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愛憎のラプンツェル  作者: 銀ねも
第四話 朦朧
32/227

陽の下へ※挿し絵付き

挿絵(By みてみん)

おつかれぴーぽー様に頂戴しましたイラストを飾らせて頂きました!


 ***


 『君がずっと傍にいてくれるように、ここを君の夢のようにしたいんだ』


 ニーダーがそう言った途端に、ラプンツェルの地獄はひっくり返った。


 塵ひとつ落ちていない清潔な絨毯。ぱりっと糊のきいたシーツ。清々しい朝。生れたての朝日を浴びて、信じられないような一日が始まる。


 妖精の女王が身に纏うような、美しいドレス。

 目でも舌でも愉しめる、贅を尽くした素晴らしい食事。

 庭師が丹精こめて作り上げた、夢か幻のような庭園。

 呼び鈴を鳴らせば、御用向きは? と畏まって現われる、よく気がつくメイドたち。


 すべて、ラプンツェルの為に用意されている。ラプンツェルにとって、好ましいものだけで作り上げられた生活。もちろん、暴力などない。招かれざる無礼者が、ずかずかと部屋に入ってくることも無い。


 ニーダーの傍にいると誓って、五日がたつ。背中の傷はすっかりよくなった。


 ニーダーは未だ、姿を見せない。

 快適な日々を、ラプンツェルは鬱屈として過ごしていた。


 ラプンツェルがニーダーの傍にいると決めたのは、一重にゴーテルの為だ。しかしそんなこと、ニーダーは知らない。

 ニーダーはラプンツェルの嘘を鋭く見破るけれど、心の中まで覗きこめるわけではないのだ。ラプンツェルは、嘘は付かなかった。本当に肝心なことを言わなかっただけだ。

 ラプンツェルに憎まれていても、傍にいれば良い。そう妥協したのはニーダーである。


 それなのに、ニーダーはまたしても、ラプンツェルを避けるようになった。


(懐柔されたふりをして、また、私を罠に嵌めようとしているのかも)


 勘繰ってみるものの、わからない。なぜ、ニーダーがラプンツェルを避けるのか、皆目見当がつかない。


(ニーダーのことなんて、わかりたくもないけど……わからないと困るんだよね)


 ラプンツェルはニーダーの妻、ブレンネンの妃になったのだ。籠の鳥に、身を落とした覚えはない。ニーダーの子を産む為にも、雲隠れするニーダーを、そのままにしておけない。 


 ラプンツェルは好きなときに好きなことが出来る。だからと言って、なんでもできるわけではない。ニーダーには、会えないのだ。


 ニーダーに会いたいと言うと、メイドたちも、親衛隊の騎士たちも、困ってしまうようだった。隻眼の騎士をつかまえて詰めよってみたが「陛下にも、お支度が御座いますれば、もうしばらく、お待ちください」と繰り返すだけだった。


 書庫にこもって本を読んでいたが、それももう、飽きてしまった。ニーダーのことが気がかりで、活字が頭に入らない。


 爽やかな朝。窓の向こうの、すこぶる快活な太陽を見上げて、ラプンツェルは表に出たくなった。庭園を散策することに決める。隻眼の騎士が距離をとってついて来ているが、あまり気にしない。


 素晴らしい庭園になかなか足が向かなかったのは、ノヂシャのことがあるからだった。ノヂシャは庭園を夢遊病者のように徘徊しているらしく、庭園をうろつけば、ノヂシャとはち合わせる可能性が高い。ノヂシャとはあまり顔を付き合わせたくなかった。零落した自分自身を鏡にうつしたようで、恐ろしく、やりきれない気持ちになってしまう。


(……いざはち合わせたら、挨拶して通り過ぎればいいのよ。私はお散歩するんだから)


 そうひとりごちて、ラプンツェルは庭園に出た。


 白薔薇の生垣がつくる壁は、迷路のように入り組んでいる。ちょっとした気晴らしのつもりの散歩だったのに、ラプンツェルはすっかり夢中になった。


 陽の光が眩い。緑と土の匂いがする。風が冷たい。

 高い塔の窓辺から、それらを感じることはあった。しかし、実際に陽の下に出ると、もっと多くの刺激がある。

 陽の光は匂いがする。緑と土には温もりがあり、風には色がついている。雲と鳥は、青空をそれぞれの速さで飛んでいく。五感で感じる、全てが新鮮な驚きに満ちている。


(なんて素敵!)


 咲き染めの薔薇を指先で弄びながら、ラプンツェルの足取りは、浮かんでいくかのように軽かった。


 しばらく歩くと、生垣の向こうに、蔦薔薇を絡ませた白亜の迫持ちが聳え立っているのが見えてきた。ラプンツェルは好奇心の赴くままに、そちらへ向かった


 先の方で生垣が途切れている。ラプンツェルは生垣の端っこまで進んでみることにした。生垣の影から奥を覗き込んでみる。迫持ちの向こう側には、茫洋と広がる純白の花屋敷があった。

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