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愛憎のラプンツェル  作者: 銀ねも
第十五話「回帰」
148/227

「俺を選んで」

男性同士の親密な接触と暴力描写を含みます。ご注意願います。

 

 馬鹿げたことを、と諌める言葉は喉奥で潰えた。


 ノヂシャの牙が夜着の肩布に噛みつき、絹は甲高い悲鳴を上げて裂けた。露わになったニーダーの石の心臓を、ノヂシャはすかさず咥える。神経を鋭い刃で切り裂かれる激痛に襲われたニーダーの体はのたうち、ノヂシャの固い膝をさらに深く鳩尾に食い込ませた。


 嘔吐きながら、ニーダーはノヂシャの肩を押し返そうと試みる。ところが、拒絶に力を込められない。ノヂシャはびくともせず、ニーダーの石の心臓の輪郭を、尖らせた舌先でなぞっている。甘露を堪能するようにねっとりと舐め上げたかと思えば、軽く歯を立て、苦痛と恐怖を隠しきれず痙攣するニーダーの背を撫で擦り宥める。口唇で執拗な愛撫を施す合間、ノヂシャは微笑んで固く目を瞑り耐えるニーダーに語りかけてくる。睦言を囁くように、蠱惑の甘さを纏わせて。


「あんたが欲しい。狂おしいくらい、あんたを求めているんだ。今すぐに奪いたい。あんたの、すべてを、俺だけのものにしたい。なぁ、ニーダー。俺のものになって、俺の愛を受け容れて……一緒に、死のう」


 塞ぐ瞼をこじあけ、ノヂシャの笑顔を見上げる。ニーダーを甚振る加虐者の笑顔は、しかし、嗜虐の愉悦とはまるで無縁に見えた。無垢な喜びに満ちて輝く白い顔は、幸福な終焉を信じて疑わない。燦然と輝く未来には目もくれず、ノヂシャは手許に引き寄せた死の虜になっている。


 ニーダーは頭を振った。死にたくないし、死なせたくない。ノヂシャだって、本当に死にたいわけではないだろう。ニーダーがノヂシャの献身を拒んだから、ノヂシャは自棄になってしまっただけ。

 ニーダーは嗄れ声でノヂシャを説き伏せようとした。


「死に急ぐな。お前は愛を錯覚しているのだ。お前のそれは、私の暴虐がお前の心を歪ませた、妄執に過ぎない。生きていればいつか、お前にもわかる時が」


 来るだろう、と続ける言葉は唇を覆うノヂシャの掌に遮られる。ノヂシャの手は、父王の手と同じように熱く、大きく、力強かった。


「言うな、それ以上。俺はあんたが欲しいだけで、別に……惨い真似をしたい訳じゃねぇんだ」


 ノヂシャは地を這う呻きを漏らす。ニーダーは唇を震わせた。言葉は無かったけれど、ノヂシャは掌に伝わる震えが許しがたいらしい。憤りと悔しさが、長い前髪の影、きつく寄せた眉の下、尖らせた瞳に閃いている。


「まだ、言うか? 俺の愛は、愛じゃないって? この期に及んで、俺の愛を否定するなんざ……俺に言われたくねぇだろうが、正気を疑うぜ」


 ノヂシャは不快さを露わにして唾棄した。


「信じられないのか? 壊れるくらい愛しているのに、ちっとも伝わっちゃいねぇって言うのか? ありえねぇだろ……畜生が。そんな憎まれ口、二度と叩けないようにしてやりてぇな」


 ノヂシャの手の甲に青白い血管が浮かび上がる。ニーダーの顎骨が軋み、耳の奥で砂を噛むような音がした。ニーダーは苛立つノヂシャを見つめた。想いを伝えることが儘ならず、歯がゆさに奥歯を噛みしめる。

 ノヂシャの失望は手に取るようにわかる。ニーダーもかつては、母の非情を嘆いた。


『どうして、信じてくださらないのですか? どうして認めてくださらない? どうして、分かってくださらない……!? 僕が、誰の為に……誰のせいで……!』


 母を深く愛していたから、揺り返しは殊更に大きかった。母を愛しているから、母の為なら、悲しみも喜びに、地獄でも天国に変わると信じていたのに、母その人に愛を否定されてしまって、ニーダーは絶望した。


 ノヂシャも同じ絶望の淵を覗きこんでいると、わかっているのに、ニーダーには打つ手がなかった。どんなに優しさと誠意をこめた言葉も、上滑りして届かないことが分かり切っている。


 今のノヂシャの望みは唯一つ。ニーダーが彼の愛を受け容れること。弟の望みを叶えてやりたくても、それだけは決して、出来ない相談だった。ノヂシャの幸せを諦めてしまうことになるから。


 ニーダーの手は、ノヂシャの肩を押し返して拒むことも、背を抱いて受け容れることも出来ず、ぱたりと地におちた。


 不意にノヂシャの掌が口元を離れ、熱く湿りこもっていた吐息から解放される。不可視の糸に吊り上げられるように、ノヂシャが顎を逸らす。ノヂシャはけたたましく哄笑した。


「良いさ、何とでも言え! 否定でも拒絶でも侮蔑でも、なんでも、好きなようにするが良い! だがな、あんたが何と言おうが、俺の愛は揺るがないぜ。あんたを愛する心が、俺そのものだ。あんたを愛している。あんたが、俺を弟でいさせてくれるから……もう迷わない。俺は何も怖くない!」


 気が触れたように叫ぶノヂシャの指がニーダーの右肩を掻き毟っている。溺死寸前でもがき苦しみ、必死に手がかりを探し求めるような、鬼気迫る形相で。荒々しい語調とは裏腹に、目尻には涙を浮かべていた。ニーダーは突き放すことを躊躇い、苦痛を堪えた。刹那の甘さはノヂシャを増長させるには十分過ぎた。


 ノヂシャはニーダーの頭を抱え込むと、首を捩じ切らんばかりの力と勢いで、左肩に押し付ける。曝け出された首筋に、ノヂシャはすぐさま食らいつく。牙の鋭さは張り詰めた皮膚の弾性に競り勝ち、食い破った。焼けた鉄の楔を打ち込まれたような衝撃に四肢が跳ねる。

 ニーダーは地を蹴り、足掻いた。ノヂシャの後ろ髪を鷲掴み、渾身の力をこめて引き剥がそうとしながら、喀血するように怒鳴りつける。


「よせ……やめろ! 血迷ったか、ノヂシャ!」


 肉を食い千切られるかもしれない。動物的な恐怖が怒声を上ずらせる。髪を強く引っ張ると、ノヂシャは煩わしそうに呻き、顔を上げた。血塗れの唇が肉片を咥えていない、或いは肉片を咀嚼、嚥下していないことが、信じられないくらい、噛み痕は灼熱の痛みを訴えている。

 目を白黒させるニーダーを見下ろして、ノヂシャはゆっくりと、血まみれの唇を見せつけるように舌なめずりをする。肩を竦め、飄げてみせた。


「何を今更。俺はとうの昔に、狂ったのさ。あんたが狂わせた。よくも俺を狂わせたな。いや、よくぞ狂わせたと言うべきか」


 ノヂシャは朗らかに笑う。底抜けに明るく煌めく瞳が、ニーダーを食い入るように見詰めていた。ノヂシャの指が石の心臓のすぐ隣にある、ついさっき、彼が刻みつけた噛み痕をなぞる。溢れだす血を指先に纏わせると、青い瞳が危うい喜悦に蕩けた。


「愛が溢れて……ほら。もう、止められない。俺はあんたを喰う。心臓だけじゃない、あんたの全てを。喰らい尽くせば、俺の血肉になる。あんたは永遠に、俺のものになるしかない」


 右肩を抉った傷が痛覚を軋ませる。ノヂシャの狂愛に起因する独占欲は過たずにニーダーに伝わった。それをじわじわと心に沁みとおり、焼けつく酸のような畏怖となってニーダーを蝕んだ。


 ノヂシャは本気だ。自棄になって、無茶苦茶しているわけではなく、本気なのだ。本気でニーダーを喰らい尽くし、体に取り込むことで、我が物とするつもりでいる。


 ノヂシャの箍は外れてしまった。ニーダーが外してしまった。躍り出た怪物が、ニーダーに飛びかかり、心臓に牙を突き立てている。ニーダー自身がつくりだした、恐ろしい怪物が。


 ノヂシャがニーダーの顎に手をかける。びくりと震えてしまえば、怯む体に歯止めが利かない。折檻を待つこどものようにまごつくニーダーに、ノヂシャは微笑みかける。怯えた仕草を眼差しで愛撫して、ノヂシャは優しいといって差し支えない声調で囁いた。


「俺の本気が、やっと伝わったらしいな? ……嗚呼、怯えなくて良い。あんたなら平気だよ。あんたは痛みに強いんだ。それに、痛いのは最初のうちだけさ。すぐに、何も感じなくなる。暖かい毛布に包まっているような気持ちだ。大丈夫、大丈夫だから……俺を、拒むなよ?」


 悪魔が甘く唆すように、ノヂシャは言う。頑是がんぜない幼子に噛んで含めて言い聞かせるよう語りかけるノヂシャの瞳は暗い。繰り返されるノヂシャの言葉に、過去の叫びが重なる。


『否定される筈がない、拒絶されて良い筈がない、許せる筈がない! 僕は、こんなにも貴女を愛しているのに! わかってくれないなら、認めてくれないなら、愛してくれないなら……そんな貴女なら、いっそのこと……!』


 頭蓋に反響する、過去のニーダー自身の叫びが、恐怖に委縮する脳を激しく揺さぶる。混乱の波濤が押し寄せる。記憶の海原の奥底に眠る記憶を掘り起こし、凄まじい感情の抵抗を物ともせず、強制的に浮上させてゆく。それは大きな渦を巻き、ニーダーの意識を巻き込んでゆく。


 ふと気がつくと、ニーダーは色褪せた世界にぽつねんと佇んでいる。白銀に燃え盛る焔の中に浮かび上がるのは、網膜に黒々と焼けつく人影。ひらりひらりと舞う蝶のように踊り狂う死の舞踏に、ニーダーは見惚れていた。


(母上)


 母は踊る。豊かに波打つ艶やかな、自慢の黒髪を振り乱し、想像を絶する苦痛にすじりもじりながら、迸る怨嗟の叫びは言葉になるまえに燃え尽きる。燃え盛る命。燃え尽きる最期の瞬間まで、母は美しい。


 高い窓から母の亡躯を見下ろして、ニーダーは笑っていた。


 焼け残った黒髪が纏わりつく塩の柱が視界の中心でぐるぐると回る。ゴーテルの失意の絶叫ががらんどうの胸に木霊する。ニーダーは笑っていた。ゴーテルが塩の柱に縋りつき、咽び泣いている。それを見て、ニーダーは清々しい気分で微笑んだ。


『良かった。これで安心だ。本当に良かった』


 笑うニーダーは、救いようも無く、狂っていた。


 視界が暗転する。銀の焔に包まれて踊るのは、母より一回り小さな人影だった。彼女と同じように、豊かに波打つ長い髪は、焔に溶け合う銀色をしている。見上げる空をうつす青い瞳を見開いて、彼女は花の蕾のような唇を開く。


『私、ずっと死にたかったの。あなたと一緒にいることに、もう、耐えられそうにないし』


 ニーダーははっとして駆け寄るけれど、彼女はひらりひらり舞い踊る蝶のように、かじかんだ指の間をすり抜けて遠ざかる。届かない指の先で、彼女は言った。


『あなたの愛は、ひとを不幸にするのね』


 最愛の女性は、冷淡な眼差しでニーダーを拒絶すると、くるりと踵を返してしまう。彼女は振り返らない。彼女が向かう先、針で突いたような光の向こう側から、肉親同士で睦みあう狂人たちの笑い声がする。


「嫌だ!」


 ニーダーは絶叫した。踵を鳴らしドレスの裾を翻し、踊る彼女に手を伸ばし、ニーダーは喉が張り裂けんばかりに声を張り上げた。


「生きている君が良い! 笑ったり、泣いたり、怒ったりする君が良い。抱きしめると暖かな君が良い。魂のない、冷たい亡躯は……嫌だ。君が僕を見てくれない。僕の声を聞いてくれない。僕の心を感じてくれない。そんなの、嫌だ! 君を、愛している。君の欠片さえ奪われたくない。奪う者は許さない。君は……私のものだ!」


 ニーダーは死に物狂いで手を伸ばす。涙に歪み色褪せた世界に、罅が入る。虚空を彷徨うニーダーの手を、輝く亀裂を突き破った大きな手が強い力でつかんだ。


「ニーダー、俺だ」


 強く引き寄せられて、ニーダーの視界は眩い光に塗りつぶされる。たまらず閉じた瞼を開けると、そこに居るのはノヂシャだった。

 ノヂシャがニーダーの胸ぐらをつかみ、額を寄せている。震える肩には、落胆も怒りも超越する殺意が漲っていた。


「よく見ろ、よく聞け。俺の姿を、俺の声を! 俺だ! あんたの目の前にいるのは、あんたを求めているのは、この俺、ノヂシャだ! ラプンツェルはいない、あの女もいない、何処にもいない! ここにはあんたと、俺だけがいる!」


 がくがくと揺さぶられているうちに、朦朧とした意識に立ち込める霧が晴れてゆく。疼痛が頭の奥で脈打っている。ニーダーは顔を顰めた。妙な白昼夢を見たせいか。


「ノヂシャ」


 ニーダーは縺れる舌で、ノヂシャの名を呼ぶ。感情のさざめきが凪いでゆくのがわかった。ノヂシャはぴたりとニーダーを揺さぶることを止めた。親と逸れた幼い迷子のように顔を歪めるノヂシャを見上げていると、無意識のうちに、乾いた唇が慰める為の言葉を紡いでいた。


「お前は、私の弟だ」


 ノヂシャが瞠目する。言葉を詰まらせていたのは束の間の出来事で、ノヂシャは蕾が綻ぶような満面の笑みを浮かべ、こくこくと頷いた。


「そう、そうだよ、ニーダー! 俺はあんたの弟。あんたの家族だ。あんたが悪魔でも、最悪の化物でも、俺だけは、あんたを愛してやれる。あんたは、愛されたいんだ。俺があんたを愛する。俺だけが、空っぽのあんたを満たしてやれる。だから、ニーダー? 俺でいいよな? 俺さえいれば、いいよな?」


 ノヂシャはニーダーを抱き起こして、抱きしめる。綿の詰まった人形を抱きしめると、安心して眠れる幼い少女のように。ノヂシャの幼さは、静かに続いていたニーダーの恐慌を鎮める。ノヂシャは恐ろしいけれど、やっぱりニーダーの弟なのだ。


 ニーダーはノヂシャの乱れた髪を梳き、吐息混じりに呟いた。


「お前には、生きて……幸せを掴んで欲しい」

「このままずっと、あんたを抱きしめていられるなら、俺はこれ以上ないってくらい幸せだ」


 ノヂシャは打てば響くように答える。一瞬の逡巡もない即答。ニーダーの胸は痛んだ。ノヂシャの愛と執着は狂気に犯されているけれど、いじらしかった。

 ノヂシャはニーダーを強く胸に抱き「俺はただ二人きり、あんたの傍にいたいだけ」と言った。


「俺だって、本当は、生きているあんたが良いよ。あんたを喰って、ひとつになれたら、それはそれで、幸せだろうけど……そうなったらもう二度と、あんたに触れて貰えない。呼びかけて貰えない。笑いかけて貰えない。……それが、辛い。俺はこれまでずっと、幸せな思い出の中で生きてきたけど……こうして、あんたが優しくしてくれたから……過去に縋ることが虚しいってことに、気付いたから……もう、戻れない。あんたは、これまで踏みつけてきた俺の愛を今、拾い集めてその胸に当ててくれた。俺の胸の鼓動がまた響いている間に、あんたは俺を見てくれた」


 ニーダーは唇を噛みしめた。苛烈な暴力より、惜しみない愛情が痛い。ノヂシャは何も語らず、温もりを貪るようにニーダーを強く抱きしめていた。しばらくそうしてから、ニーダーの肩を押し、体を放す。ノヂシャは、苦悩に眉を寄せるニーダーの目を真っ直ぐに見詰めた。


「俺はあんただけを愛している。出来ることなら、あんたと一緒に生きていきたい。俺なら絶対に、あんたをがっかりさせない。あんたを不安にさせない。あんたの姿しか見ないし、あんたの声しか聞かないし、あんたの体にしか触れない。約束を守る花の名にかけて誓うよ、あんたの心だけを愛する。あんたを拒んだり、疑ったり、罵ったり、嫌ったりしない。絶対に、あんたの愛を裏切らない。あんたのすべてを、ありのままのあんたを受け容れて愛することが、俺には出来る。そうだ、ここを出て、海を見に行こうぜ。約束、覚えているだろ? 海だけじゃない。他にも色々な、綺麗な景色を見に行こう。あんたはそれを、好きなだけ、絵にすれば良い。あんたには、楽しいことばかりの旅にするから、だから……俺を選んで、兄上。どうか……俺を、選んでください」


 ノヂシャはニーダーの右手をとり、掌に彼の頬を押し当てる。甘えるこどもの仕草をしながら、無邪気さは影を潜め、その表情は眉を潜めて瞼を固く閉ざした、悲壮なものだった。


 わくわくと、期待に満ちた輝く笑顔でノヂシャは語る。半分も聞かないうちに、ニーダーは目を背けてしまう。楽しい提案をぽんぽんと繰り出すノヂシャの、うきうきとした無邪気な陽気さは見せ掛けだけで、灰色の諦念がその心の大半を塞いでいることを、底抜けに明るい声色と笑顔から、察してしまったら、痛々しくて、見ていられなかった。


 拒めば、ノヂシャは今度こそ、ニーダーを喰い殺そうとするだろうか。それとも、殺してくれと懇願するだろうか。いずれにしても、その望みを叶えてやることは出来ない。途方に暮れて、ニーダーは項垂れる。


 ノヂシャはニーダーの気を引こうとして、無暗にじゃれつき、不自然にはしゃいでみせた。ニーダーが顔をあげないでいると、やがて、静かになった。


「……どうしても、ラプンツェルとその子どものところに、帰りたいのか?」


 ニーダーは伏せていた目を上げた。過剰なまでの熱視線が、膝の震えさえ、許そうとしない。


「あんたは俺の奇跡の天使だ。俺はあんたを愛している。俺はまるで大獅子だ。あんたを愛する為に生まれてきた。だけど、俺は大獅子みたいにはなりたくない。あんたを失いたくない。あんたを俺から奪おうとする奴らは、皆」


 始めて会話をした時に、掻い摘んで聞かせた童話を引き合いにだされて、ニーダーの胸は感傷に締め上げられる。けれど、ノヂシャは淡然とした態度を崩さない。表情にも声にも、懐かしさの欠片もなかった。感傷に変わって、そこにあるのは


「殺す」


 研ぎ澄まされた殺意の結晶だった。

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