第七十八話
次回でルーク戦は終わり
戦闘しかしてない
戦闘書き込み少ない
やっぱ戦闘描写って難しい
何があったのか。
クロノはまず、そう疑問を覚えた。
場所は変わっていない。薄暗い洞窟内。
自分に斬りかかっていたはずの男が消えた。そして今、その男は自分に再び近づいてきている。距離は30m近くある。本当に何が起きたのか分からない。移動というより消えたという表現が正しく思う。それとも、今までのは全部幻で、実際には男は動いてなどいないのか。
クロノがそれを確かめる暇もなく、男は先刻と同じように一瞬で間合いを詰めに来る。その速度を見て、自分が見ていたのは幻でもなんでもないとようやく理解した。
慌てて握り零したエクスなんたらを握る。この時点で、クロノは一旦紅朱音を捨てた。
基本的にクロノはエクスなんたらと紅朱音を同時に使うことはほぼ無い。これが両方とも日本刀なら二刀流という選択肢もあるが、片方は西洋剣だ。西洋剣においての二刀流は短剣と組み合わせるもので、間違っても大型の剣二本で使うものではなく、非常に効率が悪い。
クロノは用途によってエクスなんたらと、紅朱音を使い分けるのが本来である。普段であれば気分によってどちらを選んでも良いのだが、それは相手との力量差がある為で、目の前の男には通用しない。
だから今回紅朱音を捨てたのは、どちらが相性が良いかを考えた結果、エクスなんたらが勝っただけだ。細身の紅朱音では最悪折れてしまう。あわよくば鞘に収めたいところだったが、そんな暇はない。
地面に投げられた紅朱音は、カランという渇いた音を何度か響かせ、転がり横たわる。それを見送ることなく、意識を男に集中させる。先刻は無属性を使ってきたことに多少の混乱があったが、意識すれば追えない速度ではない。
先刻と同じ、一瞬消えた位置まで男がたどり着く。ここまでは同じ。
――冷静に見極めろ。どっちから来る? 右か左か?
だが、ここからが違った。
男は右でも左でもなく、正面から一直線にクロノに向けて飛び上がった。地面を蹴飛ばした後には穴が開く。
予想を外れた動きに僅かに戸惑うが、冷静にこれをチャンスとも捉える。飛んでくる男を見て、自分への到達までを逆算する。
空中では方向転換は効かない、出来るのは身を傾けるくらいのものだ。それにレベル5であれば空中に飛び上がるよりも、地上を移動した方が遥かに速い。つまりここでやるべきは、背後に回り、後ろから一撃を加えること。
瞬時にそう判断したクロノは、即座に移動を始める。
「よう」
が、始める前に男が目の前にいた。クロノの考えよりも遥かに速く。それはまるで、空中で加速したかのように。しかし、そんな事はありえない。であれば。
――逆算を間違えた?
だが、考えている暇はない。目の前にいる。それが現実だ。
考えるよりも早く、身体が自然と潰しに来る剣に反応する。この感覚が久しい。この「自然と」という感覚が。その時には、先ほどまで感じていた身体の痛みも疲労も消え去っていた。
――一撃で決めるつもりだったけどな…
内心の驚きを隠しつつ、ルークは剣を振るう。それに目の前の青年は反応している。
ルークはクロノが考えた通り、加速した。それも空中で。
やり方はそこまで難しくはない。クロノに対し、横向きに飛ぶ、そして途中で片方の足をもう片方の足で蹴るだけだ。蹴られた衝撃が加算され、空中でスピードが増す。
この様に言うは易いが、行なうは難しだ。
短い滞空時間で、自分を蹴れるほどのスピード。そして、一気に加速する衝撃を与えられるほどの、強い脚力がないと不可能である。
通常であれば反応しようとも、身体がついていかないのでこれで終わるのだが、目の前の青年にそれは通用しない。
反応はされたが、虚はついた。優位性はこちらにある。
今のルークはいくらでも、好きなように剣を振れる。横からでも、下からでも。そして、上からでも。
ルークは迷わない。上から全精力を持って叩き潰す。重力を加えると、上からが一番重い一撃になる。これで力負けはない。このまま押し切る。
互いに知っているはずだ。一撃でも通ったらその瞬間に終わるということを。
風切り音を伴った凄烈なる一撃が上からクロノを襲う。
考えるよりも早く、身体だけが動く。剣を横に持ち、掲げるようにして上からの一撃を耐える。衝撃で火花が散ったような錯覚を覚えた。
しかし、このままでは負ける。上からの一撃が重過ぎる。
早くも、押し切られるのは時間の問題と化していた。
――ん…?
押していたルークは僅かな違和感を覚えた。同時に悪寒が走る。
違和感を覚えたのは、感触だ。剣を握った手が何らかの異常を感じ取る。この違和感は目覚めたばかりだからとか、そういったものではない。
衝突した瞬間に何かがあった。
知っているはずだ。この感覚を。しかし、なんだったか分からない。いつのだったのか思い出せない。
――退いたほうがいい
直感ではなく、経験がそう告げる。だが、ここで退く選択肢が正しいとも思えない。
理性と経験、どちらを信じるべきか心の中でせめぎ合う。
そして、下した決断は
――一気に攻める
これがどんな感覚であろうとも、このまま押し切れば勝てる。
一瞬、男からの圧力が止んだ。だが、それは相手が引いたわけではなく、逆に、決めに来る為にもう一度振り上げただけ。上からの一撃をもう一度加える為に。
避ける暇はない。上から来る前に叩く。
ルークは完全に振り上げる前に、その剣を止め、そこから振り下ろす。一番上まで上げていては、クロノに先にやられてしまう。
だから、途中で振り下ろす。振り上げたのは誘いだ。守りから攻めに転じたクロノを潰すための。
ピキリ
ルークが振り下ろすと同時に、二人の耳に微かな音が響いた。
「あっ」
ルークは音が聞こえたことで、悪寒の正体を思い出す。
だが、もう遅い。振り下ろした刃は止められない。
――そうだ…。思い出した…。この感覚は
二つの刃が衝突する。威力ではルークの方が上だ。
通常であれば、このままルークが押し切るはずだった。
しかし、そうなることはない。
なぜなら―――彼の刃は衝突と同時に粉々に砕けてしまったのだから。
――折れる直前のやつじゃん…
クロノは見た。衝突したと同時に亀裂が入り、それが全体に広がっていくのを。粉々に砕け散った銀色の刃の破片が宙に舞う。
破片が顔を掠め、いくつかの裂傷を刻むが気には留めない。
――ここで決める…!
――って、なんで折れんの? ええええええ!?
折れる要素などなかった。そんな無理は強いていないはずだ。
完全に予想外の出来事に戸惑うが、相手は待ってなどくれない。
攻めと守りの立場が逆転したことを認識し、一旦退こうと左足で地面を抉る。見事抉られた地面は跳ね上がり、クロノの眼に直撃した。一瞬クロノが怯む。
その隙に何とか離れて体勢を立て直すも、剣がなければ圧倒的不利には変わりない。
横目で恨みがましい視線を、朱美に送る。
――コレ、ドウイウコト?
視線に気づいた朱美は露骨に目を逸らし、唇を噛んでいる。どうやら、朱美にとっても想定外だったらしい。
事情を確かめることを諦めかけたルークの頭に朱美の声が響く。
(え、えーっと…それは…うーん)
これはどういう原理なのか、と聞きたいがそれよりも重い問題を優先する。
(その口ぶり…原因知ってるだろお前…)
言いながらルークはその場を離れる。離れてすぐにクロノの一撃が今いた場所に届き、直径5mほどのクレーターを作り出した。
(いや、さっきね。その剣時間回帰したのよ。で、それは今アナタが持ってた頃と変わらないわけ。私がかけてた術式も外れてるの。それで、エクスなんたらが…えーっと…)
(長くなりそうだ。分かりやすく頼む)
(…簡単に言うと、剣自体の性能の差ってやつ?)
考えれば単純な話で、所詮一般兵士に渡されるような剣と、仮にも宝剣と呼ばれるような剣が同じ強さなわけもない。単純に強度が違いすぎたというだけの話なのだ。
分かったところで現実が変わるわけでもなく、相変わらず不利である事に変わりはない。素手と剣持ちではリーチに差がありすぎる上に、徒手空拳は専門ではない。
(この状況で俺にどうしろと!?)
(ん…まあ…頑張って。私は手助けできないから)
(鬼! 悪魔!)
(うっさいわね! 剣を折られるアンタが悪いのよ。仮にも勇者なんだから何とかしなさい)
(それ本来俺じゃな…うおっ…と! あっぶねぇ!!)
頭の中で実にハイテンションな会話を繰り広げる二人だったが、どちらも微塵も表情には出さず、ルークに至っては会話の途中もクロノから逃げ続けている始末だ。
といっても余裕ではなく、そろそろ危なくなりそうなので朱美との会話を一旦切って、真面目に現状を打破する術を考える。
――1、素手で戦う。2、白刃取りしてみる。3、死ぬ。うん、3はないな。というかもう死んでるし。2、無理だな。出来たら苦労しねえよ…。やっぱ1か?
頭の悪そうな考えが浮かんでは消えていく。これでも彼は真面目だった。
一瞬眼前に迫る刃を見て「とれるかな…」などとやりかけたが、寸でのところで自制した。大穴が開いた地面を見ると、間違いなく粉微塵になっていただろう。
だが、ここでふと気づく。剣がないわけじゃないと。
――あるだろ…
ここまでの戦いを再生していく。答えは最初にあった。
気づいてからのルークの行動は早かった。真っ先にその場所へと向かう。
クロノも後を追い、ルークが屈んだところで少し躊躇いつつも、エクスなんたらを振り下ろした。この体勢では避けられないと確信を持ちながら。
次の瞬間クロノの眼に映ったのは、弾かれた自分の刃。それと、見慣れた朱色に彩られた奇怪な刀身――紅朱音の姿だった。
「さて、第二幕と行くか」




