第11話
~想いを繋ぐ者達~
冒険者達がエルダーテイルの世界に迷いこみ、セルデシアと呼ばれるこの世界で過ごす初めての冬がやってきた。天秤祭で催された新作冬物衣類を買い込み。可愛くコーディネートをキメ込む人も増えて来ていた。しかし・・・・・・
「殺人鬼、つか通り魔だな」
「もう何人も被害が出ていて、<西風の旅団>が犯人討伐の為に
総動員で動いているそうです」
買い物から戻ったレオンと伊織から聞いたアキバの街の現状に、アナスタシアはどうやって対処するべきか悩んでいた。そんな彼女の悩みを理解したのかレオンは。
「<西風>だって動いているんだ、今は動向を見守るしかないだろう」
「そうですが、その<西風>が問題なんです」
「どういう事だ?」
レオンの疑問に、アナスタシアはある前置きをしてから話を始める。衛兵が出てこない以上、犯人は大地人の可能性が最も高いこと。次に、その大地人を切り捨ててしまえば親善大使であるレイネシアの立場が危うくなること。
「少し前に、<西風>のドルチェさんから相談を受けました」
「内容は?」
「『ソウちゃんを止めてほしい』だそうです」
「・・・・・。どんな裏があるんだ?」
アナスタシアは<西風>のギルドマスターであるソウジロウの話をおおまかに説明した。かつて未制覇に終わってしまったが。レギオンレイドで共に戦って以降。彼等。いや、正確には彼女等<茶会>と言った方が正しいだろう。レオンハルト達は彼女等とは戦友であり。仲間でもあった。他ならぬ<茶会>の面々と顔を合わせた事がない<軌跡>のメンバーは。アナスタシア(鷹宮)と伊織だけである。当然レオンハルトだってソウジロウの事は知っているのだから説明は不要のはずだ。しかし、説明せねばならない理由と事態が、今・・・起こってしまっているのである。
「ソウジロウがそんな事を言ったのか!?」
「ドルチェさんが教えてくれたんですから、嘘や脚色も入ってないはずです」
ドルチェは<西風>の事務担当であり。公正な決断ができる大人として、<西風>の中でも皆に慕われている。
「この街を取り仕切る、<円卓会議>の11ギルドの1つだからこそ
大地人に手をかける事は赦されない事態なんです」
「政治外交ってのは、何処の世界でも同じで、難しいと言うわけか」
「そういう事です」
アナスタシアはギルドの窓から見える雪化粧が施された街並みを眺める。この静かな景色の裏では。戦争が起きかねない事態になっているのが、とても切なかった。
レオンハルトはアナスタシアに「余り気に病むな」と言ってくれるが。アナスタシアは首を振り。
「せめて犯人が事前に分かっていれば、私が止めれるんですが」
「Ex-Sを使うのか・・・」
「余り誉められたものでは、ありませんけどね」
アナスタシアには、プレイヤーが手を組んで、集団で悪行行為を働いた時に制裁を加えるめのステータス調整システムが付いている。これを使えば例えばレギオンレイドクラスのレイドボスでさえ1人で倒せる程の能力になれるのだ。アナスタシアは、最悪の場合は・・・・。自分がその身をもって責任を取ると言っているのである。
レオンハルトはアナスタシアの肩に手を置くと。
「そうなったら、俺も付き合ってやるよ」
「私も!、私も!」
レオンハルトと伊織の二人がそう申し出てくれたのが、アナスタシアには嬉しかった。だから。
「まあ、二人の事は絶対守りますよ♪、何せ私、チートですしね」
「はい♪、頼りにしてます」「・・・・・・・」
明るい伊織とは裏腹にレオンハルトは何かを考え込む。その表情は真剣で、悲痛に満ちているようにも見えた。
「ソウジロウ君の事ですね?」
「ああ、あいつがあんな事を言うのが未だに信じられなくてな」
「異常者・・・・ですか」
レオンハルトにはソウジロウがギルドの部下に言った
~切り捨てろ~
という言葉が信じられないでいる。
表情を曇らせていたレオンハルトに、アナスタシアは明るく異常な事をいい放つ。
「別にそのくらい、いいじゃないですか」
「そのくらいって、おまえなぁ・・・」
「マスターだって、そういう事をして捕まった事があったじゃないですか」
「・・・・・・そうだったな」
アナスタシアの身に起きた異変は、共にアキバに帰ってきた後でレオンに話してある。今さら言い替える必要もないだろうと、レオンも受け入れてくれた。だからアナスタシアも、主(鷹宮)の話をする時はマスターと発言するようにしている。
「あれは確か、ツグミが学校の不良集団に目を付けられた時だったか」
鷹宮とレオンがまだ出会って間もない頃、彼等の学校の不良集団に、鷹宮と幸隆の幼馴染みであったツグミが目を付けられて、監禁されて性的暴行を受けそうになったことがあった。二人は何とか現場の突撃して、間一髪で彼女を助ける事に成功した、だが・・・。涙を流し、衣服の乱れた姿の彼女を見た鷹宮は。
「お前ら・・・」
「なんだガキぃ、良いところなんだから邪魔すんじゃねぇよ」
「あんなエロい体付きしてんだからとっくに男とヤリまくってんだろ?」
「「ギャハハハハハ♪」」
「死ね!!クズ共があ!!」
保健室へツグミを連れていき、職員室へ教師を呼び来た幸隆と共に現場に来たレオンは、その光景に絶句してしまう。
「どうしたよぉ!!、5対1だぞ、アイツが味わった恐怖は
まだこんなもんじゃねぇ!!」
不良集団は顔をグシャグシャに潰され、反り血を浴びた鷹宮は、恐怖に脅える不良達を何度も何度も・・・・殴り、踏み潰し、ひたすらにいたぶり続けた。
「もう止めろミヤ!!、それ以上は死んでしまうぞ!!!」
「止さないか鷹宮君!!、後は警察の仕事だ」
「離せ!!、警察なんかあてになるかよ!!、俺の大事なもんを
コイツらは傷つけやがったんだ!!、離せ!!離せーーーーーーー!!!!!!」
未成年であるため罪には問われないと思われていた不良達は、グループの1人の自供と、その自供者による他の婦女暴行事件の証拠により、少年院送りとなった。
鷹宮も・・・・。一応は罪に問われなかった。
「ココが異世界だからなんでもやっていいって言ってる訳ではありません
でも・・・・・。ヘタに正義を振りかざすよりは、たとえ異常者と呼ばれても
大事な誰かの為に動ける方がいいと私は思いますよ・・・・・・」
「説得力があるのかないんだか・・・。関係者だった立場としては
あんなのは勘弁願いたいもんだが」
「他の異常者(鷹宮)を知る関係者として、ソウジロウ君には
後でお説教でもしてあげればいいじゃないですか」
「簡単に言うな!!、それならミヤの方が適任じゃないか!」
「そうかも知れませんね、っふふ」
「笑い事じゃないぞ。あの時も、どれだけ頭を下げて謝ったか」
本来は退学処分でもおかしくはなかった鷹宮の処分は。この事件を表沙汰にして学校の評判を落としたくないという、汚い大人達の都合のお陰でうやむやになった。レオンハルトも、「当事者として、鷹宮君が退学になるようなら」と脅しとも取れる一言を叩きつけた後で、ひたすらに頭を下げて
「せめて半年の停学で許してやってもらえませんか」
と、お願いし続けてくれた。しかし。風評や噂が消えるまでは復学はさせられないと結局一年間も停学を受けた訳であるが。特に鷹宮は気にしなかった。そんな彼に。
「折角だから、俺も自主停学を受けた、ミヤ1人にはさせたりはしないさ」
「みーちゃん、私・・・・・怖かった、怖かったよーー!!」
「あ~あ~、鼻水ついちまうだろうが、ほれチーン」
「ブビー、あ~すっきりした」
「やれやれ、お前らもバカじゃねぇのか」
「ミヤが居ないとナンパも上手くいかないからな」
「みーちゃんにバカ言われたくない」
「おいお前ら~」
レオンハルトがバイクで通りかかって声をかける。バッグの中からあるものを取り出して鷹宮に放り投げると。
「一年間も停学なんて暇だろう、一緒に遊ぼうぜ」
レオンハルトが投げて渡したのはエルダーテイル導入パッケージだった、レオンハルトは教育実習の打ちきりをうけたが。近くの大学に英語と海外史の講師として引き抜かれ、引っ越した先を探す途中だったらしい。鷹宮が祖父の経営しているアパートを紹介すると。「なんとか停学ですんだんだから家賃まけてくれ」と言って住むつもり満々だった。それから一年間。幸隆と共にレオンに勉強を習い、時にエルダーテイルで3人ではしゃぐという、賑やかな停学生活を彼等は送ったのだった。
「つかみーさんのその話。ツグミさんから聞いたけど・・・・・何歳の時?」
「13だったかな?」
「俺は19~20だな」
「どんだけヤンチャなんですか!?」
「若さっていうのは振り返らない事なのよ」
「みーさんは宇宙刑事じゃないでしょーが~!?」
「あっははははは♪」
「レオンさんも笑ってる場合か!」
昔の話を持ち出して笑う中、骨董品店に荷物が届いた。ドアを開け、小さなモフモフの猫妖精スタイルの黒猫の配達人を見送り。カウンターで箱を開けると。中には蒼く銀色に光耀く石が入っていた。
「ほう、綺麗なもんだな」
「綺麗~♪」
「なんでこんなものが届くんですか!?・・・」
「どうした?」
「どうしたもこうしたもありませんよ」
アナスタシアがカウンターの下から取り出したアイテムカタログを二人に渡す。受け取ったレオンは【アイテム目録<ノウアスフィアの開墾>】と書かれたそれをパラパラ捲っていき。あるページに目を止めて驚愕した。
「おいおい、マジかよ」
「どれどれ?」
伊織もレオンが覗いているページを見て言葉を失う。そのページに載っているのは先程届いたばかりのアイテムで。そこに書かれた内容は以下のものである。
******《月の涙》**************************
最上級神話素材
【フレーバーテキスト】
月に眠る秘められた想いの数々が込められた耀石。
その石は持つものを守り、想いを繋ぐ者へと祝福を与えその身を護る。
*************************************
「入手レベルは100!?、レア度は【未定】
まさに至宝といっても過言じゃないな」
「誰かがこのヤマトで、今まさに90レベルオーバーのレイドを?」
「ええ、間違いないわ。このアイテムもまだ解禁すらされていないのに」
三人が言葉を失っていると。骨董品店に新しい来客が訪れる。小さなドワーフの少女で名前は<多々良>というらしい。少女は錬金鍛冶素材コーナーへと走って行き、並べられた素材を穴が空かんばかりに吟味していく。
「ダメ、他の所と同じのしかない。これじゃあ・・・・・。
あの子を・・・・守ってあげられない」
「どんな素材を探してるんだ?」
少女の落ち込み具合に思わず声をかけたレオン。振り返った少女はカウンターの上に置かれた石を見て。
「あの!!、お願いします・・・・。その石を・・・譲ってください!!!
お願いします!!私に払えるものなら何でも払いますから!!」
ただ事ではない事態に三人も思わず顔を見合わせる。伊織が少女へ、どうしてこの場所に来たのか聞いてみた。
「ロデリック商会の人から、ここなら珍しい物があるはずだからって」
ロデリック商会は以前にも、この店の倉庫で山程眠っていたジョークアイテムである《外観再決定ポーション》を箱買いしてもらった事がある。恐らくはそこからこの店の詳しい場所を聞き、走って来たのだろう。
「多分今夜、あの子は・・・・初めての強敵と戦う事になるから、だからっ!!」
「少し待ってて」
「おいアナスタシア」
アナスタシアは奥へと消えていき、カウンターの前に残された2人は気まずくなってきた。お互いに顔を見合わせて困っている。数分後、アナスタシアはある大きな包みを抱えて戻ってきた。アナスタシアは包みを取り外すと。
「いい多々良ちゃん、よく聞いてね。この<月の涙>はこの<太陽の心>という鎚でしか打つ鍛えることができないの、だからコレも持っていきなさい」
*******《太陽の心》************************
最上神話級の鍛冶用の鎚
【フレーバーテキスト】
この鎚でしか<月の涙>を鍛える事ができない。
この鎚によって<月の涙>に込められた心は<月の涙>の想いを解き放ち、全ての呪いを跳ね返し、所有者を守ってくれる唯一無二の存在へと生まれ変わる。
*************************************
アナスタシアは<太陽の心>と<月の涙>を少女へと渡してあげる。
「あの!!、代金は!?!?」
「いらないわ、早くしないと夜に間に合わなくなるわよ」
「ありがとうございます!!、終わったら絶対返しに来ますから!!!!」
少女は頭を下げると急いで店を飛び出して行く。
その姿を見送ったレオンと伊織は、アナスタシアへと詰め寄る。
「なんであんな物まで渡したんだ?」
「あれって、本来は部外秘なんじゃあ・・・・」
「それは・・・。おそらく、レイドをしているのがシロエ君で
あの子が鍛えた剣を使うのがアカツキっていうシロエ君を想っている子だから
その想いを、呪いで引き裂かせたく無かったのよ・・・たぶんね」
「そうか」「そっか」
アナスタシアの言葉を噛みしめるように二人は顔を見合わせて笑った。そこへまたもや客人が訪れる。
「今日は珍しい事ばっかりだな、いらっしゃって」
「ご無沙汰してますレオンハルトさん」
「ソウジロウ、なんでここに」
「場所は、さっきすれ違ったシグムントさんに聞きました。あと、お願いがあって」
ソウジロウは、少し言葉を選びながら喋り始める。シグムントに会った時に同じお願いをして怒られた事、その事に思い至らなかった未熟さ、だからこそ最後まで見届けたいと言うこと。
「『自分が大好きな人達に、その手を血で汚せと命令だすような子供の面倒など見ていられない』って、シグムントさんの言葉で目が覚めました」
「相変わらずだな幸隆は」「ほんとにねぇ」
「それで、レオンさんにお願いしたいのはですね」
「お前を押さえておけばいいんだろう?」
「へ?、なんで分かるんです?」
呆気に取られるソウジロウの背中を叩き、レオンは「行くぞ!」と声をかけて外へと向かっていく。慌てて追いかけるソウジロウ。アナスタシアも静か笑みを浮かべると伊織を伴い二人を追いかける事にした。
ドルチェから対殺人鬼の作戦を聞き出した面々は。アキバを一望できる場所の建物内部のゾーンへと移動し。その瞬間を待つ。そして・・・・・戦いは始まる。
ルグリウスの怨霊は作戦どうりに徐々に移動し。そのHPを少しづつ減らしていく。
戦いの最中。氷にアカツキの剣が捕らえられた。ソウジは思わず飛び出しそうになってしまい、レオンに羽交い締めにされて踏みとどまる。
「アカツキさんの剣が!!」
「落ち着けソウジ!、まだ終わってない、最後まで信じて見届けるんだ!」
「っ・・・・・・・はい!!」
「あの子の新しい剣、間に合ったみたいね」
「あれが・・・・」
アカツキは新しい剣を持ち、涙を流しているようだった。アカツキはその剣で一心不乱にルグリウスの怨霊の宿る剣を攻撃していく。そしてついに、アカツキ達は勝利を収めたのが見えた。
「良かった~、なにかあったらシロ先輩に怒られちゃうとこだったよ」
「そうも行かないみたいだけどね~」
「どうやら水を差す輩がいるらしい、手伝えソウジ」
「え?あっ、はい!」
レオンハルト達が向かう先に居たのは冒険者達だった。ソウジはその顔を見て暢気に挨拶を交わす。
「皆さんもご苦労様です♪」
「バカかソウジ、コイツらはプラントフロウデンだぞ!!」
「あ~、どうりでアキバで見かけない人だと」
「くそ!!1番、早く行け!!」
「4人しかいないなら我等だけで十分行くぞ!!」
「全く、良いところに水を差すような真似をしやがって、行くぞソウジ!」
「はい!!」
プラントフロウデンの斥候8人対して彼ら4人しかいなかった、にも関わらず。
「なんだこの<武士>!?、攻撃がまったくあらねぇ!」
「僕の【天眼通】を甘くみてもらっては困ります<八相斬り>!!」
「ぐぎゃあ!!」
「止めはさしません、おとなしくミナミに帰ってください」
「おのれぇ!!」
止めを差してしまえばアキバの大神殿で復活してしまうので、ソウジは止めを差さず大人しく斥候を見逃した。そして振り返ると。
「さて、他の皆さんはと」
ソウジロウの眼に映ったのはなんとも鮮やかな光景だった。
「【幻想漆黒牙!!】」
「【天幻流抜刀術奥義・天冥五行陣!!】」
「【銃弾術式・改!!】」
「・・・・・・・・」
三人はそれぞれ口伝を放ち、斥候を片付けると。眼前に剣を降り下ろし。
「インティクスに伝えなさい、妙な真似を控えないと、
以前のような目に合わせる、と」
「次はもっと上手く動くことだ」
「盗剣士が剣で妖術師に負けちゃだめですよ~」
それぞれが言いたいことを言い放つ。ソウジロウはもはやあきれるしかできなかった。
こうして。アキバの街を襲った事件は小さな燕達によって無事解決し。
残すは燕の大切な主達が無事に帰ってくるだけとなった。




