第12話
もう少しで完結させる予定なので、このままの載せかたで通そうと思います。
~ 謎の黒い亜空間 ~
「んで、いつまで意地張ってるつもりなの?、インティクス」
「うぐ····元はといえばアナタが」
「今は私達しか居ないんだから、昔の喧嘩は置いときなさいな」
「それでも····、アナタに借りを作るのはなんかシャクです」
「相変わらず意地っ張りなのね」
「///うっ、うるさいですよ!?///」
事の始まりは数時間前に遡る。アナスタシアはクオンから依頼を受け、ミナミの街の地下坑道の調査をすることになったのだが。坑道の入り口でインティクスと鉢合わせてしまい、アナスタシアの監視を名目としたインティクスと共に調査を行っていたのだが。調査中、坑道の劣化により足場が崩れインティクスが転落。アナスタシアもそれを追い掛けてさらに地下まで降りてきていたのだが。
「あ~もう!!、出口どころか道すらないじゃないですか」
「バグエリアっていうのはそういうものよ」
「なんでアナタはそう冷静なんですか!!」
「何度も体験してるからね~」
歩けど歩けど黒い空間が続き、果てが見えないせいでインティクスが癇癪を起こし始めてしまうが、アナスタシアは流すだけで気にしていない。アナスタシアが平然としているので、余計にインティクスの癇癪に燃料を投下してしまっているのである。
「アナタと会ってからというもの、ケチが付きっぱなしです」
「初めの1回は自業自得だと思うけどね」
アナスタシアは大災害の数年前、インティクスの暴走行為を諌める為に相対したことがある。<軌跡>のメンバーは<放蕩者の茶会>の面々と顔を何度か付き合わせた事があるのだが。<軌跡>所属の中ではアナスタシアと伊織のみ例外に当たるのである。アナスタシア(鷹宮)はレイドやイベントには参加していないので、見かけた事はあるが面識が無い状態、伊織の場合は既に解散していたので会う事が出来ないでいた。
「別に私はインティクスの事が嫌いではないんですよ」
「嘘ばかり」
「まあ、アキバに手を出すなら容赦はしないという建前はありますが」
「本音は別だとでも?」
「本音を言えば、ぶっちゃけ面倒だから静かにしておいて欲しい」
「よくもまあ、そんなことを言えますね」
「事実ですよ?、ただでさえ面倒事が多いんですから、プラントフロウデンが静かにしておいてくれれば、ヤマトを走り回らなくて済みますしね」
「それを信じろと?」
「お好きにどうぞ」
インティクスは歩いての出口探しを諦めたのか、床に正座する。アナスタシアも床に座り、煙管を取り出してふかしはじめる。
「鷹宮、バグ体験が豊富ならなんとかなさい」
「あんま無理すると、空間壊れて地下坑道が使えなくなりますよ?」
「それは····さすがに困りますね」
「別の場所に空いた穴を探して出るのが安全ですよ」
そこまで言うとインティクスも静かになり、マジックバッグから紅茶を取り出してのみ始めた、また長歩きしないといけないので気分を落ち着けているのだろう。数分の休憩の後、二人はまたバグ空間をひたすら歩き続ける。
「何か話なさい」
「いきなり何ですか?」
「殿方は女性を退屈にさせないために、面白い話をしなければいけません」
「今は女性ですので該当しません、·····っと、ここからなら」
「?」
アナスタシアは周りの空間を調べるように手をかざしているが、インティクスには何もない空間で手を振っているようにしか見えなかったらしく。
「何をしているのです?」
「ん?、この辺りの数値変動の起きやすさを調べているんです」
「数値変動を?」
「ええ、バグエリアといえど、数値変動の設定値はバラバラなのでバグが起きやすいかそうでないかの違いがあるんですよ」
「でも、調べてもどうにもならないのでは?」
「インティクス、<口伝>は使えますか?」
「愚問を、当然です」
「なら結構、ココから穴を開けて出ますよ」
「鷹宮、<口伝>とはなんなのです?、運営のテストプレイヤーなら、知っているのではないですか?」
「·······なんと言えばいいんでしょうね」
アナスタシアは、システム上にはないのであくまでも仮説であると前置きして話を始める。
「インティクス、アナタはそのアバターの能力を100%使えていますか?」
「·······どうでしょう、よくて60~80%なのではないでしょうか?」
「まあ、この世界を現実として受け入れてしまっている人達はそうかも知れませんね、私とてこの世界に来た当初ならいざ知らず、今は70%くらいしか使ってないと思います」
「人間の本能ですね?」
「まあ、そうですね」
「それが口伝とどう?」
「<口伝>は恐らくバグの一種です」
「な!?」
「あくまでも推測であり仮説です」
インティクスは額に手を当て、何かを考えているらしく黙ったまんまだ。
「話を続けますね、変動数値を発想力が上回れば、ゲームなら当然ですが」
「設定値を越える行動は予測されていないからバグが起きる」
「そうです、ゲームの様に一種づつスキルを使うのではなく複合させて使うと、当然ですが予測設定値を上回ります、そして」
「<口伝>と呼ばれるバグが起きる、と」
「後はまあ、火事場の馬鹿力のようにアバターの能力を100%使い、限界数値を越える場合に起きるかもしれません」
「人の想いが、予測を上回る、それってまさか」
「そう·····ある意味、<奇跡>と呼んでいいかもしれません」
ここまでの話を聞き、インティクスにも様々な想い辺りがあるらしく眉間に皺をよせて考えにふけっているらしい。
「濡羽様の<口伝>は恐らく前者ですね」
「ああ、変身する」
「ええ、ですが·····」
インティクスはまだ何か府に落ちない事があるらしく、顎に手を当てて考え込んでいる、アナスタシアはある内容を捕捉するような話をインティクスに話した。
「そんなバカげた理由で!?」
「日本は娯楽の多い国ですしね、何かで読んだ技を真似るくらいは可愛いと思いますよ?」
「それは、そうかもしれませんが」
「今は止めましょう、取り敢えず脱出しないことには」
「そうですね」
インティクスは剣を抜き、アナスタシアは体術の構えをとり拳を構える。
「それで、<口伝>を同時に放てばいいのですね?」
「同時に起こせばこの辺りの空間にヒビが入るはずです」
「分かりました、今はその言葉を信じましょう」
「では」
「はい」
二人はお互いに呼吸を合わせ、同時に動き出す。
「【殲滅の薔薇】!!」
「【緋蓮戦孔】!!」
お互いの<口伝>が放たれたと同時に空間にヒビが入り、二人はそのヒビに体当たりするように突撃した。ガラスが割れるような音と共に二人の眼前には見知った景気が飛び込んでくる。
「やれやれ、アナタといるとほんとろくな目に逢いません」
「それに関しては面目ない」
「それに監視者逹の寄越した報告と違う口伝まで」
「まあ、口伝を調べる為に色々試しましたし」
「私はやはりアナタが好きになれそうにありません」
「インティクスは<茶会の主催者>以外はそうなんじゃないです?」
アナスタシアがそう言った瞬間、剣が首筋に当てられる。
「私達の事を理解してない人に、そんなことを言われる覚えはありません」
「それもそうですね、失言でした。じゃあ私は、面倒ですが地下のバグ穴を塞ぎに行かないと行けないのでこれで失礼しますね」
アナスタシアがそう言って後ろに下がったのを見てインティクスは剣をさげた、アナスタシアは脱出した場所から再びミナミに向けて歩き出し。インティクスは一緒に帰るのも癪なので静かに見送った。ふとインティクスは自分の剣に違和感を感じて、手元を見下ろすと。
「アイツ、いつ折ったのよ」
二振りの剣は知らない内に根元付近で折られており、インティクスは折れた剣を見ながらアナスタシアが去った方向を静かに睨んでいた。




