表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

第7話

                ~《欠片(フラグメント)》~




アキバに戻って数日、円卓会議から「ゴブリン退治」のクエストが発布され、

今のアキバは慌しく賑やかになっていた。

伊織は大量に張られたクエストの中に子供が書いたであろう小さな字で

「神父様を探して」と書かれた小さな紙を見つけた


「これは?」


伊織もそれなりにプレイ暦は長いのだが

今まで見たことのないクエストがあるのが気にかかった。

伊織はそのクエストの書かれた紙を持ってギルドまで戻ってきた


「おや、おかえりなさい」

「ただいま、あの」

「今まで通りで構いませんよ」


伊織は未だにアナスタシアの名前を言う事に慣れていなかった、

葛葉は気にしていないようだったが


「あら、その紙はクエストですか?」

「ああ、これは」

「新クエストです!」


二人の会話に突如新たな人影が現れた、

目つきの鋭い眼鏡をかけた女性で伊織よりも少し背が高い人だった


「さあ、私たちで新しい世界を!!」

「っていうか誰~~~~!!」


伊織は何故こんな状況になったのかさっぱりわからなかった


「あいかわらず突然現れますね、イングリッド」

「やは~、おひさ~」

「?」


アナスタシアがイングリッドと呼んだ女性を紹介し始める。

それによるとイングリッドはクエスト専門のギルドの一つである

《ワルイドファング》の一員でよく初心者達のクエスト案内を行っている


「アニメに魅入られて留学してきたオタクです」

「ああ、なるほど」


アナスタシアの追加説明でイングリッドが一発で理解できた伊織だった


「そんな理由で留学するほど勉強するとか……アホですね」

「まったくです」


二人の可哀相な物を見る目で見られイングリッドは涙混じりに怒り始めた。


「うるさうるさい!、アニメが好きなんだからいいじゃないのよ!!」


見た目はかなりのクールな知的美人であるというのにもかかわらず

この残念さがまた可哀相だった


「私は可哀相じゃない!!」

「そんなのはどうでもいいです、新クエストというのは本当なんですか?」

「ええ、間違いないわ、今まで調査したクエスト一覧にも載ってないし」


ギルド《ワイルドファング》は見たことのないクエストを

メンバー総出で調べているようだ、なんでも円卓会議からの依頼らしく

他のクエスト専門ギルドも今は各地に調査に行っているらしい。


アナスタシアは少し思案を巡らせるとギルドの受付をしていた葛葉を呼び出した


「どしたのみーちゃん、なにかあった?」

「追加された新クエストを発見したらしいので皆で行きましょう、

 私は店を閉める準備をするので」

「は~い」


葛葉は尻尾をパタパタ振りながらギルドへ戻っていく

伊織もクエストの準備のためにギルドへ戻っていった。


「しかしイングリッド、本来ならあなたのギルドのメンバーがいれば

 十分なんじゃないんですか?」

「【ワイルドファング】は私を除いて4人しかギルドに残ってないし

 戦闘専門じゃないし…」

「まあそういう事にしておきましょう、さてと…お店は暫く休業ですね」


アナスタシアはギルド兼店を閉め扉に休業の札をかける

伊織達の準備を待ち、イングリッドを含めた四人で

クエスト依頼主のいるマイハマへ


数時間の移動の終えマイハマへとやってきた四人は

クエストの依頼主を探すべく教会へと行ってみることにした。


数分ほど歩きマイハマの街の教会へとやってきたのだが

教会のなかには誰も居ないのでクエストの情報が聞けそうにない


時間を変えて出直そうとしたとき、

小さな女の子が伊織のローブにしがみついてきた


「冒険者さん?」

「そうだよ、このお手紙を書いたのは君かな?」


伊織はクエスト掲示板で受け取った小さな紙を見せて少女に問いかける、

すると少女は目じりに浮かべた涙を拭いながらいろいろな事を話してくれた


この教会の神父は大の子供好きで、近所の子供たちによく絵本を読んだり、

お話をしてあげていたらしい、つい先日のこと、

神父は商売人たちに魔物除けの聖水を頼まれ、

マイハマから少し離れた所にある「精霊の泉」へと

聖水に使う水を汲みに行って帰ってこないのだそうだ、

魔物に襲われたのかもしれないと心配になった住人達は

クエストとして冒険者へと依頼したのが先日の事らしく、

伊織が見つけたのはその子が書いたクエスト依頼書だということだった。


四人は女の子にすぐに神父を見つけてくると約束して

マイハマから一路「精霊の泉」へと向かう事にした。


馬で移動すること数分、深い森へとやってきた一行は

魔法の明かりをもって森の中へと入って行った


「そういえば私、あまりここに来たことないんですけど、どんな場所なんですか?」


伊織は叔母(あね)やその友人たちと行動することが多かったで

「精霊の泉」には来たことがないらしい

そんな伊織にイングリッドが「精霊の泉」の説明を始めた


この泉は、霊薬や水薬を作ったりするクエストで訪れる場所である、

生産職の人達なら必ず一度は訪れることになる場所でもあるのだと

イングリッドは語った


「ん?、鍛冶師や筆者師もですか?」

「ええ、鍛冶師だと神剣系列や聖剣とかを打つのに必要な

 「精霊の神水」を取りに来るために、ちなみに聖水の材料にもなるわね

 筆者師だとかなりの上質な紙を作るための材料を取りに来るわね」

「木工職人は?」

「ココから少し北にある村で受けれるクエストに

 「精霊際の守り飾り」っていうのが あるんだけど、その飾りを作るためにも

 ココでとれる「精霊の神水」が必要になるわね」

「ん?、じゃあ私たちが受けているのもその一環なんじゃ…」

「そもそも今までは「水を汲んできてほしい」っていうクエストなんです、

 でも今回は神父様を探しに来たと」

「なるほど」


イングリッドの説明に伊織も納得できたようだ


二人の会話も終わるころ、一行は目的地であった「精霊の泉」へとたどり着いた

その泉は綺麗に透き通り、太陽の光を反射して輝いているようにも見える


「綺麗…」

「ちなみにこの泉にはウンディーネが住んでいるわ、召喚術師の契約もできるわよ」

「それで神父どのはどこに」


湖を眺めていた面々は周囲を見回り泉の大樹の麓に神父が倒れているのを見つけた


「大丈夫ですか?」


イングリッドの呼びかけに神父はゆっくりと目をさます

神父は目を覚ますと、ゆっくりと状況を確認するように色々呟いていた

どうやら神父は水を汲んでいて足を滑らせて泉に落ちてしまったらしい、

そして泉の女神に助けられたのだと言っていた

その言葉に面々が泉へと振り返ると、恥ずかしそうに神父を心配する

ウンディーネが一人いるのを見かけた。


「なるほどね」

「そういえば、今の状況みたいになる話で人魚伝説っていうのがありましたね」


海で溺れた人を人魚が助け、その人の所へ嫁にくるという話である


「それって、その人間を監視して

 人魚の事を喋らないようにする話じゃなかったです?」

「そうだけど、まあ大丈夫でしょう」

「この世界じゃそんな必要はないしね」


イングリッドは泉をみながらロマンがあっていい事だと呟いていた。

伊織はようやく状況を理解した神父にウンディーネが助けてくれたのだと

教えてあげた、するとウンディーネは真っ赤になりながら

泉の中に潜っていってしまった、どうやら照れ屋であるらしい、

神父は泉に向って大声でお礼を言っていた。




それからまた数時間かけマイハマへと戻っとてきた面々は

教会で待っている女の子のところへと向かった、

神父は周辺の人達からかなり好かれているらしく、

色んな人達が神父を迎えてくれた。


その後お礼がしたいから明日、もう一度教会へと来てほしいと

言われたので皆でマイハマの宿で一泊していくことに


そして翌朝、神父を訪ね教会へと向かうと

そこには沢山の子供と少女と神父が待っていた

そして少女は伊織へとペコリと小さくお辞儀をすると小さな小瓶を差し出して


「あの…神父様を助けてくれてありがとう」

「その小瓶の聖水はこの子が作ったんです、よかったら貰ってあげてください」

「ありがとう」


伊織はお礼を言うとやさしく少女の頭を撫でてあげた


一行は神父たちに別れを告げマイハマを出発し


「ん、コレ消費アイテムじゃないんですね」


伊織はどうやらステータス画面を開いてアイテムを眺めていたらしい

そんな伊織にアナスタシアは面白そうにある事を告げた


「その「祈りの小瓶」はサブロール取得用の特殊アイテムですよ、

 分かりやすく言えばクラスチェンジアイテムです」

「うそ!!、この小瓶がですか?」

「ええ、今回の拡張パックで追加された新クラスになることができますよ」


アナスタシアは意地の悪そうな笑顔をイングリッドへとむけながらそんなことを言った、伊織がその視線に釣られイングリッドへと振り向くと


「きぃ~!、私が受けてたら私のものでしたのに~!」


悔しさでハンカチを噛みしめながら伊織の持つ小瓶を睨みつけていた


視線を感じた伊織は慌てて小瓶をバッグへとしまい

イングリッドの視線から逃げるようにアナスタシアの影に隠れる


そんな賑やかなやり取りをしながら四人はアキバへと戻っていくのだった。



登場キャラ

イングリッド【盗剣士LV90】

見た目とは裏腹に残念なオタクっ娘、一応「ワイルドファング」内では

結構な人気が一応はある

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ