャの頭のまわりをまわって、反対の肩にとまる。

 ラプンツェルは瞬きを繰り返した。ノヂシャがノヂシャでないみたいだ。ふわふわと浮いているようなところがない。しっかりと、地に足を付けて立っている。

 ノヂシャは唇の端を捲り、皮肉っぽく微笑んだ。


「それに、もしニーダーがかっとして、後先考えずに切りかかってきたとしても、ニーダーは止められた」

「止めるって、いったい誰が……」


 ラプンツェルの問いかけを、ノヂシャは目笑で受け止め、黙殺する。落ち付いているノヂシャは、いつもより大人びて見えた。怜悧にさえ、思える。

 ラプンツェルの混乱は深まった。


(どうしたの? このひと、本当にノヂシャ? なんだかおかしい。かわいそうなノヂシャがまるで、怖いひとみたい)


 ノヂシャはラプンツェルを流し見ると、小さく息を吐いた。


「ラプンツェル、君……まだ、ニーダーを憎んでるな」


 ラプンツェルはひゅっと息を呑んだ。虚ろだったノヂシャの瞳は、硬質な輝きを放っている。ノヂシャは、噛んで含めるように言った。


「好きになったら、君にもわかるさ。完璧なニーダーを歪ませると、すごくわくわくするぜ。俺たちにしか出来ない遊びだ」


 ラプンツェルは戦慄した。ノヂシャからは、透徹した悪意のようなものが感じられたのだ。


 ノヂシャは眉を片方だけ、器用に持ちあげた。笑顔さえまともにつくれない、不器用さが嘘のようだ。ノヂシャは零れるように笑うと、窓枠に手をかけ、ずいっと身を乗り出した。ラプンツェルの及び腰を抱え、額を寄せる。

 ラプンツェルの呼吸が止まった。唇に、ノヂシャの静かな息遣いを感じる。ノヂシャは切り口上で言った。


「ニーダーは君のだ、ラプンツェル。そう決まっている。君がニーダーを支配してくれるのを、俺は待ってる。ルナトリアと一緒に、待ってる。俺、もっと見たいんだよな。ニーダーの良い顔」


 それだけ言うと、ぱっと腰に回していた腕を解く。唖然としているラプンツェルに、あっさりと背を向けてた。

 去って行くノヂシャを、ラプンツェルは窓から身を乗り出し、慌てて呼びとめる。


「ノヂシャ……待って、ノヂシャ! 君が何を言っているのか、私にはわからない。わからないよ!」


 ノヂシャがゆるやかに足をとめた。肩越しに振り返る。ノヂシャの青い目が、爛々と輝いた。唇の端が耳に引きつけられる。鋭い犬歯を覗かせて、ノヂシャは言った。


「さっさと子どもをつくれよ、ラプンツェル。それが、君の復讐だろ?」


 絶句するラプンツェルを、それ以上顧みることなく、ノヂシャは生垣の向こうに消えて行く。屈みこんでいた覆面の騎士がむくりと立ち上がり、ノヂシャのあとに従った。


「待って、ノヂシャ……待ってよ」


 ラプンツェルはへなへなとその場にへたりこんだ。足ががくがくふるえていて、立っていられなかった。


 子どもをつくれ。ノヂシャは確かにそう言った。それが、君の復讐だろうとも、言った。そう聞こえた。間違いではない。ノヂシャは知っているのだ。話した覚えがない、ラプンツェルの思惑を。


(ノヂシャがどうして、私とゴーテルの約束を知ってるの?)


 ラプンツェルの心を覗きでもしない限り、知りようのない秘密だ。それを知っているのは、世界でたった一人、ラプンツェルだけなのだから。この世の何処を探しても見つからない、ゴーテルの魂を除けば。


 震えるラプンツェルの髪に、黄ばんだ花弁がはらりと落ちかかった。


次回から新章です。気合いをいれ直して頑張ります……!


もちろん、楽しみながら(^-^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ