きれいなひと
ニーダーとルナトリアが並ぶ姿は絵になる。二人の為に、日差しはいっそう眩く輝き、白薔薇はいっそう艶やかに咲き誇る。なにもかもが、二人を結びつけようとしているようだった。
そして、ルナトリアがこの宝石のようなひとときを、大切に愛おしんでいることが ラプンツェルには伝わって来た。ラプンツェルは疑念をもたずにはいられない。
(……どうして、あの女性じゃなくて、私なんだろう)
ルナトリアといるとき、ニーダーは支配欲も狂気も、欠片も匂わせない。健やかな空気が、のどかに微笑むニーダーを取り巻いている。
鉤の部屋で、狂愛をぶつけられたのは、悪夢だっただろうか。現実感が色褪せていく。
ラプンツェルはふらりと居上がった。この場に留まっていても、しょうがない。足元を見つめたまま、足音を忍ばせてそっと踏み出す。
その時、ひそやかな声がそう言った。
「……今日もきれいだ」
ラプンツェルは咄嗟に口元を両手で押さえ、辛くも悲鳴を押しとどめた。どきどきと鼓動する心臓を押え宥める。いつの間にか、ノヂシャが傍に来ていた。生垣の隙間から、東屋を覗いている。
ノヂシャの肩の上には小鳥がとまっており、胸ポケットからネズミが顔だけ出している。ネズミは鼻をひくひくさせながら、跳ねまわる小鳥を気にしている。
ノヂシャは東屋に注目したまま、顎をしゃくって言った。
「ルース公爵夫人、ルナトリア・アルル・ルース。ニーダーの従妹で、唯一人の友達」
ラプンツェルは、ぐるりと周囲を見回した。気付かないうちに、隻眼の騎士が忽然と姿を消していた。そのかわりに、覆面の騎士が黒々と縮こまっている。
(ニーダーの傍にいないなんて、珍しい。どこで誰についていようと、気味が悪いことに変わりは無いけど)
ラプンツェルは覆面の騎士を一瞥して、ノヂシャの傍に屈みこんだ。素通りしてしまっても良かったのだが、ノヂシャはラプンツェルに話しかけたようだし、それに、気になることを言っていた。
ノヂシャの熱っぽい眼差しの先には、ルナトリアがいる。ラプンツェルは小首を傾げた。
「あなたも、彼女の友達?」
「友達……」
ノヂシャの呟きは寝言のように、ぼんやりしている。
「あんなきれいなひとと、友達に……どうしたら、なれるんだろうな……」
寝惚けているのではない。腑抜けいる。ラプンツェルはやや鼻白みつつ、友達ではないのね、と結論付け、疑問を重ねた。
「話したことはある?」
「……ある。ヨハンとマリアも一緒に」
それは意外、とラプンツェルが口を滑らせる前に、ノヂシャは小さく「想像のなかで」と付け加えた。
沈黙がずっしりと重くのしかかって来る。
ラプンツェルが何も言えないでいると、ノヂシャがすっと腕を持ち上げる。生垣の隙間を指さした。
「ルナトリアとニーダーは、いつもあそこで話しをする。だから俺、このあたりをうろうろするんだ。いつ、彼女が来ても、見逃さないように」
お気の毒、と思いながら耳を傾けていたラプンツェルだったが、気の毒と言うのも、違う気がしてきた。ノヂシャは行動可能な範囲内で、こそこそとルナトリアを付け回している様子。ありていに言えば、気味が悪い。
ラプンツェルから胡乱な者を見る目で見られても、ノヂシャは気にならないようだ。いつになく滑らかな話しぶりである。
「ルース公爵家に嫁いでからは、とんと姿を見せてくれなくなってた。四日前、随分久しぶりに来てくれたんだ。今日も来てくれた。頻繁に彼女を見れるようになって、嬉しい。君のお陰だ」
こちらを見もしないノヂシャに感謝されて、ラプンツェルは複雑な気持ちになった。「どういたしまして」と一応は返礼するけれど、案の定、ノヂシャは既に会話を打ち切って、覗きに全神経を集中している。小鳥に耳殻を啄ばまれても、知らん顔だ。
ラプンツェルはしばらく、黙って付き合っていた。タイミングをはかっていたのだが、いつまでたってもノヂシャの集中力が切れる素振りはない。ラプンツェルは何気なさを装って、ノヂシャに訊ねることにした。
「ルナトリアは、ニーダーが好きなのかな?」
言ってから、何か前置きしてから訊けば良かったと、少し後悔する。
(別に、ニーダーが誰に好かれようが嫌われようが、知ったことじゃないけど。ただ、あんな悪魔みたいな男に騙される女性が、気の毒だから……ちょっと気になるだけなんだ)
心の中で呟くと、言い訳のように聞こえてしまい、うろたえる。ノヂシャは、冷めた目でラプンツェルを一瞥した。
「君も……くだらないことを気にするんだな」
何か言い返そうとした唇に、ノヂシャが人差指を押しあてる。しっ、と短く言い、ラプンツェルを手招いた。




