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第5話

              ~《魂と魄たましいとうつわ》~




“ミラルレイクの大魔導師”と名乗ったエルフとの会合の翌日、

伊織の希望でアセリアという人物を探して彼らは近隣の町へと

向かっている最中だった。

鷹宮はエルフの学者の語った魂魄理論スピリット・セオリーという話を

未だにまともに理解できてない。


(いや、理解することを拒絶しているといったほうが正しいのかな?)


何の因果かセルデシアへと飛ばされ、この世界の理解できない

様々な歴史や理論を説明されても考えが纏まらず、

考える事を拒否してしまうのだ。


(正直、いっぱいいっぱいだしな)


同じくシグムントも難しい顔をしている、同様に上手く理解できてないのだろう。


(それに…)



~ 姫騎士と呼ばれるお方と聖騎士様です


               《Plant hwyaden》


             へ来ていただければそれなりの地位が得られますよ ~


そう、あのエルフは言っていた。


(ようはシッポを振れって事だよな、冗談じゃない)


シグムントも申し出は断っていた、エルフはまだ暫らく考えろと言っていたが、

考えたところで結果は変わらない。

鷹宮は気を取り直して伊織の友人探しを先ずはせねばならないと気合をいれる、

ふと


「なんだ、あの煙は…家事か?」


そんな言葉を覆すように、彼らの前方から大量の大地人が走ってくる

シグムントは馬を走らせ大地人達へと事情を聞きに行く


「オーガ族とトロール族の大群が襲ってきて」

「冒険者さんが必死に戦って私達を逃がしてくれたんです」

「でも、私の娘がまだ町に居ると気づいてあの町に…、

 お願いです冒険者さま!!、あの方を、娘を助けてください!!」


その言葉を聞き伊織は馬を急がせ1人町へと向かっていった、

慌てて3人も馬を急がせる







伊織は胸が苦しいほど鳴っているのを感じた、多分今その町では

モンスターの群れに友人が酷い目に遭わされているからかも知れないからだった。


(お願い!!間に合って!!!)


焼け付くような思いを堪え馬を走らせ町の入り口へとやって来た伊織は

ある光景を目撃した

泣いている小さな子供を庇う様に必死に抱きしめ、

その背中をモンスターに滅多打ちにされているアセリアであろう女性、

そして、アセリアという名前でこの世界に巻き込まれた

彼女が捜し求めていた大事な友達の姿を・・・

そして伊織は、気が付けば馬から飛び降りてモンスターへと走り出していた


「玲達から離れろー!!!!!!」


伊織は炎のように燃え盛る怒りの言葉とともに無意識に魔法を放っていた。

放たれた魔法はアセリア達を取り囲んでいたモンスターを薙ぎ払い、

伊織は彼女達に慌てて近寄る。


「玲!!しっかりして玲!!」


少女はモンスターに滅多打ちにされボロボロだった、

この世界に来て間もない上に自身も必死に恐怖に耐えながら

こんなにもボロボロになりながらも少女を身を挺して守っていたのだ。

伊織の呼びかけに微かに意識を取り戻した少女は伊織の顔を見て


「い…お…り?」

「そうだよ玲、迎えに来たよ」

「あの…子は……」


少女は今この状態でなお子供の心配をしていた、

そんな友達を伊織は涙を流して優しく抱きしめる。


「大丈夫だよ、もう大丈夫だから」

「よか……た…」


伊織は優しく笑みを浮かべながらボロボロになったアセリアの顔を

ハンカチで拭ってあげていた。

ふと、自身に影がかかり振り返ると、そこには

新たなトロールが現れ、棍棒を振り上げていた。


「しまっ!!」


友人を救うのに夢中で周囲の警戒を怠ってしまい、

モンスターの接近を許してしまっていたのだ。

伊織は咄嗟に友人を庇うように抱きかかえ目を瞑った。



しかし、いつまで経っても痛みはやってこず、恐る恐る目を開けると

そこには・・・騎士剣を構えたシグムントが立っていた


「1人で先々行くのは感心しませんよレディー?」


シグムントはそう言って伊織へ手を差し伸べる。

伊織はその手を取って立ち上がるとお礼を言った


「ありがとうございます、助かりました」

「いえ、あなた達が無事なら構いません」

「無事か2人とも」

「その子ね、私に見せて」


少し遅れて鷹宮と葛葉も到着した、葛葉はすぐさまアセリアに駆け寄り

回復魔法をかけ始める。


「お姉ちゃん、助かる…助かるよね?」

「大丈夫、葛葉お姉ちゃんにまかせなさい」


小さな子供の不安そうな顔に葛葉は笑顔で答えてあげる


「こんなイベントありましたっけ?」

「私も、このようなイベントに心当たりなどありませんね」


伊織とシグムントには思い当たるイベントはないらしい、

だが鷹宮は気にかかっていることがあった


「時期的に言えば「スザクモンの鬼祭り」が発生する時期付近だな」

 「「!!」」


鷹宮の言葉に2人は驚愕した


「ありえなくはないでしょうが、あのイベントは!」

「この世界に俺達の有り得ないなんてものは通用しないんだ…」

「…………」



2人の暫し沈黙した、それは仕方のないことなのだろうと鷹宮も思う、

自分だってこんな事態が起きるなど思っても見なかった。

とりあえず一同は当初の目的を達成し、アセリアと小さな少女を連れ、

大地人の集う避難所へとやって来ていた。


ふと…その場所にある人影が近づいてきたのだ、

それも避難した大地人を囲むように。


「貴様達、何のつもりだ!!」


シグムントが剣を構え相手を威圧するが、相手は特に気にした様子もなく

下卑た言葉を吐き出した。


「姫さんと聖騎士さんは武器を捨てな、悪く思うな上からの命令なんでな」

「貴様ら!!」

「動くなよ、大地人共がどうなってもいいのか?」

「下種が!」


2人は自分たちを囲む者達の言うとおりに武器を捨てた、

下手に動けば大地人達が殺されてしまうかもしれないのだ。

伊織は自分達を囲む者達の顔を見て怒りを顕にする。


「あなた達「ハーメルン」の!!」

「ほう、俺らを知ってる奴もいたのか」


~「ハーメルン」~

初心者救済を謳いEXPポットを巻き上げて売り捌いていた非道なギルドだった、

だがこのギルドはある青年のお陰で解散し、全員何処かへと行ったはずだった。


「舐めたガキのお陰でこっちは散々なんだよ、

 なんとかミナミに着いたと思ったら、全財産を移住権としてまきあげられるしよ」

「こんな仕事でもしねぇと食っていけねぇってぇの」

「まぁ、怨むんなら命令を出した奴を怨みな」


顔にやたら傷のある男が魔法を唱え、巨大な魔法の刃が

鷹宮とシグムントへと襲い掛かる。

鷹宮は後ろを振り返った、自分の後ろには治療中の葛葉とアセリア、

大地人の数々。

避ければ後ろの居る人たちに魔法の刃が当たってしまう、

避けるなんていう選択肢はなく、ただ…アナスタシアの力を信じるのみだった…

鷹宮はとっさにシグムントに迫った魔法の刃を左手で受け、そして……



残った魔法の刃が鷹宮の胸部へと突き刺さった。


「ちぃ、まあいい目的の白髪の女は殺ったんだ、ズラかれ!」

「にがすもんっかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


伊織は魔法を唱えることなく小さな魔法球を数個出現させると、

銃を撃つような動作で指から放っていく、

放たれた魔法の銃弾は相手を追尾し1人残さず神殿送りにしていく。

そして最後の1人へと銃弾は迫っていく


「くそぉ!!あのクソガキどもといいなめやがぁてぇぇぇぇぇぇえ!!!!!」


傷だらけの顔の男はその言葉を断末魔代わりに神殿送りとなった。

伊織が振り返ると葛葉が必死に鷹宮へと治癒魔法をかけている


「HPもMPも最大なのになんで!!」


鷹宮が使っていたアナスタシアはテストプレイ用のチートキャラで、

あの程度の魔法ではまともにダメージなんか受けない、しかし今、

鷹宮は目を覚まさないのだ。























鷹宮は静かな波の音に起こされて目を覚ました。


「ここは、おいおいマジかよ」


鷹宮が目を覚ましたそこは砂浜と青く蒼く輝く海だった、

空を見上げれば地球のようなものが見える。


「まさか、第14なのか」


鷹宮は辺りを見回してみるとあることに気づいた、

この場所では鷹宮は元の世界の姿でありアナスタシアではなかったのだ。

自分の姿を確認しているとふと見覚えのある人物が立っていた。


「アナスタシア?」


紛れもなくソコに立っていたのは彼女であり不思議な対面をしている。

アナスタシアは鷹宮の姿に気づくと駆け寄ってきて、思い切り鷹宮に

ガゴンという鈍い音を響かせる。


「いっって!!、鎧で鼻打った!」

「あわ!!ごめんなさいですマスター!!」


ちなみに鷹宮本人は184cm程、アナスタシアは186cm+ヒールの高さであり、

鎧の肩部分が鷹宮の鼻に直撃したのだ。


「初めての対面がこれかよ…いったた」

「いいえ、初めてではありませんマスター鷹宮」

「え?」

「マスターは○の月の○日にこちらに来ていました」


それはエルダーテイルに参加ログインしていたプレイヤーが

大災害に巻き込まれた日

だが葛葉の話によれば鷹宮は・・・


「そうです、あの日マスターは入るべき器のない状態で

 こちらに来てしまったのです。」

「まさか……でもそう考えれば辻褄が」


鷹宮は特殊なプレイスタイルのロールプレイヤーで

アナスタシアのセリフはテキストで、操作プレイヤーとしてボイスで喋る、

というプレイをしていた。

そのプレイでのアナスタシアの記憶

それが大災害で実態を持ってしまえば、確かに鷹宮の入る器は存在しない…


「ん?、じゃあなんで俺はアナスタシアの中に居たんだ?」

「それは…」


アナスタシアが語ったのは鷹宮の魂が虚ろな状態でとても危険だったこと、

放っておけばモンスターの魂として使用されてしまって

取り返しのつかないことになってしまったかもしれないという事。


「だから私の体を器にしてマスターの魂を呼び寄せました」

「そんなこと可能なのか?」

「私とマスターは言わばコインの表と裏のような存在、

 私の意識を封印しマスターの意識を具現化すれば」

「だから俺は葛葉たちに比べればズレていたのか」

「そういう事になります。」


鷹宮が葛葉達と大災害のズレがあったのは

その《魂》と《意識》を具現化するために

アナスタシアが費やした時間であったのだ


「しかし、コレがスピリット・セオリーか」

「はい」


海の波が止まり辺りが静まり返る、そして光が立ち上り始めた。


「さあマスター」

「俺!?」


アナスタシアはあの器に戻れと鷹宮に言っているのだ、

しかし鷹宮は頑として応じなかった。


「なぜ!!、このままこの場所にいては貴方が!!」

「それでも、お前をこの世界に一人にするわけにもいかん」

「マスターのバカ!!分からず屋!!」

「はいはい、悪ぅございましたっと!!」

「!!!!!!!」


鷹宮は謝りつつもアナスタシアを光の柱の中へ突き飛ばした。

アナスタシアは何かを叫びつつも光の柱と共に姿を消した、

おそらく器へと戻ったのだろう。


「ほんっっとに、バカだなぁ…」


鷹宮はただため息をつくしかなかった…ふと自身の体の異変に気づく


「ん、鎖?、おわぁ!!」


さっきまではなかった光の鎖が鷹宮の右腕に巻き付いていた。

鷹宮の腕に巻きついていた銀色の鎖はアナスタシアが消えていった

光の柱へと繋がっていた、その鎖が光の柱に巻き戻るように

鷹宮を引き込んで行く。





















































アナスタシアは呟きを漏らして目を覚ました。


セルデシアに生まれ、今までずっと一緒に旅をしてきた半身を

あの世界へと置いて来てしまったからだ。



「マスター………バカ…」



アナスタシアが体を起こすと傍にシグムントがいた、

おそらく目を覚まさないアナスタシアの看病をしてくれていたのだろう。

シグムントはまだ眠っているらしい、

アナスタシアは彼を起こさずに外へと出ることにした。

ミナミの街の裏路地の宿の屋上へとやって来たアナスタシアは星を眺めていた。


「…………」


自らの存在の片割れを失ったと言うのに自分は何故か涙が出ない、

自分はなんて白状なのだろうと思っていた。


しかしふとある光景が記憶をよぎる


「いま…の…は」


アナスタシアには身に覚えのない記憶、

しかしアナスタシアにも見覚えのある人物との記憶。


「ま…さか」


アナスタシアは気持ちを静め、様々な思考を始めた、

このセルデシアに異常が起きた時と今の自身の違いを。


「マ…ス…ター…」


アナスタシアは涙を流していた、失ったと思い込んでいたものは

確かに自分の中にあったのだから。


「よか………た」


どんな現象が起こったのかは未だに理解できないが、

自身の器の中には確かに自分の主であった鷹宮の魂が宿っている、

目には見えないコインの裏表のようにお互いの存在を感じるだけだが、

アナスタシアにはそれで十分だった。


アナスタシアは涙を拭くと部屋へと戻っていくのだった。



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