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愛憎のラプンツェル  作者: 銀ねも
第六話 暴露
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告白3

(どうして今更、そんなことを言うの。もう、遅すぎるよ。ニーダー)


 なぜ、今の今まで話してくれなかったのだろう。高い塔に求愛に通っていた頃に、言うわけにはいかなかったのだろうか。


(私が……聞こうともしなかったから?)


 ラプンツェルはゴーテルに恋をしていた。高い塔の家族を愛していた。

 だから、高い塔を離れて、ニーダーと結ばれるなんて、考えられなかった。

 だから、ろくに彼の話を聞きもしなかった。ニーダーの求愛に耳を傾けること自体が、恋心への裏切りだと、思っていたからかもしれない。


 そうだとしても、ラプンツェルはニーダーの恋心を、粗末にし過ぎていたのではないだろうか。彼が差し出した綺麗なものを、見もしないで塵だと決めつけて、叩き落したのではなかっただろうか。


(でも、だからと言って、ニーダーがしたことは許されないことでしょう?)


 いくら、大切な想いを踏みにじられたからと言って、ラプンツェルと高い塔の家族を逆恨みして、暴挙を働くのは許されないことだ。でも、ニーダーがその方法しか知らなかったのだとしたら?


(だとしても、それはニーダーが知ろうとしなかったからだ!)


「あなたは、あなたのお父さまに倣っている。どうして?」


 ラプンツェルは思いきって訊ねた。ニーダーは少し考えてから、答えた。


「あの頃は……母を苦しめる父は、どうしようもなく間違っていると思っていた。……だが、正しかったのだろう。父は母に愛された。愛されなかった私が、間違っていたのだ」

「あなたが間違えているのは、その考え方だよ」


 ラプンツェルはぴしゃりとはねつけるように言った。ニーダーの腕を払いのけ、立ち上がる。足元が危うい。震える体を抱きしめて、ラプンツェルは叫ぶように言った。


「どうしたら愛されるかじゃなくて、どう愛したいか。それが大事なんじゃないの? たとえ間違っていても、あなたの愛をあなたのやり方で、精一杯伝えなきゃいけなかったんだよ。お父さまの真似なんかして、どうなるっていうの。どうすればいいのかわからなくて……人の真似をしたり、人の言い為りになったり……誰かに頼ってばかり、そんなの情けないと思わない!? それくらい、自分で考えなさい! あなたのことなんだから!」


 最後は悲鳴のようだった。保身に走り、打算を働かせ、取り繕う余裕がない。ラプンツェルの心の中は、ぐちゃぐちゃに掻き乱されていた。


 ニーダーが悪い。ニーダーが憎い。それは確かなことだ。

 だが、はたして、悪いのはニーダーだけなのか。憎むべきはニーダーだけなのだろうか。わからなくなってきた。いっそのこと、ニーダーが逆上して暴力をふるってくれたら良いと思う。そうしたら、ラプンツェルはこれ以上、惑わされなくて済む。


 しかしニーダーは、声を荒げることさえしなかった。


「父のやり方に倣ったのも、ルナトリアの教示を受けたのも……情けないだろうが、しかし、私の意志だ。良かったのも、悪かったのも、全て私だ。君が私に抱いている情念には、父もルナトリアも関係ない」


 ニーダーの返答を聞いて、ラプンツェルは笑いだしたくなった。けれど、とても笑えなかった。ラプンツェルは乾いた声で訊ねた。


「責任転嫁をしない潔さを、私に見せつけているつもり?」

「君が抱くどんな些末な感情でも、私の他に向けたくないだけだ」


 鋭くニーダーが切りかえす。幼稚な独占欲を、堂々と宣言されてしまい、ラプンツェルの激情は着地点を見失ってしまう。


 ニーダーがラプンツェルを愛するようになったのは、ラプンツェルが抱えきれないほどもっていた、幸福が欲しかったから。ニーダーはラプンツェルを、幸福への手がかり足がかりだと思っているに過ぎない。


 そんなものは愛とは呼ばない。そう切り捨ててしまえたら、どんなにいいだろう。笑顔が見たい、歌が聞きたいと語る彼の愛しげな眼差しを疑えたら、どんなに楽になれるだろう。


 ラプンツェルは振り返るやいなや、ニーダーの胸に飛び込んだ。うろたえるかと思ったのに、ニーダーは存外に冷静に、ラプンツェルを抱きとめる。


 ニーダーの体はやはり熱くて、とけてしまいそうだ。とけてニーダーと一つに混ざり合ってしまう。

 ラプンツェルはニーダーの耳元で、問いかけた。


「ニーダー……ここは地獄ね?」

「違うよ」


 ニーダーはラプンツェルをいっそう強く抱きしめる。


「君がいる」


 その声があまりに穏やかだったから、ラプンツェルは涙が出た。


(私が傷ついた幼いあなたに気が付いていたら、私たちは何かを変えられた?)


 ラプンツェルは泣きながら、不思議な歌を唄った。ふつうに歌ってもひどいラプンツェルが、泣きながら歌うと、とてもひどいものだったが、ニーダーはバカにして笑ったりしない。ひどく安らいだ顔で目を閉じていた。


 ラプンツェルとニーダーは、ずっとそうして抱き合っていた。二人とも、相手を抱きしめてあげられるだけの大きさがないから、半分ずつ、抱きしめ、抱きしめられていた。



『憎悪のラプンツェル』から『愛憎のラプンツェル』にやっと、変わり始めました。このままほだされそうなラプンツェルですが、周りが黙ってません。 


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