第3話
~《骨董品店》~
ようやくアキバへとやってきた、一名は戻ってきたのだが
とにかく一行は新たにアキバでの活動を始めたのだった。
そんなわけでここは運営サイド管轄のギルド
【骨董品店《荒野の渡り鳥》】
鷹宮は朝起きて顔を洗い、昨日できなかった宅配物の確認を行っていた
新素材や新アイテム、そして新装備の《銃》
様々なユニークアイテムの数々を前に鷹宮は何かを作成していた
その光景を朝から眺めていた葛葉は見ているだけでは退屈になったのか
話しかけてきた。
「それって何してるの?」
鷹宮は様々な書類を挟んだバインダーに何かを書き込みながらも答えてくれる
「追加アイテムの数々の要項を確認してリストを作成しているんだ」
「そんなのもテストプレイヤーの仕事なの?」
「それより、言葉遣い…どうしたんだ?」
「いや、それは、あの」
鷹宮はなんとなく理由には気がついていた、アキバには、
《太陽みたいな笑顔と母性と慈愛の権化》がいるのだ。
恐らく関西弁で喋って色々誤解されたので
頑張って標準語で喋ろうとしているんだろう。
「そいえば、このお店の宅配便システムって一体なんなの?」
この運営サイドの管轄である骨董品店は先代のテストプレイヤーが
あまりにも自由人過ぎて《アキバの七不思議》の一つになってしまった
悲しい場所なのだ。
「この【骨董品店】は、このヤマトでおきたイベントやレイドで
奇跡的に誰の手にも渡らなかったアイテムを【黒猫の大和急便】システムで
宅配便として店に届け【掘り出し物】としてプレイヤーへと売る、
そんな運営サイドの
「せっかく頑張って創ったアイテムが誰の手にも渡らないとかアリエナイ!、
モッタイナイ!」
という思いの捌け口でもあるんだ」
「なるほどね、てか先代ってことはリーダーだよね?」
「そう……リーダー……」
二人の言うリーダーとはプレイ歴20年の皆勤プレイヤーであり
自分たちのパーティやギルドを散々様々な自由や適当で振り回しまくった
超人物なのだ。
あるときは海外サーバーに「俺は釣りに行きたい人、皆はそれを叶える人」
等と振り回し、現実でも「そうだ、ワカサギ釣ろう」などと京都に行こうノリで
パーティ五人(鷹宮と桐葉、他3名)を散々引っ張り回したのだ。
「多分あの人この異世界を大いに謳歌してると思う」
「どうして?」
「所在地が……ナカスなんだ」
「サハギン釣って爆発すればいいのに」
「あの人の事だから、
「やったサハギン釣れた!!、異世界の釣りはやっぱ楽しいな♪」
て喜んでいるよ」
「だろうね、なんせ…」
「リーダーだしねぇ」×2
二人のため息がシンクロした、どうせ彼には自分達の言葉は届かないのだから。
鷹宮は作業を再開し、葛葉もアイテム整理を手伝うことにした。
それから二人で数分もすれば書類の作成とアイテムの整理は片付いた。
「さて、何からテストすべきか」
「その前にご飯たべた~い」
「たべた~い、じゃなくって」
何からテストしようかと考えた矢先に料理を求められても困るのだが
ふと何かが気になった。
葛葉も経歴の長さから様々なサブ職は大半が90レベルのはず
自分で料理を作ればいいのではないだろうか?
「この世界の料理に何があった」
鷹宮は葛葉に問いただすことにした、話をふってきた以上
隠す気は無いはずだからすぐに話してくれるはずだと
鷹宮は考えたのだ、その考えどうり葛葉は恐る恐る語り始める。
「この世界の料理は全部味がしないのよ、ジュースもね」
「ふむ」
「でも素材にはキチンと味がするのよ、だからみんな果物を食べるか」
「料理に塩やらなんやらをかけて食べると」
「そうなのよ」
鷹宮はフムと唸ると少し考えを巡らせ始めた、葛葉も静かに待ってくれている
「普通に料理は?」
「可能よ、まあ…あの…」
「失敗して黒焦げにでもしたか」
「もう!、言わなくてもいいでしょ!」
八重歯の覗かせ可愛らしくプンスカする葛葉を流し
鷹宮はそれからまた考えを巡らせると別のことを聞いた
「料理人レベルのない人はどうなるんだ?」
「なんかよくわかんないブヨブヨになっちゃうの」
「それってもしかして」
「そう、伊織ちゃんに頼んだの」
伊織はよく両親の手伝いをして料理を作ったり
葛葉(桐葉)にお弁当を作ってあげたりしていた
それがこの異世界では失敗した
「だから二つとも持ってる私に話をふったのか」
「ゴメンね、でもみーやんはツグちゃんが自慢するほど料理上手なんでしょ♪」
「一人暮らしをしていた頃に好きなもの食べたさでこじらせただけで
粗雑な男料理だよ」
「それでもいいわよぉ、美味しいものが食べれるなら」
「やれやれ」
鷹宮は仕方ないとため息をつきバインダーを店のカウンターの中にしまうと
キッチンへと向かっていった。
鷹宮は葛葉から様々な料理素材を受け取ると、まず野菜を刻み、卵をかき混ぜ
ご飯と合わせて鍋で炒め、簡単な炒飯を作ったのだ。
テーブルをまだかまだかと叩く葛葉に皿に
盛り付た炒飯とスプーンを添えて差し出した。
葛葉は目をキラキラと輝かせるといただきますと手を合わせたあとで
料理を頬張り始めた。
「うん♪、すっごい美味しい、さっすがツグちゃん自慢の旦那ふぁま」
「ツグミは一体なにを吹聴しているのやら」
現実世界にいる嫁さんが自分の事を誇大吹聴しているのではないだろうかと
鷹宮は気が気ではなかった。
そこへ勢いよく店のドアが開き勢いよく伊織が飛び込んできたのだ
「ねえさんこれ見て!!【クレセントバーガー】
ちゃんと味のする食べ物だよ!!」
「おふぁえりいふぉり、いふぉりふぉふぁーふぁんふぁふぇるふぁ」
「キタナイな、食べながら喋るんじゃありません!」
炒飯を食べながら喋ったためにお米が色々飛んでしまっていた
鷹宮はテーブルをクロスで拭いた後、紙ナプキンを取り出して
葛葉の口周りについた食べカスを拭いてやった。
「お母さんみたいですね鷹宮さん、てか美味しそう!!
ずるいです!!、私も食べたいです!」
「フライパンにまだ残ってるよ」
鷹宮の言葉を聞くと伊織はテーブルにクレセントバーガーを置き
一直線にキッチンに走っていった。
そのクレセントバーガーが気になったのか葛葉は
手を伸ばしてクレセントバーガーを掴むと紙をとり外し
中身を半分にして鷹宮に渡してきた。
もう半分を美味しそうに頬張る葛葉は随分とご満悦なようだった。
鷹宮はこの世界のマズ飯を食べたことがないので
クレセントバーガーも普通じゃない食事だとは思えなかったが、
キッチンから戻ってきた伊織がフライパンに残してあった
三人分の炒飯を大皿に大盛りにしてご満悦な表情だったので
余程の事なのだろうと、ただ静かに二人を眺めていた。
~その日の夜~
鷹宮はアイテム作成でこしらえた料理を食べながら月を見ていた
「モサモサでモフモフで味がしない、なんとも言い難い不味さだな。」
自身だけがこの世界のマズ飯を食べたことがないのでは
他の皆に悪いと思い今こうして試食中なのだ。
この世界と現実の様々な違いに戸惑っている者も多い中
皆にこの世界での美味しい料理を振舞っている人物には心当たりがあった。
一般に知られた二つ名ではないが、自分達のパーティが彼女につけた二つ名
アキバの向日葵と呼ばれ、自分達が《太陽の慈愛》と呼ぶ
その人であろう事は料理名から察しがついた。
「この世界に優しが満ちて手を取り合うのが先か
やり場のない憤りを爆発させ崩壊が進むのが先………か」
テストプレイヤーである鷹宮としては手を取り合って貰いたいのが本音なのだが
そう上手くは行かないだろうとも思っていた。
願わくばヤマトに住む人々が手を取り合って困難を乗り越えんことを
ただ月に祈るしかできない自身が恨めしかったのだった……