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追放された少年  作者: 誰か
幼年期
9/150

第八話

ようやくメインキャストが少しだけ登場します

色々以前の話も加筆修正していたり

 走る 奔る 趨る


 手をたたいた後、僕たちはバラバラに散って逃げていた。

 子供の足でいくら走ったところで大人には敵わない。

 最初に見張りが動き出す前にどれだけ距離を稼げるかが勝負だった。

 二分程走ったところで怒声が聞こえてくる。

 脱走がばれたのだろう。ここからは追いかけっこだ。

 最初の二分で稼いだアドバンテージが尽きる前にどこかへ逃げなければ。

 無我夢中で走り続けた。

 周りの景色がどんどん後ろへ流れてゆく。風を感じる暇も無い。僕を見る通行人の視線も無視して、僕は走る。

 知らない道を右に左に。自分でも信じられない速度で逃げ続けた。


 それからどれくらい走っただろうか、街の外へ出ていた。

 辺り一面絨毯のように草が敷かれた草原。

 ここまでくれば大丈夫かと思い後ろを振り向く。

 そして僕は自分の考えが甘いことを思い知る。そこにはもうあと少しまで男が迫ってきていた。

 自分の考えが甘かったことを恥じながら、再び走り出した。

 か弱い小動物と獰猛な肉食獣の追いかけっこ

 遮蔽物も無い直線の道を  逃げる  逃げる  逃げる

 その間にもどんどん距離を詰められる。直線では街中よりも距離が縮むのは自明の理。

 息が苦しい。それでも走ることをやめなかった。

 止まったらもう逃げられない。

 草原を抜け木々がうっそうと生い茂る森へと入っていく。

 もう体力は限界に近い。肩で息をしている状態だ。

 たいして男は疲れは多少見えるもののまだ余裕を感じられた。

 そして、後一歩手を伸ばされたら捕まると思った時・・・・・







 茶髪の少年は逃げていた。

 後ろから迫ってくる男の手から。

 住み慣れたこの街で撒けないわけがない。人一倍この街の事を知っているという自負があった。

 しかし、どんどん追手は増えてくる。

(こりゃー、ちっとまずいな。見張りは確か八人いたはず…。俺の後ろには三人か…メリーはもう捕まったみたいだし、俺とクロノで二手に別れたとしてももう一人増えんのかよ。っち)

舌打ちをしながら、頭の中で考える。

(どこに、いきゃーいいんだ?)

 いくらこのまま追いかけっこを続けたとしても先にへばるのはヘンリーだ。

 追手を撒くにはある程度距離を離さねばならない。

 だが、所詮十歳の子供に過ぎないヘンリーにそんなことは不可能だった。

 追っ手が一人であれば、撒く自信はあったのだが。

(こんなことなら、危険を承知で大通りに逃げるんだったか?)

 大通りに逃げなかったのは、追手が来た時見ず知らずのやつが敵になるのを防ぐためだった。

 奴隷が脱走したといえば持ち主が追いかけるのは当然だからだ。

 街の中で目撃情報を集められて終わりだろう。

 攫った奴隷というところを隠せばだが。

 こうして考えている間も逃げ続ける。

 そして次の角を曲がろうとした時――誰かにぶつかった。


「がッ……! ってえなあ……!?」


 それは見覚えのある男。先ほどまで、自分の後ろにいた男だった。

 男は見るなり下碑た笑みを浮かべる。


「よ~やく見つけたぜぇ~」


(先回りしてやがったのか!?)

 見張りの男に両腕を捕まれる。

 外そうと身を捩るが、子供の力では逃げられない。

 あっさりと抵抗を諦めた。


「そうだ。お前もう一人の男のガキの行き先知らねぇか? 先に捕まえたガキにも聞いたんだがどうやっても吐かねぇからよ?」


 ヘンリーは唾を吐きながら、イラついた声でそれに答える。


「知らねーよ、俺たちはバラバラに逃げたからな。それより…お前メリーに何しやがった。」


「あー?全く吐かねぇからちょっと体に聞いただけだぜ?キヒヒヒッ」


「てめぇ!!!」


 醜悪な男に強い嫌悪感を覚えながらも、もう一人の身を案じる。

(あーあ、捕まっちまったか、後はクロノだけ。お前だけは頑張って逃げろよ)



 結局クロノは檻に戻っては来なかった。

 逃げられたのかどうかは定かではない。

 その日のオークション行きは中止になった。

 ヘンリーは明日から始まるであろう拷問の日々に覚悟をしながら、長い長い一日の幕を閉じた。


 翌日、とある奴隷組織が二人の冒険者につぶされるのだが、それはまた別のお話。







 楽勝だと思った。

 脱走したガキをたかだか一人捕まえるだけの簡単な仕事。

 どうして馬車に火がついたのかは分からないが、その時逃げ出したガキなど簡単に捕まるだろう。

 どうやら三方向に散ったようで、それぞれ仲間とは別々に追いかけた。

 路地を走っていると金髪のガキが走っているのを視界の端に捉えた。

 スラム街には似つかわしくない整えられた金髪

 グラムの旦那もあれは高く売れるだろうと言っていたのを憶えている。

 自分の幸運に内心ほくそ笑みながらもガキを追った。

 すぐ追いつくであろうと踏んでいたが、少しづつしか距離が詰まらない。

 俺が遅いのではない、あのガキが速いのだ。

 それでも徐々に距離は詰まっている。

 やがて、街の外に出ていた。

 ガキは一瞬立ち止まり俺の方を見た、と思ったらすぐさままた走り出す。

 一瞬立ち止まってくれたおかげで距離は大分縮まった。

 夢中で走っていると、後少しで手を伸ばせばガキを捕まえられるという近さまで接近していた。

 俺は手を伸ばし捕まえようとした。

 そして――俺は意識を失った。












 あと一歩手を伸ばされたら捕まると覚悟を決めた時――クロノは目を閉じていた。

 しかし、いつまでたっても捕まった感覚がしない。


「……?……」


 恐る恐る後ろを振り向いてみるとそこには――頭部だけが切り取られた先ほどの男と思われる死体があった。

 それはまるで何かに齧られたようで、がっぱりと頭だけが抜け落ちた死体。血が首だったところから溢れ、滴っている。

 立っていたその死体は、ゆっくりと地面に倒れこむ。


 混乱した。目の前であり得ない現象が起こっていた。

(なんだこれは。なんだこれは)

 頭のなかで同じ言葉を繰り返す。

 呆然としていると、近くで唸り声が聞こえた。

 その声だけで殺気を感じられる。


「グルルルル・・」


 声のした方へ顔を向ける。そこには黒く獰猛そうな狼がいた。

 目が合った瞬間殺されると思った。

 これは魔物だ。

 あの男を噛みちぎったのもこいつだろう。

 目に宿る獰猛さはそこらへんのごろつきの比ではない。

 あれからみればぼくは虫みたいな存在だろう。


「ガァァァッッッ!!」


 雄たけびをあげ飛びかかってくる狼

 これは死んだと思った。動くことすら許されなかった。それほどのプレッシャー。

僕は本日二度目となる覚悟を決め、目を閉じる。


 グシャリという音が聞こえ、これは自分の身体が無くなった音だと思う。


 不思議と痛みを感じなかった。

(死んだのか僕は)

 しかし、身体には感覚があった。


 目を開けるとそこには――真っ二つに斬られ動かなくなった黒いオオカミが居た。


 脳内は混乱を極める。最早ここは現実ではないといわれても信じそうだった。

 本日二度目となる未知との遭遇――只最初と違ったのは


「キミ、大丈夫?」


 混乱を打ち破るように声をかけられた事だった。




 これが彼の人生を変える出会い。

 全てはここから。








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