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追放された少年  作者: 誰か
戦争編 第二部
97/150

第八十六話

車いすの人の話と騎士団の話はもうちょい後、ギル視点でサブタイつける予定。ドラの個人的な話ももう少し後でサブタイつけてドラ視点にする予定。

クラウンは前からどっかにいた。

「ドラ君…かな…?」


 半信半疑でリルは首を傾げる。イマイチ信じ切れない。目の前の人物が既知の人物であると。

 なぜなら、リルが知っている彼とは少々出で立ちが異なっていたからである。

 髪は深い緑、眼は鋭い猛獣のような黄色い眼光。喋り方もどこか古臭い。そこまではいい。

 違うのは――少年の姿ではなく、大層な年をとった老人の姿であったということだけ。年をとったと言っても、死の間際のような生気ない老人ではない。どちらかといえば、物語に出てくる賢者をイメージ思わせる容貌だ。

 

 疑念の入り混じった視線を向けられたドラは一度自分の姿を見直して、何かを考えたように間を置いてから言った。


「この姿じゃ分からんか」


 低くゆっくりとしたしわがれ声は、姿も相まって普段より口調に合っている。

 その言葉でリルは姿かたちは違えど、とりあえず目の前の人物はドラであろうと確信する。

 一方のドラはというと、リルが未だに混乱しているように見えたので、しょうがなくいつもの姿――少年へと姿を変えることにした。

 無言のままドラが何事かを頭の中で考えると、見る見るうちに皺がとれ、背が低くなり、身体が若返っていく。見るもの全員が目の前で起こっている現象についていけない。

 瞬く間に少年の姿へと成り変わったドラは、いつも通りの顔で口調で、リルへと訊いた。


「これでよいかの?」


 まじまじと不可思議に変貌する様を見ていたリルは、ようやく現実に引き戻される。

 そして、今起こったことが現実だと理解し、子供らしい好奇心に駆られた。


「え、今の何!? お爺さんがドラ君でドラ君がお爺さん? それともお爺さんがお爺さん? アレ、あれ? 待って、その前になんで服まで大きさ変わってるの? ん? これは前から?」


 決壊したダムのようにまくしたてるが、言っている内容は支離滅裂である。どうやら、今目の前に起きた現象が幼い少女の脳内キャパシティをオーバーしてしまったらしい。 

 混乱する少女とは対照的に、ドラは冷静に、乱雑に並べられた質問を消化していく。


「儂以外の何かに見えるなら、すぐさま医者にでも行くとよいぞ」


「あ……うん…ドラ君だよね……大丈夫大丈夫……よし、私は冷静だっ!」


「そうか。ならいいが。それと、この衣は天衣の霊装といってな。儂の意思一つで姿形から大きさまで変えられる優れものじゃ」


 見せびらかすように回ってみせる。縫い目すらないその服は、不可思議と呼ぶにふさわしい。

 そう言った次の瞬間、リルの眼が変わる。好奇心の眼から、物欲ともとれる眼へと。ドラは、リルの眼が輝いているような錯覚を覚えた。クロノの次に人間の中で付き合いの長いリルの眼が何を言っているのかすぐに理解出来た。

 じとっとした眼でドラは言った。


「やらんぞ」


「ほ、欲しいなんて、いいいいい、言ってないし!」


「これは龍の一族の王にしか与えられぬ貴重品じゃからな。おいそれとやるわけにはいかん」


 あからさまに欲しがるリルにドラはきっぱりと言い放つと、すぐさま自分の発言を思い返し、何とも言えぬ気持ちに包まれた。

 あわよくば聞き逃してもらいたいところだったが、何とも厄介なことに、リルは正確にその部分を訊いてくる。


「ってことは……ドラ君って王様だったの!?」


 未だ脳内は混乱しているのか、リルはハイテンション気味だ。そんな状態でもピンポイントでそこを突いてくるのは勘がいいというべきなのだろうか。

 どう答えるか。クロノにも話していないことをリルに話すというのもおかしな話だ。

 ドラは誤魔化すように自嘲気味に笑いながら言った。


「いや………抜けるときに少々拝借してきただけのことよ」


「泥棒だよねそれ!?」


「人聞きが悪いな。拝借じゃ」


 こともなげに言ってのけたドラ。嘘は言っていない。実際、抜けるときに着ていたものをそのまま持ってきただけだ。本当は返還する決まりだったが。

 何はともあれ論点はずらすことが出来た。

 その後、暫しの間、盗った盗らないの言い合いが続く。

 かと、思われた。

 だが、二人――特にドラは忘れていた。この空間――孤児院にいるのは二人だけではないということに。

 その人物は、普段ドラの変身を見慣れているリルよりも、今さっき起きた現象に対し混乱していて、声を出せなかった。

 そして、ここに至りようやく、声を出すことが出来た。声を向けるのは確実に見たことがある少年。


「お前……あの時俺に話しかけてきたガキじゃねえか」


 階段の上から降り注ぐ第三者の声。

 ドラには聞き覚えがあった。いつの記憶だっただろうか。記憶を探ると、すぐさま引き出せた。ドラの人生からみれば、全く古くない記憶。新鮮にもほどがある記憶。

 階段を見上げる。

 そこにいたのは、かつてリルの跡をつけてきていた怪しい人物。

 ドラは姿を認めると同時に、自分が今やったことのまずさに、頬を引き攣らせ苦笑いを浮かべた。


――妙なことになりそうじゃの…




 ギール王城の右端には離れがある。やけに広く長い2階建ての石造りの建造物だ。王城の中に造られたその建造物は、煌びやかに飾られた城とは違い、何とも無骨で無機質。冷たく無愛想な印象を受ける。これでは見る者に、ここは王城の中なのか? と疑われてもしょうがない。

 中にいるのは200人ほどの男たち。年齢は様々。10代後半から~40代前半まで。別に年齢制限をかけているわけではない。肉体のピークと衰えを考慮すると自然とこうなっただけだ。ピークを迎えるのが10代後半から。ギリギリ衰えをカバーできるのが40代前半。それだけの話。

 彼らはここで一部を除いて寮生活を送っている。

 衣食住付き。給料もそこそこ。家庭があるものは寮生活免除。外出も比較的自由。

 そう言えば待遇は良さそうに見えるが、これは改善された結果である。

 以前はひどいものであった。満足に外出も許されず、実質ここに軟禁されるような生活。だがしょうがない。彼らには才能がないのだ。才能がないのであれば、努力するしかないのだ。他人の何倍も。

 所詮、ここにいる連中はその程度の存在である。

 彼らの今の生活は、現在の彼らの上司による訴えの賜物だ。

 

 だからこそ、彼らは目の前に起こっている現象が現実には見えなかった。信じたくなかったと言った方が正しいかもしれない。

 入ってきたその上司を見て、一同が手を止めてしまった。

 視線の先には、上司――ギルフォードが渋い顔で、車椅子を押さされていた。まるで使用人の様な仕事をしていたのだ。

 恩人と言ってもいい上司がそんな仕事をしているのを見て、彼らは頭に血が上り、噴火前の火山のように顔を赤くしたが、城の兵士たちと同じように、押されている車椅子に座る人物を見ると、多くの人間は正常に戻る。

 椅子に座る人物は髪で顔を隠しながら、何も隠すことがなく、晴天の中に曇りすらもないような明るい声で、楽しく高らかに朗らかに告げた。


「やあ、騎士団の皆! ひさしぶり! ――でも、ないけどさ。私はまた、ここに帰ってきたよ」



 

⇔ 

 

 クロノは王都を歩いていた。

 人がごった返す大通り。昼方は特に変わらないように見えたが、よく観察してみると、人々の顔には焦りが見えた。避難前の焦りだろうか。

 ごった返す大通りの本質は、どうすればいいか右往左往している民衆が行き場を無くした結果かもしれない。

 あちこちから声が聞こえる。


「ガザ地区の方はこちらへ」「メリアス地区はこちら~」「外部の方はこちら」


 どうやら地区ごとに色々と避難ルートが違うらしい。交通整理のように声が聞こえだすと、瞬く間に群衆は大移動を始める。太く長い蛇のように動き回る民衆。

 地下通路の話はさきほど使用人の男から説明を受けた。地図は流石にくれなかったが、一度見せてくれただけで十分だ。自分でも記憶力に自信はある。頭に思い浮かべる、血管のように張り巡らされた地下通路。出口も様々、多種多様であった。出口の方角的にいくつか使えない場所はあったが、逃がすのには十分な数の出口だろう。

 しかし、そんなものを使わせる気は微塵もない。出口辺りで待機している兵士には悪いが、彼らに仕事などさせはしない。待ちぼうけを喰らわせてやろう。


 クロノは群衆の中をただ一人、王城へと歩く。通り過ぎていく人の群れ。

 必然、一人だけ、逆流するように歩くクロノは人とよくぶつかる。

 その中でも、一際大きい衝撃がクロノの後頭部を襲った。だが、すれ違いざまに自然とぶつかるのであれば、後頭部に衝撃が来ることはない。

 つまり、その衝撃はわざとだ。

 クロノは振り返る。敵ではないかと疑念を抱きながら。

 そこにいたのは――白いクリームで顔面を塗りたくり、奇怪なトンガリ帽子を被った、赤い丸鼻の、奇妙な人間の姿。いや、人間かどうかすらも疑わしい。

 間近で見ると、何とも不気味で、背筋がざわついた。そして、同時に既視感を覚える。

 

――俺はコイツを見たことがある……


 もやがかかったような、不快な感覚に囚われる。一度ではない。何度か見たことがある。最初に見たのはとても前な気がする。それこそ、朱美と出会う前ではないかとも。

 見るだけならいい。問題は今、この群衆の中で確実に、この怪人は自分の足をわざと止めたということだ。

 今は普通の状況ではない。その事実が殊更、クロノの中の警戒レベルを上げていく。

 その奇妙な怪人は、クロノをじっと見つめると、即座に踵を軸にくるりと回り、クロノに背を向けた。

 

「頑張ってね~」


 それだけ言うと、怪人は歩き出す。

 歩き出したのを見て、クロノが止めようとするが、群衆に紛れたその姿はクロノの心のもやを更に濃くしながら、霧のように消えてしまった。



 

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