Ex-Stage 06
「じゃあ、その妖刀が書類に埋もれて唸ってるわけだ。さぁて。次に抜かれるのはいつになるかな。こいつぁ、まだまだおいしいところが残ってそうじゃねぇか。よっしゃ・・・・・・。俺もひとつ、祭りの見物にくりだすとすっか!おう、クラスティ。一緒に行こうぜ」
報告にきた部下をどやしつけると、アイザックはクラスティを誘って、<冒険者>と<大地人>でわきたつ自らのホームタウンへと踏み行ってゆくのだった。
*原作本文より引用させて頂いております*
アイザックとレザリック、クラスティと高山三佐は連れだって天秤祭の喧騒の中を進んでいく。アイザックは出店を冷やかして回っているが、「困った事があったら、巡回してるウチの奴らに報告しな。駆けつけて来てやるぜ!」と、出店のひとつひとつに呼びかけて回っている。アイザックはこういう行動が素で出来るのから、部下もアイザックに付いてくるのだろう。と、考えを巡らせていた高山三佐が、祭りの喧騒の中である光景を目撃した事から今回の出来事は巻き起こるのであった。
《~その心は、揺れる天秤のように~》
天秤祭2日目、巡回警備の休みを貰った高山は、いつもと違う格好で後輩達を呼び出した。
「祭に行きますよ」
「いきなりどうしたんです?山ちゃん先輩」
「行くのは構いませんが、どの店舗に行くんですか?」
呼び出しを受けたユズコとリーゼは、唐突な高山の発言に困惑していた。二人を呼び出した高山は、いつものギルドの制服ではなく、私服・・・・それもかなりのボーイッシュなスタイルだったからだ。
「<ダンステリア>です」
「あそこって確か~?」
「ケーキ屋、ですね」
リーゼの言葉にユズコは手を打ち合わせ「そうそう!」と頷いている。高山がかなりの甘党であることは、ギルドの主要メンバー達の中では既に周知の事実になっているのだが。しかし、リーゼが気になっているのはソコではなかったのだが、高山は有無を言わせないオーラを、背中から発していたので聞くに聞けないでいたのだ。
「いいから、行きますよ」
「あ~、待ってくださいよ~、山ちゃん先輩~」
「仕方ありませんわね」
祭りに行こうと誘ったにも関わらず、リーゼとユズコを置いてきぼりにして、先々進んでいく高山を、二人は走って追いかける事にした。祭りの喧騒をくぐり抜け、目的地である<ダンステリア>へとやって来た3人は受付を担当している<ダンステリア>のギルドマスターである加奈子女史に「3人で参加です」と告げる。「はーい、三名様ですね、お席へどうぞ」と加奈子に案内されたテーブルの席につく。
席に着いた三人は辺りを見回して他のお客さんを観察している。どうやら女性達の他にはカップルで参加している人達もいるようだ。「まだでしょうか」と、どこかソワソワする高山をみてユズコはリーゼにコッソリと話しかける。
「リーゼ先輩、なんか山ちゃん先輩、すごくウキウキしてませんか?」
「やっぱりユズコにもそう見えますか?」
「そうとしか見えませんよ」
ヒソヒソと話す二人の視線の先には、周囲の目を気にもとめず、ウキウキとした空気を放つ高山三佐の姿があった。いくら超絶甘党でもそんなにハシャグものなのだろうかと、リーゼは思う。無論、リーゼもユズコも甘いものは好きなので、今回の高山の誘いも願ってもないものなのだが、来るなら来るで、別にギルドの制服で来ても問題ないのではないかとリーゼは考えていた。しかし考えても問題の答えは出てこないまま、加奈子女史が運んで来たケーキを前に、リーゼは考えるのをやめた。ユズコはケーキを見渡し。
「どれから食べます♪」
と、心を弾ませていたが。逆に、なぜか高山は心を沈ませていたのである。突如としてダークオーラを放ち始める高山に怯えたユズコは、恐る恐るリーゼに聞いてみる事にする。
「なんで山ちゃん先輩は、イキナリ不機嫌なんでしょう?」
「コレばかりは私にも分かりかねますわ」
高山と一番付き合いの長いクラスティ程ではないが、二人とてそれなりの付き合いは長い。しかし、今回の不機嫌の理由は分からなかった。
「なんで・・・・・。ホールじゃなぃの?・・・・・」
「?」
リーゼとユズコは首を傾げる、なぜホールケーキじゃないのかと言われても。周りのお客さんが食べているケーキだってカットケーキである。高山はカットケーキをフォークで、さらに小さく小さく切り分けると。フォークの先にちんまりと乗せて口に運び始める。その小さなケーキを、ムグムグムグムグと、長い時間をかけて咀嚼する姿が余りにも不憫になってきたリーゼは。
「先輩!、落ち着いてください!」
「そうですよぉ~、それよりも、何でホールケーキで食べれると思ったのか、教えて下さいよ」
「だて・・・きの・・・・・シロ・・・・・ホール・・・・」
余りに小さな声だったのでリーゼは高山の口許に耳を近づける。そして、ある事実を知る事ができた。
「昨日、<記録の地平線>のシロエ様が、同じギルドの女性二人と参加していたそうです」
「え、それってハーレムルートに入っちゃってるんですか?」
「さあ・・・どうでしょう?。とにかく、そのシロエ様達がホールケーキを7個も出されていた事が、今回の先輩の奇行に繋がってるようです」
「でもでもそれって。女性二人と参加したシロエ様に対する嫌がらせですよね?」
「私もそう思います。それでも、なぜ先輩が、私達3人で参加してホールで出てくると思ったのか。という答えには未だに繋がりませんが」
「あ、もしかして!」
ユズコは何かに気付いてポンと手を叩くとリーゼに耳打ちを始める。その内容にリーゼも「さすがにそんな訳ないでしょう」と返し、「でも、山ちゃん先輩って。たまに凄く天然な所があるじゃないですか?」とユズコが付け加える。二人はヒソヒソ話を打ち切ると、高山に振り向き、正面から勝負に出た。
「山ちゃん先輩、<ボーイッシュ>と<男装>って違うんですよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その長い沈黙が既に答えを物語っていたが。ユズコとリーゼは、またもヒソヒソ話を始める。
(まさかとは思ったけど、当たっちゃいましたよ先輩、どうしましょう?)
(聞いてしまった以上、知らない振りも出来ないでしょう)
恐る恐る振り反った二人の目に飛び込んできたのは、高山三佐の・・・。珍しく呆気にとられた表情だった。
「ち・・・違うんですか?、だって雑誌には「この夏のスタイルはボーイッシュにキメよう!」って、書いてありましたよ!?」
「あ~、なんて説明すればいいんでしょうか」
「山ちゃん先輩は・・・。今の先輩みたいにおへそをチラ見せさせてる男の人、街で見た事があります?」
ユズコのこの問いに高山は、手に持ったフォークをテーブルに落とした。そして驚愕の表情になり。
「見たことないです!」
「ですよね~」
「ボーイッシュっていうのは、あくまでそういうコーディネートスタイルであって。男装とは非なるものなんですよ」
「そんな!?・・・・・。じゃあホールケーキは?」
「ないでしょうね」「ないですね」
ユズコとリーゼに同時に言われ。高山三佐はテーブルに突っ伏してしまった。それだけならまだよかったのだが。ココに新たな火種が今。投入されてしまうのであった。
「あ!、ココがシロ先輩の言ってたケーキバイキングのお店だよ♪」
アキバの街のハーレムギルド(笑)である。<西風の旅団>の来店だった。このギルドの襲来に対して、加奈子女史はホールケーキ攻撃を開始する。しかし圧倒的なホールケーキ攻撃を前にした<西風の旅団>のギルドマスターのソウジロウは。
「皆~、僕らじゃ食べきれないし。皆も来なよ♪ケーキ無料だよ」
と・・・念話で援軍を要請。数分後には女性の人数はかなり増し。加奈子女史も負けじとホールケーキを追加していく。しかし・・・。ソウジロウ率いる女性達の大軍の前に。遂にケーキも在庫が尽きてしまったらしい。
「ああっ!、山ちゃん先輩が、視線で人を殺せそうになっちゃってます!」
「先輩!落ち着いてください!!」
「ホールケーキホールケーキホールケーキホールケーキホールケーキ」
「恐いです先輩、山ちゃん先輩が呪いみたいにケーキケーキって言ってます」
「諦めなさいユズコ。先輩の心の天秤は、ケーキの欲へと傾いてしまったんです」
「なにちょっと上手い事言った感出しちゃってるんですか!」
ホールケーキへの欲求に負けて。呪いの言葉を発し始めた高山を必死になだめる二人の前に。数個ほどのホールケーキが置かれた。
「貴女達もケーキ食べに来たんでしょ?、そんなに小さいカットケーキじゃものたりないわよね。お裾分けよ♪」
見た目はガッシリした大男なのだが、心は乙女という。ドルチェの気配りよるお裾分けによって。高山は先程までの呪いの表情から笑顔へ変わり、幸せそうにホールケーキを食べ始める。
ホールケーキにありつけたのが余程嬉しかったのか。
「山ちゃん先輩耳!、耳出ちゃってますってば!?」
「♪~♪~♪~♪~♪~♪」
「全く聞いてませんわ」
リーゼとユズコは何とか無事に帰れそうだと、胸を撫で下ろす。二人はドルチェにお礼を言って頭を下げると。ドルチェは笑顔で。
「いいわよぉ。女の子はみ~んな、甘いものには目がないんだから」
こうして、高山三佐の天秤祭巡りは無事に幕を閉じようとしていたのだが。
「三佐・・・・・・。さすがにホール7個はいきすぎだと思うよ?」
と・・・。クラスティに言われてしまい。高山三佐のギルド内部の密告者探しへと発展してしまうのだが。それはまた別のお話である。
ちなみに・・・・・ドルチェには後日。リーゼとユズコから
~「あの時は本当にお世話になりました」~
と・・・書かれた手紙が添えられた御歳暮が贈られたらしい。




