苛立ち
半狂乱になって部屋中を逃げ回り、目につくものを手当たりしだい、ニーダーに投げつけた。腹を立てたニーダーに繰り返し殴打され、長い髪を掴まれ、引き摺り回された。動けなくなると覆面の騎士によって、鉤のある部屋に担ぎこまれた。
そして、夜通し鞭で打たれた。ニーダーはラプンツェルを鞭打ち、求愛し、罵倒し、脅し、限界まで追い詰めて、夜が明けると、背負って部屋に送り届ける。ラプンツェルは狼狽して泣くばかりだった。
傷つけられ、捨て置かれ、傷が癒えればまた傷つけられる。
ニーダーが、被虐者をうっかり責め殺してしまう、愚かな苛虐者で無かったことは、ラプンツェルにとって不幸だった。
新しい暮らしの仕組みを理解したラプンツェルは、生れて初めて、本当の意味で死を望んだ。家族のことなんて、完全に頭から抜け落ちていた。
以前、メイドに飾らせた花瓶に目がとまる。活けられていた花を捨て、床に叩きつける。花瓶の破片で心臓を抉りだそうとしたのだ。
物音を聞きつけ、部屋に飛び込んできた親衛隊の騎士に取り押さえられ、自殺は未遂に終わった。
「見なかったことにします」
隻眼の騎士は、ラプンツェルの耳元でそう囁いた。
「王妃様の御身が危うくなれば、ご家族も、お世話係のメイドたちも、護衛の私どもも、皆命がないのです。どうか、お心を強くお持ちください」
ラプンツェルを長椅子に腰かけさせると、隻眼の騎士はメイドを呼びつけた。
「すぐに片付けろ。王妃様にお怪我はないが、今後、王妃様に危険を及ぼす可能性のあるものを、この部屋に持ち込むな」
メイドたちが、てきぱきと片づけをする。こそこそと、大理石を掘った置時計や、先端のとがった簪などを、エプロンに隠しているメイドもいる。
ラプンツェルの腹の底から、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
(殺される? それがなに? 私なんて、死を自ら望むような、散々な目にあっているのよ。どうして私が、あなた達の為にこれ以上、我慢しなきゃいけないの? 自分たちの都合ばかり押し付けて、私はどうなるの?)
憤りが突沸して、ラプンツェルは憤然と立ち上がった。いくつもの視線が、ラプンツェルに集まる。
結局、喚き散らすことはしなかった。メイドたちの怯え疲れきった、青白い顔を見ていると、癇癪など起こせなかった。




