~09~
8刊限定版のドラマCDを聞いて、何やら挙動不審に陥った椿でした····。
《軌跡》のギルド跡地、と言ってもギルドが解散しただけで建物はゾーン購入を行いそのまま住居として使用している。レオンのメインホームでありタカミヤとしてもヤマトサーバーが出来るまではメインホームとして滞在していたプレイヤータウンであるグランセルでの数日目の朝。
「いやぁ~、やっぱり朝は味噌汁だよねぇ♪」
ヒュパっと言う音と共に朝食の用意を行っていたタカミヤがキッチンから包丁を投げ飛ばし、テーブルについていたオリヴァーの目の前に突き刺ささる。顔を真っ青にしながらキッチンへと振り返ると、タカミヤから「何を人の家に朝食たかりにきてるのかなぁ♪」と笑顔で睨まれている。正直オリヴァーは内心ガクブルものだった、だから正直に。
「ご免なさい、和食が食べたかったんでつい出来心で」
「次からは昼か夜に来るように」
「イエス、マム!!」
シュビっと敬礼をしながら返事を返したが、調子にのって軍隊式の返事をしたせいで再び刃物(今度はナイフだった)が飛んできて「ご免なさい、調子にのりました!!」と再度慌てて謝るハメに。しかし、それでもオリヴァーの希望通りの朝食が出てくる辺りタカミヤとオリヴァーの付き合いの長さが伺える光景でもあった。
「そういやオリヴァー、聞きたい事があるんだが」
「あ、私も!!!」
朝食に手をつけながらレオンと伊織は先日職人街で見かけた逸品についての情報が聞きたくて前のめりになっていた。
「あのバイクはどうやって造ったんだ!?」
「あのベースはどうやって造ったの!?」
2人から同時に放たれた質問に、オリヴァーは「ちゃんと答えるから落ち着きたまえ」と返し、姿勢を直したレオン達にこの街の趣向品の発展経緯を説明しはじめる。
「と言うわけで、料理やなんかと一緒で、古代兵器種を機工師や機巧師のサブ職の人が分解すれば機械部品が手に入るから、それを生産職に頼んで組み立てていく訳だ」
「「なるほど!!!!」」
「ふむ、思わぬ発想ね」
「ああ、古代兵器種の出る古代遺跡のダンジョンがあるこの地方ならではの発想だな、あ、ミヤちゃん俺はサラダとトーストね」
オリヴァーの話の途中で宿に個室を取っていたロベルトが混ざっていたのは気にしなかったが古い付き合いからかサラっと朝食をたかるロベルトのテーブルの目の前ににナイフを投げ刺し、一応は用意するためにキッチンの奥へタカミヤは向かって行く。
「え、なんでナイフ投げられたの?超怖かったんだけど」
「いやオリヴァーがカクカクシカジカでな」
「え、巻き添えじゃん俺」
「ロベルトも図々しいよ、遠慮しないと次は眉間辺りに飛んでくるよ」
伊織が警告を兼ねて脅しておくとロベルトは「マジで?、え?・・冗談だよね?」とオドオドしはじめる、そこへオリヴァーがすかさず「あ、ミヤっち♪僕も白御飯おかわり、納豆付きで♪」等と言ってしまったものだからさあ大変、すかさず飛んできたステーキナイフが見事にオリヴァーの額に突き刺さり、オリヴァーは床をのたうち回り始めたのである。
「うわぁ、マジなんだ」
「ロベルトも、こうなりたくないなら気を付けなさいよね」
「努力するわ」
伊織はオリヴァーを指差しながらロベルトに再度忠告を行い、ロベルトも目の前の実例(ステーキナイフが額にぶっ刺さったオリヴァー)を見て思わず唾を飲んだ。しかし、ロベルトとオリヴァーのおかわりがちゃんと出てくる辺りにミヤの人の良さも現れていたのが何やら不思議な光景でもあった。
「こうしてはいられん、クエスト発布所に行ってくる」
「私も!!」
食事を終えて早々、お目当ての品物を買うためにレオンと伊織は飛び出していった、後に残ったロベルトは朝食を食べながら。
「せわしないねぇ」
「まあ、現実世界でも愛用していた趣向品があるっていうのは嬉しいと思うわよ」
「そうだね、僕なんかギター買っちゃったもん♪」
「つか、おかわり食うのはいいが額のナイフ抜いたらどうよ旦那」
ロベルトは、額にナイフを突き刺されたままおかわりを嬉しそうに食べ始めるオリヴァーに何やら大物っぽい何かを感じたのだった。
~閑話休題~
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《聖都グランセル》は《聖城グランセル》『クローディアの住んでる城のある区画と今は認識しておいて下さい』、生産職の冒険者や魔法具作成を行う大地人達の集う商店が多数並ぶ職人街、ライブハウス、オペラハウスやカジノなど娯楽施設が数多い歓楽街、宿屋や酒場、ギルドハウスの一部や子供達が遊ぶ為の広場等のある居住区画、そしてギルド連盟、職人連盟、商人連盟の本部が入っている聖都中央会館(銀行もココにある)があり街の中心でもある転移門のある中央広場、デートの待ち合わせもココですることが多い(余談)。クエストの発布はこの中央会館のギルド連盟本部にて行われている。
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商店街のショーウィンドウを覗いた時から心踊って仕方のないレオンと伊織は財布の中身や銀行の預金残高を確認して頭を抱えていた。
「金貨10万とか、ギリギリあるけど、あるけどさぁ····」
「ベース、金貨1万5000枚だった、私は貯金合わせてやっと····」
結構な金額で売られる趣向品に手が届くが、欲しいけど後々の生活費が無くなる
という点で2人は未だに頭を抱えていた、クエスト発布所に来たまではいいが、めぼしいクエストは他の冒険者が軒並み受けているので《迷子の子猫探し》や《酒の呑み比べ》、《気になるあの人へのプレゼントを探して》などといった、愉快なクエストしか残っていなかったのである。
「いっそ、ミヤとオリヴァーに頭下げて貸してもらうか···」
「家の代金から維持費まで払ってもらってるのに、生活費もかぁ···」
「うぐゅ、それを言われると辛いな」
「ミヤはいいがオリヴァーはなぁ」とぼやくレオンに、伊織は露店で売っていたクレープを買ってきて渡した。
「お、スマン」
「ん」
噴水公園のベンチに座り、未練がましく金貨がなぁと口走る2人にカップルのような雰囲気が一切ないあたり、声を掛け辛い構図だった。ロベルトはタカミヤからの念話での催促を受け、勇気を出して1歩を踏み出す。
「よぅお二人さん」
「ああ、ロベルトか」
「どしたの?」
「ミヤちゃんからの伝言、仕事だってよ」
「「え?」」
「準備ができたら街門で集合な」
それだけ告げるとロベルトは手をヒラヒラ振ってその場を後にした、レオンと伊織はソコでようやく念話機能がOFFになっていたことに気付いた。
「まずいな、ミヤがキレる前に行くか」
「そだね」
二人は手にしたクレープを食べ終えると公園に用意されたクズカゴにゴミを投げ入れると街門に向けて歩き出した、街門へたどり着くとタカミヤとロベルトが既にやって来ておりかなり待たせてしまった様だったので、まずは謝る。するとタカミヤからクエスト内容について説明が始まった。
「と、言うわけで今から行うクエストは古代兵器種の捕獲ね、入り口付近に現れるガードマシンが2、3体で良いみたいだから」
「捕獲つうことは俺のバインドの出番だな」
「ええ、頼むわね」
「こんなクエストは発布所に無かったぞ?」
「オリヴァーから?」
二人の疑問にタカミヤは肯定を返し説明を付け加える。
「Lv50のガードマシンと言っても、機関銃やらなんやらが付いてて危険だし、オリヴァー達ギルド連盟の幹部の許可もしくは護衛がないと行っちゃダメみたいよ」
「ああ、そういう理由か」
「なんか納得」
「まあその点俺らはレオンの旦那は98だし伊織ちゃんは94もあるし、ミヤちゃんにいたっては表示レベルとは裏腹にレベル110相当の能力が有るわけだし、俺だけなんか····まだ90なのかぁって位だし」
「その内オリヴァーに上限開放してもらえばいいわよ」
「そういやオリヴァーの旦那って一体何者なんだ?」
「オリヴァーは一応GMよ、この西欧サーバーのデータ管理と維持を行うのがメインだけど、そういう数値を弄ったりはできるわよ確か」
「俺がテストプレイヤーを任命されたときにGMにスカウトされたんだ」
「え!?、旦那って元テスターだったのかよ」
「色々面倒でミヤに押し付けたがな♪」
「なんで威張るのよ····」
「つうことは旦那達って実は運営サイド側なのかい?」
このロベルトの質問にはレオンとタカミヤは顔を見合せ、互いに苦笑してから。
「俺らも冒険者さ」
「良くも悪くも、ね」
「ふ~ん、まっ、俺は気にしないが、伊織ちゃんは知ってたのか?」
「当然♪」
「さあ、さっさと行って日が暮れる前に終わらせましょう」
「オリヴァーの旦那が言ってたが、このクエストを完了したら機械工芸品を割引してくれる「さあ行くぞ!!すぐ行くぞ!!」って・・・あらら」
意気揚々と走り出したレオンと伊織を追いかけて、タカミヤ達もクエストへと出発したのだった。




