第10話
~伊織と鷹宮と~
=天秤祭=
待ちに待った祭が始まり、街の熱気が広まる中
レオンハルトは空を見上げてため息をついた。
「一体なんですか?、辛気臭いったらありゃしないじゃないですか」
「聞いてくれるか伊織」
「なんです?」
先日のナカスでのオロチ退治が終わり、レオンは猫介と別れて
アナスタシア達と共にアキバへとやって来たのだが
「久しぶりにギルドのアキバ支部に行ったらな」
「あ、もう言わなくても分かります」
「分かるか、はぁ~、何でオレのギルドが
シグムントの専用ラブホになってしまってるんだ!!」
「あえて言わないでくださいよ、それに愚痴なら本人に言ってください」
「言えるか!?、ベッドはギシギシいってるし、アセリアの声が響くなかで!!」
「だから~、みーさんが店に泊まれって言ったじゃないですか」
「今それを痛感してる真っ最中だ・・・・」
空をまた見上げて何度目かになる溜め息をつく
そのレオンの頭を後ろからポフと叩く人物が居た、レオンが首をあげ振り返ると
アナスタシアが出店で購入した料理を持って戻ってきていた。
「溜め息ばかり付いてないで、お祭りを楽しんでください」
「はぁ~、だよなぁ・・・せっかくの祭だしな・・・はぁ」
「レオンさんうっとい!!」
伊織にオシボリを顔へ投げつけられたレオンは微動だにしなかったが
やがて顔にへばりついたオシボリを取ると、まだ表情は暗いながらも
アナスタシアが買ってきた料理に手を伸ばす。
「ふぉれおいひい」
「うふぁいなふぉれ」
「だから、なんでアナタ達は皆食べながら喋るんですか」
アナスタシアが紙ナプキンで伊織とレオンの口元を拭いてやる
その仕種を見た二人は同じ感想をもったらしく、同時に同じ事を言った。
「何かお母さんみたいです」「何か母親みたいだな」
二人は次の瞬間、脳天に衝撃を喰らう
それはアナスタシアが放ったゲンコツであり、かなり痛かったらしい
二人は涙目だった、頭を擦りながらも料理を食べる二人
料理を食べ終えたレオンは久し振りだからと近況報告を聞いてくる。
「葛葉はギルドの部下達相手に祭を案内中ですね
シグムントはアセリアとデート中です」
「二人は、何か無いのか?」
「あ!、そうだ」
伊織は悩んでいたある問題をレオンへと問い掛ける
それは伊織の新しいサブ職の事だった。
「<神殿騎士>か、どんな特性なんだ?」
「剣(ロングソード系)と鎧が装備できて
<ヒール>と<ハイ・ヒール>、あと<オーラセイバー>が使えるように」
「戦闘スキル追加系か」
「それでその」
伊織は少しいい淀む、レオンは「どうした?」と続きを待つ
伊織は一度深呼吸し、言葉を紡いだ。
「みーさんが昔やってたオリジナルビルドを<妖術師>でしたいんです」
*オリジナルビルドとは*
オリジナルビルドはゲームには用意されてない個人の趣味によるビルドで
<付与術師>のスプリンクラー等がオリジナルビルドに分類される。
*~~~~~~~~~~*
<軌跡)>のギルドに所属するメンバーの半数は既製のビルドだが
アナスタシアとレオンハルトはオリジナルビルドに該当する
シグムントと葛葉は既製ビルドである。
「レオンさんはサブ職の<遊撃手>込みでビルドしてますよね?」
「ああ、サブがなかったらロクに役にたたんビルドだな」
「でも、レオンさんの強さは普通に<暗殺者>を遥かに上回ってます」
レオンハルトは普通の<暗殺者>と違い前戦能力に長けている
<暗殺者>はその防御の薄さから、素早さ特化か攻撃特化になりやすい
しかしレオンは<遊撃手>の特性である、数種の装備の追加と
攻撃力の数%を防御力へとコンバート出来る<支える籠手>のスキルを利用して
防御力を底上げし、<武士>を上回る防御力を獲得している
<暗殺者>が最前線で常に脅威を振るい続けるそのオリジナルビルドを
レオンは<執行者>と呼んでいる。
前線で<守護戦士>と共に常に剣は振るい続ける姿を見た者達は
レオンハルトを<剣帝>という二つ名で称している程である
それ故にレオンならば伊織の疑問にも答えてくれると思ったのだ。
「伊織は元々<魔法剣士>形のビルドだったよな?」
「はい、そうですが」
「ならこんなのはどうだ?」
レオンはアナスタシアがいつも持ち歩いているメモとペンを借りると
そこに<妖術師>のビルドスキルを書いていく
レオンはペンの背でメモを指しながら語りはじめる
「今の2職で何が足りない?、火力か?回転率か?」
「うーん、火力よりは汎用性でしょうか?」
「ふむ、それだとココをこうしたらどうだ?」
「成る程、それなら補えるかも」
「まあ、先ずは今の2職業のセットを使い込んでみるのがいいかもな」
「カスタマイズするのはその後で、と言うことですか?」
「その方は失敗は少ないだろう」
成る程と頷くと、伊織はレオンの書いたメモをいそいそとバッグへ終う
レオンは真剣な表情で伊織を見つめていた。
「なんです?」
「いや、どうして葛葉じゃなくてミヤなんだ?」
「・・・・・・・」
「葛葉の姪っ娘なら、アイツを目標にするもんじゃないのか?」
伊織は言葉を失う、アナスタシアもただただ黙っているだけだった
しかし、気付いていて喋らないアナスタシアには伊織としても助かっていた
伊織は昔話をしますと前置きすると、静かに昔を語り始める。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昔、両親が共働きで寂しい思いをしている子供が居ました
母親はキャリアウーマンで父は証券マン、忙しい二人は家に帰るのが遅く
昼食はまだしも夕食ですら一緒に食べる事が出来ませんでした。
しかし両親の愛情が薄い訳でもなく、風邪をひけば
二人して看病してくれたし、参観日にはハンディカムを手に二人で来てくれました
だから子供は二人が大好きでした、しかし、だからこそ・・・
子供は大好きな二人が居ない事が寂しくてしょうがありませんでした。
ある時、両親の仕事の都合で引っ越しをしました
その家は子供にとっては以前よりは幸せでした、母の妹
伯母が近くに住んでいて頻繁に遊びに来てくれました
子供は笑顔になりました、しかし・・・それも長くは続きませんでした
伯母が仕事でヒロインの声を勝ち取ったと喜んでいました
しかし、伯母も帰りが遅くなり、子供の生活はまた逆戻りしてしまいます
ある時伯母は、自分のパソコンを使って遊んでもいいと言ってくれました
子供はそこでエルダーテイルと出会います、そして・・・・
「オーイ葛葉~?、ってあれ?ボイス繋がってないのか?」
ソコから聞こえた声に子供は驚きます、恐る恐るヘッドセットを着けた子供は
勇気を振り絞りました。
「あの、姉さんは仕事で・・・」
「アイツ、この時間に待ち合わせだって言ったくせに仕事って」
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」
子供は怯えてしまい、ひたすら謝りました、しかし相手は
「ああいやこっちこそゴメンな、君の名前は?」
「私?」
「そう、よかったらオッサンに教えてくれないかな?」
子供はどうすればいいのか悩みました、そんな子供の心に気付いてか相手は
「やっぱいいや、知らないオッサンに名前は教えちゃ駄目だしな
さて、君はゲームってしたことあるのかな?」
「ない、です」
「そっか、じゃあ葛葉が帰るまでオッサンとお話するか」
「はい♪」
その優しい声のオジサンは伯母と知り合った切っ掛けや、そのゲームを始めて
楽しかった事、悲しかった事、腹のたった事、子供に沢山の話をしてくれました
子供は、ただそれだけの事が凄く嬉しくて、知らず笑っていました。
伯母が帰ってくると子供からヘッドセットを借り
「ゴメンねみーちゃん、そんな怒んないでよ・・・ね?
なんなら一回抱くか?、まだピチピチや!!行き遅れちゃうわみーのアホ!
え?、ああうん、本当に!?、ありがと~♪」
伯母とオジサンは何やら話をしているらしい
伯母は椅子に座って膝に子供を乗せるとヘッドセットを子供に付けてあげ
画面を指差して
「今○○が話してるオジサンはこの人だよ」
そう言ってある名前を子供に教えました
それからと言うもの、子供は学校から帰ると伯母の家に遊びに行き
パソコンを借りて、伯母の友達のオジサンとお話を沢山しました
それから数年が経ち
子供は高校生になることになりました、近くの高校へ受験しに行く途中
大人になった彼女は道に迷ってしまいました、常に伯母の家に行っていた
彼女には、街はまだ知らない世界でした、そこで彼女はある人に出逢います
「○○高校なら、そこを右に行けば直ぐ見える
早く行かないと試験に遅れるぞ?」
「!」
道を教えてくれたスーツの人の声に彼女は驚きます
その声はいつも画面越しに彼女と話してくれたオジサンの声でした
彼女ははやる鼓動を抑えて学校へ試験を受けにいきます
問題なく合格することのできた彼女にまたも問題が起きます
それは、母が海外へ転勤となり父もそれに付いていくことになったのです
彼女は嫌だと駄々を捏ねました、両親も実は
彼女には海外よりも日本に居て貰いたいと言っていました
しかし・・・・独り暮らしは危ないから許可できないと言われ
伯母の家では狭くて二人で暮らせないと言われてしまいます。
「ん~、あとはみ~ちゃん所しか思い浮かばないけど」
その伯母の言葉に彼女は顔を上げました、一緒に見に行こうと伯母は言います
両親も危険がないか付いていくと言っていました
着いた場所は彼女がオジサンとすれ違った道の近く
伯母かその場所の説明をしてくれます
「元は古武術の道場だったみたいなんだけど、み~ちゃんのお祖父さんが
道場壊してみ~ちゃんの為に共同生活のアパートにしたんだって」
「大家さんは男性?女性?」
「ん、男性だけど一応結婚してるし」
「働いてらっしゃる人なの?」
「公務員の地域科だったっけかな?」
「会ったことある人かしら?」
彼女は母と伯母の話の途中でインターホンを押します
はやる心を抑え、出会った人は
「あら~?、桐先輩じゃないでかぁ~、なにかご用で~?」
随分と間延びしたしゃべり方をする人だった、伯母の知り合いらしいその人は
アパートの住人なのかもしれないと挨拶する。
もし住むことになればお隣さんになるかもしれないからだ
「つぐちゃん、み~ちゃん居る?」
「夕飯の買い物だからぁ、すぐもどるわよぉ?」
(居ないんだ・・・・)
二人の会話から彼女はオジサンが居ないと分かると
少し沈んだ気分になってしまいましたが
「なんだ桐葉?、まーた晩飯食いに来たのか・・・っと
町内会長さんもご一緒でしたか、家に何か御用で?」
「あら、ここって鷹宮さんの経営されてるアパートでしたの?」
「ええ、そうですが・・・、おい桐葉、何がどうなってる?」
「あ~、ちょっと・・・ね」
彼女はその声に心が踊りました、やっとオジサンに出会えたのです
母もオジサンの事を知っていたらしく彼女がココに住むのを許可してくれました
そして彼女に小声で話かけて来ました
「チャンスですわよ、鷹宮さんは好青年ですし、公務員は生活安定してるから
今のうちにツバつけちゃいなさい」
「ふぇぇ!?、でも伯母さんがあの人結婚してるって」
「あんなフワフワポヤポヤ、既成事実を先に作ったもの勝ちですわ」
「そんな無茶苦茶なんて駄目だよぅ」
「あら、嫌だとか無理だとは言わないのね、ははぁーん♪
鷹宮さんがあなたが何時も言ってるオジサマですのね♪」
「//////////」
彼女は無茶苦茶な母に顔を真っ赤にするしかなかった
しかし母は
「恋愛方法まで私にそっくりだなんて、喜んでいいのかしら?」
と、首を傾げていた
こうして彼女は、なんとも不思議でマンガな共同生活をすることになりました
そして、彼女は鷹宮に言わなければいけない事があった
「あの!!、私・・・」
「久し振りはおかしいか、まあよろしくな嬢ちゃん」
「伊織」
「そっか・・・伊織か、じゃあアノときの続きだ、
初めまして、そして久し振りだな伊織、俺は鷹宮だ
仲間からはミヤとかみーとか呼ばれてる、ヨロシクな」
「はい♪、あ・・・あの」
「ん?」
「私にエルダーテイルを教えてください!」
「おうよ♪」
こうして彼女は鷹宮演じるアナスタシアと
エルダーテイルで一緒に冒険をする事になりました
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「そして彼女は今に至ります・・・と、なんですかその目は」
「いや、オズの入る余地が無さそうだと思ってな」
「なんで私がアイツと!!、レオンさん所に娘になんていきませんよ~だ」
「オズは前途多難だな」
「知りません!アイツなんか」
先程の話を聞いてしまったせいかアナスタシアは申し訳ない気持ちになる
自分が伊織の大事な人を奪ったようなものだからだ
「どしたのみ~さん?」
知らずうちに伊織に顔を覗きこまれて、アナスタシアはなんでもないと
慌てて話を打ち切る、これ以上暗い顔を見せれば伊織は今の話をしたことを
きっと気に病むだろう、アナスタシアはそんなことはさせたくないと
笑顔を取り繕う
「み~さん、み~さん、今夜ショーホールでイベントあるんだって♪
一緒に観に行こうよ、ね♪」
「ええ、そうしましょう」
「おい、俺は!?」
「しょうがないなー、付いて来てもいいですよ」
「まあ、ホテル行くなら席外すが」
「///バッかじゃないの!?///、もうレオンさんなんて独りでお祭り行けば!?」
「スマン!!!!、全面的に俺が悪かった!!」
テーブルに頭を擦って謝るレオンに苦笑し、
伊織は立ち上がってアナスタシア達の手を取ると
「じゃあ、夜まで遊びまくりましょう♪」
伊織に手を引かれ、夜まで思いっきり祭りを楽しむのだった。
最近、EXの方が受けが良いことに気付き、若干悩む作者でした。




