第4話
~《胎動》~
アキバの町に買出しに来ていた鷹宮は、懐かしい料理の数々に
何を食べようか迷っていた。
ラーメンやたこ焼きにお好み焼き、ちゃんこやモツ鍋におでん
目移りするのも仕方のないレパートリーの数々の中で鷹宮の目を引いたのは
牛丼屋だった。
鷹宮の職場の近くには有名なチェーン店があり
郷愁に誘われた事もあり、牛丼屋に入ることにしたのだが。
「へ?、何で入店しちゃだめなんですか?」
「いや、だって…」
店員は随分と困っているようだ。
ほかの店員たちとヒソヒソと何かを話している。
客達か微かに聞こえた密談の内容も、何故こんな店に来たのか
不思議でならないという事らしい。
自身の知名度は低いので、名前で拒否を喰らっている訳ではないらしい。
女性客も何人かいるので性別や容姿で決められているわけでもないのだろうと
思うが、理由がいまいち納得できない。
「どうしました?」
後ろから困ったような声をかけられ振り返ると
メガネをかけた白いローブの青年が立っていた。
「何かあったんですか?」
「いえ、君も牛丼を食べに?」
「ええ、懐かしさに引かれてちょっと」
青年は照れくさそうに頭を掻きながら答えてくれた。
やはり皆も懐かしいらしい。
鷹宮は入店拒否を喰らっているので青年に順番を譲ることにしたのだが
青年は、それは申し訳ないと順番待ちを譲らなかった。
「私は何故か入店を拒否されてしまったからね、君ならすぐに入れると思うよ」
「ああ、なんか分かる気がします」
青年は困った顔で頬を掻いていた。
鷹宮は不躾ながら青年に拒否を受けた理由を聞いてみた。
青年は言葉を選ぶように思慮を巡らせてから思い当たる理由を教えてくれた。
「貴方みたいな美人な人が牛丼なんて食べに来たのが驚愕なんですよ」
「成る程、でも大災害以降、見た目はコレでも中身は同じ日本人なんだろうし」
鷹宮がそれについて考えていると。
青年はメガネを指で押し上げると、鷹宮が知らなかった
様々な事を教えてくれた。
鷹宮はそれらの話を聞いていろいろ納得できたようだった。
「私は大地人だと思われた訳ね」
「ステータスを確認すれば分かるんですけどね」
青年は鷹宮をステータスで確認して「冒険者=プレイヤー」
だと分かった上でいろいろ教えてくれているのだろう。
「はぁ、どうしよっかね」
ため息をつく鷹宮を見て、青年は一つの提案をしてくれた。
「よかったら一緒にどうですか?」
青年はどうやらツレとして相席しないかと言ってくれているようだった。
「君も入れなくなるかもしれないよ?」
「でも僕達はお客なんですから、食べる権利はあります」
青年はもう一度メガネを押し上げると店員と交渉を始め
なんとか許可を得たようだった。
「じゃあ、はいりましょうか」
「手間かけさせてすまないね」
「いえ、この程度の交渉なら大したことじゃありませんよ」
青年の様子から本当に大したことではない様子だったので
鷹宮はお言葉に甘えることにした。
二人とも並サイズを注文し、出された牛丼を食べ始めた。
青年はよほど懐かしかったのか、ゆっくり味わって食べているようだった
鷹宮も久しぶりの牛丼だったので味わってチマチマ食べることに
食事も終わり代金を払って店を後にした二人は中央広場まで歩きながら
世間話に花を咲かせていた
「骨董品店?」
「君もプレイ暦長いなら、噂くらいは聞いたことがあるんじゃないかな?」
「ええ、「アキバの七不思議」の1つで「開かずの骨董品店」でしたよね?」
青年の言葉に鷹宮は眉を潜めながら色々捕捉をしていく
「それは先代のせいなんだが、まあ色々とね」
「あえて聞かないほうがよさそうですね」
「すまんね」
詳しくはあまり話せない事を青年に謝ったが、青年も気にしていないようだった。
「この狭い街だ、また何処かで」
「ええ、また」
中央広場で青年に別れを告げ、それぞれ別の方角へと歩いてゆく。
そのとき
「なん……だ」
鷹宮にも理解のできない何かが西の方角から感じられた。
「これは、世界の異変をアナスタシアが感じ取っているのか?」
少なくともその可能性は十分にあった。
アナスタシアには様々なテストやバグの対処を行う機能がある。
それが今のセルデシアで第六感のような役割として機能しても不思議はない。
「行くしかない……か」
鷹宮はそう決心して旅に必要な道具を買い込むために
街の露店街へと向かっていった。
店に戻ると伊織と葛葉も戻っていたようで西に行くことを告げると
「私も行きます!!」
「危険な旅になると思うぞ、本当にいいのか?」
「覚悟の上です」
詳しい話を聞くとどうやら伊織の友人はアキバには居なかったらしい
それで他の街へと情報を集めにいずれ行く予定だったのだそうだ。
「あの子が一人で恐い思いをしてるかもしれないのに
一人安全な場所に居るわけには行きません」
伊織の決心は固く絶対に付いて来そうだったので、渋々ながら同行を許可した。
それを見た葛葉も同行を願い出てきた、今更断る訳にも行かず。
三人は一路西へと赴くことになった。
10日ほどの旅を続けた3人は西の拠点であるミナミへと辿り着いた。
ミナミに付いた3人は街を覆う奇妙な雰囲気を感じ取った。
「なんていうか」
「不気味です…」
2人の感想もあながち間違ってはおらず、この街は大地人と冒険者との間に
間違いなく壁が、もしくは確執があるのだ。
だが、表立った対立はなく一応は上手く共存しているようだった。
どのくらい滞在するかはまだ分からないので
3人は安い宿を探して街を歩き回ることにした。
暫らく歩き回り裏路地へとやってきた3人は
そこで大地人に手を出す冒険者を目の当たりにした。
葛葉と伊織は冒険者へ食って掛かろうとしたが
鷹宮はもう1つの気配に気づき2人を静止した。
鷹宮に止められ歯噛みしていた2人の前に現れたのは、背の高い騎士で、
その騎士は暴力的な冒険者の関節を見事に極め投げ飛ばしたのだ、
乱暴者もその騎士を見て悪態をつきながらもそそくさと逃げていった。
「そういえばミナミに居たんだったな、幸隆」
「おや、誰かと思えば姫君ではないですか、それにお嬢さん方も」
「その呼び方はやめれ」
幸隆と呼ばれた背の高い騎士は「シグムント」という名前の守護戦士で、
鷹宮のリアルの親友であり、エルダーテイルを一緒に始めた相棒だった。
「3人そろってご旅行ですか」
「冗談はやめれ、とりあえず宿に行きたいんだが」
「ではいい宿がありますので案内しましょう」
助けた大地人と別れ、シグムントが滞在している造りの
綺麗な宿へとやってきた一行は、お互いの状況を知るために
情報交換をすることにした。
「Plant hwyaden?」
「ええ、このミナミを統治している謎の多いギルドです」
「そうか、幸隆はこのギルドには?」
「所属してはいません、何を考えているか分からないギルドに
身を寄せる趣味はありませんので」
「その騎士口調も相変わらずだな」
「何を仰いますか姫君、《聖騎士》である私はずっとこの喋り方ですよ。」
*ある高難易度イベントでなれる騎士の上位クラス*
これは本人の言うとおりで、リアルでもこのしゃべり方で
イケメンのナイスミドルである幸隆は、近所で評判の
マダムキラーであったりもする、まあ結婚して子供もいるのだが。
「あのユキさん、この街に玲というプレイヤーは居ませんか?」
「玲さん、はて…このミナミには居なかったと思いますが」
「そう……ですか」
「その御方とのご関係は?」
「私の友達です、初めてエルダーテイルをプレイするというので
一緒に遊ぶ約束をしていたのですが、チュートリアル途中で
大災害に遭ったみたいで…いま何処に居るのかさえも分からないんです」
その言葉にシグムントは顎に手を当てフムと考え込む。
そして1つの心当たりを伊織へと伝える。
「その玲さんという方かは存じませんが、心辺りが1つあります」
「なんでもいいです教えてください!!」
身を乗り出して聞きに来た伊織をなだめつつシグムントは告げる。
「以前この街にいた「アセリア」という方が友人を探して
近隣の町へと旅立たれていかれました」
「アセリア……、その町ってどの方角ですか?」
伊織は今にも駆け出して行きそうだったのでシグムントは、
明日案内すると約束して伊織をなだめた。
伊織を葛葉に任せ、鷹宮と幸隆は宿の外で話の続きをしていた。
「タウンゲートの再稼動!?」
「ええ、それに先日空へと伸びる光の柱が」
思っても見なかった新事実に鷹宮は驚愕を隠せなかった
そして空へと伸びる光の柱の話
「その世界に、何が起きて…そこの奴、出て来い!!」
鷹宮は気配に気づき会話を止める、プラントフロウデンの膝元である以上
その刺客であると踏んだ2人はお互いに剣を抜き戦闘に備える。
しかし現れたのはあるエルフの学者であった。
「私は「ジェレド=ガン」と申します、お2人にお話があって参りました」
それはこの世界の根底の話であり、想像を絶するような話であるとは
まだ・・・・2人は知る由もなかった。