~11~
まだ雪の降り積もる季節、現実時間で言えばそろそろ2月に差し掛かるある日。
~聖城グランセル:謁見の間~
「そんなわけで、今月半ば程(14日あたり)に冒険者達の行事を行いますので」
「わかりました、いつもすみません」
「いえいえ、ではこれで」
謁見の間から退出したオリヴァーは城の外まで早足で駆け抜けるとそのまま中央会館まで走りだした、中央会館の大ホール会議室に集った冒険者達(連盟の上役達)の待つ部屋ではイベントの趣向を話し合っている最中だったのだが、扉を開けて入ってきたオリヴァーの第一声によってその場は戦場と化した。
「喜びたまえ諸君!!、クローディア皇女殿下が義理チョコ配りに協力してくださるぞ!!」
「「「「「いやっっほぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」
会議室の中は狂喜乱舞しオリヴァーコールがけたたましく鳴り響いていたのだった。
それは、さて置き
その日タカミヤは防壁近隣に存在する廃墟の数々の視察に来ていた、オリヴァー達の言うところでは去年半ば頃(8月付近)から他国サーバータウンから、大地人が数多く聖都グランセルに流れてきているらしい、最初はこの街をホームにしているプレイヤーに護衛してもらい移住しにきていたそうだ、だが····最近大地人の売買という名目でさえ大地人は安住の地を求めて大陸をさ迷うのが珍しくないらしい、その大地人が全て《帝都エレボニア》からという一点を除けばであるが······。
「この辺の廃墟ビルは要工事、こっちのビルは掃除すれば使えそうね」
今日タカミヤがしている作業も難民受け入れのための住居の用意の為である、住めそうなビルを整備したうえで改築し、難民又は亡命してきた大地人の人達に解放するつもりらしい、ヤマトでは戦争をしないために必死に声を荒げた青年達がいた、この街に来る途中で立ち寄った街では、上手く共存していたのではいかと思う、この街でもそうだ、戦争回避の為に必死に大地人との共存を行ってきた結果が今の平和な街並みだ、むしろ互いに共存する事でこの街は以前以上に発展している。
「こういうの考えるような性分じゃないんだけどねぇ」
バインダー片手にペンで額を掻きながらタカミヤはボヤく、因みに今日はタカミヤ1人だった、レオンはさっそくバイクを乗り回しにフィールドに狩りに出ているし(多分釣りだろうが···)、ロベルトは歓楽街のカジノに、伊織はノインとブティック巡り、オズは仕事(リリカルカッツェの面々が経営しているカフェテリア『キャッツアイ』で給仕をしている)、夜色の少女とペンドラゴンも『キャッツアイ』で給仕(やっぱりウェイトレス何故かペンドラゴンも含む)の仕事をして日々の金貨を何とか稼いでいるらしい、英雄二人も早速街に馴染んだようだ、ビルの調査を引き続き行っていたタカミヤの元に御船と半蔵が戻ってくる。
「振り分けられた地区の調査は完了したで御座る」
「某も調査完了したで候」
「ご苦労様」
タカミヤは二人からバインダーを受け取り、報告書を確認していく。ふと、視界に子供達の姿が入る。
「あれは?」
「ああ、居住区に住む大地人の子供達で御座るよ」
「冒険者ごっことかで、このあたりの廃ビルを探検しているので候」
「まあ、一応タウン内だからモンスターはPOPしないからねぇ」
「まあ、一応注意しておくで御座るよ、おーいそなたたち~」
御船が手を振りながら子供達に近付くと、知り合いだったのか子供達から御船は侍のオッチャンと呼ばれていた、子供達から「三刀流まだ~?」と聞かれているのを見てタカミヤは少し呆れていたが御船と半蔵は昔から子供にウケが良かった、侍や忍者は海外の人には隠れた人気があるのだ(どれだけ隠れているのかは不明だが····)、まあ···聞こえる会話から察するにいつか三刀流を会得するとでもホラを吹いたのだろう、御船が子供達に注意を終えて戻ってくると、神妙な面持ちで言葉を紡ぐ。
「タカミヤ殿、三刀流って使えないで御座るか?」
「はぁ·····」
タカミヤが溜め息をつくと御船はビクッっと怯えて身を守る、本人も多分怒られると思っていたのだろう、まあ、怒る気も失せていたので怒らないが。
「使えないわよ、マンガみたいに口で使いなさいよいっそ」
「アゴが外れたで御座るよ」
「既にやった後なのね」
「口はしんどいで御座る」
「なら足で」
「指が吊ったで御座る」
「やったのねやっぱり」
タカミヤが呆れていると、先程の子供の1人が走って戻ってきた。何かあったのか聞いてみると、風で飛ばされた帽子を探しに入ったビルが崩れ始めてしまったらしい、三人は慌てて子供を連れて現場に急ぐ。ビルは確かに既にヒビが入り少しずつ崩れていて予断を許さない状況、慌てて脱出しようとしたところ階段が崩れトニー君という子供がまだ上に取り残されているのだという。
「半蔵、身軽なあんたが適任よ、トニー君を捜してきなさい」
「承知で御座る」
半蔵は素早い身のこなしでビルの3階部分の窓から入っていく、御船はビルが崩れた時に備え子供達そ避難させている最中だ、半蔵がビルに入って1分くらいだろうか、ビルを支えていた支柱が崩れ落ち、ビルが傾き始めた!!、が、突如ビルはその崩壊を緩める。
「ネェちゃんすげー!!」
「ってかどんだけSTR値高いで御座るかタカミヤ殿は!!」
「黙って避難してなさい!!、このビルは5階建てなんだからその辺じゃ巻き込まれるわよ!!」
「すまんで御座る、さあそなたたちも此方へ」
「トニーーーー!!」
崩れた支柱の下に入り込み、下から全STR値を総動員してビルを支えるタカミヤに注意され、御船は子供達をもっと遠くへ避難させる、だが、ビルは再度崩れ始め、タカミヤが支えるのとは反対側の柱が折れて再びビルは崩れ始める。
「今、俺が助けに来たぞ!!!」
カッコつけたセリフと共にゴツい体躯の大男が崩れた反対側の支柱の下に入り込みビルは再度崩壊を緩める。
「状況は分からんが、このビルの崩壊を持たせればいいんだろう?」
「ってアナタ!!」
タカミヤが助っ人に来た大男の正体に気が付いたと同時に、5階の窓から半蔵がトニー少年を抱え飛び出して来た、タカミヤと大男はお互いに顔を見合わせた後、合図と同時にビルの下から抜け出す。ビルは勢いよく崩れ落ち、辺りに砂埃を蔓延させた、御船と子供達の居た場所にまでその砂埃は届き、御船は盛大に咳を吐いている。助けた子供と共にタカミヤ達も御船の元に歩いて行くとトニー少年は無事を喜ぶ友達達と抱き合った後、お礼を言って街に先に戻っていった。子供達を見送り、半蔵も助けられたお礼を大男に告げ頭をさげる。
「助かったで御座る、なんとお礼を言えばいいか」
「はっはっは、な~に礼には及ばねぇ、俺が人を助けるのは当然だからな」
「そう言えばタカミヤ殿、この御仁お知り合いで御座るか?」
「まあ、二人が知らないのも無理ないわね、その人はマッシュ、ペンドラゴンと同じく《原初の英雄》の内の一人よ」
「マッシュだ、ヨロシク頼むぜ」
「「エエエエエエエエエエエエ!?!?!?!?!?」」
英雄のバーゲンセールが絶賛発生中のグランセルの片隅で御船と半蔵の驚愕の声が響くのだった。
マッシュを連れ、カフェテリア『キャッツアイ』にやって来たタカミヤ達はテラス席の片隅に陣取ると、マッシュから旅の経緯を聞くことにしたのだが、オーダーを取りに来たウェイトレスの顔を見るなりマッシュが笑い出したのである。
「そんなに笑わなくても良いじゃないか、マッシュ」
「いやスマナイ、まさかペンドラゴン殿がそんなカワイイ格好をしてるとは思わなくて」
イケメン英雄二人、絵にはなるが片やウェイトレス、もう片方はツナギにタンクトップという工事現場にいるガテン系あんちゃんという、本来とは違う格好にも関わらず、ペンドラゴンはカッツェと同じく中性的な見た目なので違和感がないし、マッシュもイケメンだがゴツい体躯と雰囲気から違和感がないという妙な現状だ、そもそもこのカフェテリアは『リリカルカッツェ』の経営だ、今さら気にするだけ無駄と言うものだろう。
「この街から少し東の街に行ってきたが酷いものだった」
「ここから東って言うと、帝都エレボニア辺りかしら?」
「ああ、あんた達冒険者が大災害と呼んでるんだったか?、あれ以降あの街じゃあ大地人を迫害、国外に追放して自分達の街にしようとしてると助けた住民達から聞いた」
「成る程、最近この街に国外からの避難民が多いのはそのせいで御座ったか」
「もしかしてマッシュ殿がその人達の護衛を引き受けていたで御座るか?」
「ああ、戦うしか能のない俺にはこれ以上ない仕事だ」
「聞いていた以上に酷いわね」
タカミヤ達は思わぬ所から得られた情報に息を呑んでいたが、その静寂は思わぬ乱入者によって破られた。先程助けた子供達が再びお礼に来てくれたのだ。
「侍のオッチャン」
「これでもまだ25歳で御座る!!」
「トニーを助けてくれてありがとうな♪、これあげるよ」
そう言って差し出したのは、小さな一刷の本だった、御船は丁寧に受けとると少年にお礼を言った。なおトニー少年は半蔵にお礼を言ったのち「分身できる~?」などと言っていた、半蔵は「忍」っと叫びながらロードミラージュを駆使して分身しているように見せ掛けていたが、子供達からすれば分身しているように見えるので子供達は大喜びだ、他の近所の子供達も呼んできたのかマッシュにも子供達は集まり、「スゲー、筋肉ムッキムキだぁ♪」「はっはっは、俺の筋肉は凄いだろう!」といったやり取りをしているようだ。子供達からようやく解放された面々はジュースを啜り喉を潤すとマッシュは席を立ち宿を取りに行くと言って住宅街へと歩いていった、残った三人は貰った本に視線を落とす。
「これはスキルブックでござるか、なになに【鎧通し】、聞いたことないでござるな」
「あら、随分懐かしいスキルブックね」
「知ってるので御座るか?」
「10年前にドロップ廃止になった侍士のアタックスキルよ」
「なんとぉ♪、どどどどどどどどどんな効果なので御座るか♪」
「以下の効果よ」
****************『鎧通し』****************
相手の防御力を無視してダメージを与える突き攻撃を放つ侍士のスキル。
初伝だと70%の威力、秘伝になれば95%の威力で攻撃できる上に、侍士のアタックスキルの中ではスキル硬直が殆どなく、リキャスト(15秒)も早い技、スキルが使用可能な武器は刀、剣、槍の3種類、便利なその反面、武器の耐久値が2倍弱も減るため連発するにはリスクが大きいというデメリットがある。
エルダーテイルver**にてモンスタードロップが廃止されたが、覚えていれば使用可能なままで、プレイヤーショップに出回っているスキルブックを購入すれば習得も可能。
*************************************
「ほうほう、そんな便利な技があったので御座るか~♪」
「さすが、プレイ歴15年は伊達では御座らんな♪」
「ん、プレイ歴15年ということはタカミヤ殿ってもしかして······」
「おば····」
御船と半蔵がそこまで言った次の瞬間、神速で抜き放たれた刀が二人の首に当てられ、タカミヤは笑顔で。
「わたし28だけど何か♪」
「「いえ、なんでもないです」」
「まあいいけど」
タカミヤは二人の首に当てていた刀を納めると、御船と半蔵はテーブルに突っ伏し「死ぬかと思った」と溢していた、しかし御船は勢いよく起き上がるとテーブルにジュース代分の金貨を置き。
「さっそく覚えて修行で御座る~♪」
と走り去ってしまった、半蔵も慌てて後を追いかけて走っていく。二人を見送ったタカミヤは金貨を置いて立ち上がると会計を取りに来た夜色の少女が。
「おお、ミヤではないか、どうだ似合うか♪」
自分のウェイトレス姿をタカミヤに見せるようにクルリと回り微笑みかける、少女の顔を見てタカミヤはこの店を選んだ理由を今更ながらに思いだし、上着のポケットからある物をとりだすと、少女へと投げ渡した。
「あげるわ」
「これはなんだ?、『麻里菜』?、なんと読むのだ?」
「『マリナ』よ」
タカミヤが渡したのは以前ヤマトサーバーにおいて行われた『新社会人応援キャンペーン』で配布された『ネームプレート』というアイテムだった、悪戯が多かったため運営が回収し、ある場所の倉庫には今もまだ山のような不良在庫が眠っている、これはその内の1つである。
「その、知り合いを当たったけどアナタの名前を知ってる人が居なかったから、何時までも名前がないのは不便でしょうし、私が付けた何処にでもある名前だけど」
「そんなことはないぞミヤ、少なくとも私にとっては私がココにいてもいいたった1つの証だ、大切する」
タカミヤは「何で私が口説いてるみたいになってんのよ」と少し照れくさそうに頬を掻きながらマリナに手を振りながら家に帰るべく歩き出したのだった。
《武聖王》マッシュ
聖王騎士ペンドラゴンと同じく《原初の英雄》の一人、その卓越した肉体から放たれる彼のオリジナルコマンドスキル《必殺技》は、数多くの武闘家達の憧れの的である、なお·····《必殺技》使用時に必ず光るエフェクトが発生するので、ゲームだった頃ならいざ知らず、今現在では思った以上には当たらないのが本人の悩みの種。
古来種:武聖王:Lv120\マスターモンク:Lv120




