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追放された少年  作者: 誰か
回想:帰還編
77/150

第六十九話

勇者関係の昔話は自分でも忘れかけたレベル

自分で2話まで遡った

領主の館 夜


 朱美が自分の部屋に戻り、色々と考えていると、突如部屋の扉が開いた。

 ノックすらもなかったことを些か不思議に思い、メイや、ユイ、ユウ辺りであればどうイジってやろうかと、朱美は想像を膨らませるが、朱美にとっては非情に残念なことに、その誰でもない者だった。

 扉の先に立っていたのは、人間ですらなかった。

 見た目は人間だが、まったく別の存在。


「なにか用? ドラちゃん?」


 扉の先に立つドラは、普段は見せない神妙な面持ちで、静かにその問いに答えた。


「少し…お主に聞きたいことがあってな…」






 室内へとドラを招き入れ、二人は向かい合わせで座る。

 室内は蝋燭の僅かな灯りだけが照らし、互いの顔を確認するのがやっとだ。

 

「何が聞きたいのかしら? ドラちゃん」


「まず一つ、お主はクロノをどうしたい? なぜ、そこまで人を殺すことに拘る?」


 なんだそんなことかと言わんばかりの表情で朱美は答える。


「簡単なことよ。「殺さないといけない」必ずそういう場面が来る。どれほど強くてもね。その時に躊躇ったら死ぬわ。今回もそう。最初っから皆殺しちゃえばよかったの」


 さらりと、恐ろしい発言をする朱美。

 未だ納得していない表情のドラだったが、これ以上は無駄だと判断し、次へと移行する。


「その結果が、あのクロノじゃが…アレをどう治す?」


 朱美は口元に人指し指を当てた。


「シーッ…それはドラちゃんには秘密。スパルタで行くわ。最低なやり方でね」


「話す気はない…と…」


 誤魔化されているドラからすれば、いい気はしない。

 何より、朱美の表情に不安を感じてしまう。

 この先を聞くべきか迷うドラに先んじて、朱美が見透かすように言った。

 

「最後までどうぞ。他に…というか、一番聞きたいのがあるんでしょ?」


「…ッ!」


「言いなさい。これが最後かもしれないわよ?」


 一瞬ドラは心を読まれているのではないかと考えてしまう。

 無論、朱美のはクラウンとは違い、特別な何かがあるわけでもなく、単純に表情から何となくそう思っただけだ。

 見透かされたドラは、これ以上隠すのは無駄だと悟る。

 息を呑む。覚悟を決める。目の前にいる人間の正体を知るために。

 そして、最初から――出逢った時からの疑問を、遠い記憶と共に引っ張り出し、朱美へと投げつけた。


「…二百年前の『勇者』は…お主、か…?」


 その時、蝋燭の明かりがフッと消えた。



 

 燭台に火を点けなおし、朱美は椅子へと腰を下ろした。

 暗闇に染まった部屋に再び光が灯る。

 

「さて、何の話だったっけ?」


「とぼけるでない。覚えているじゃろう?」


(誤魔化しが聞かないわね。コレは…)


 朱美は内心苦笑いを浮かべながら、目の前のドラを見つめる。

 心中とは裏腹に、顔は平然としたままだ。


「…どう答えて欲しい?」


「真実を語れ」


 命令口調で言うドラ。

 これでは主従が逆転している気もしたが、とりあえずその考えを頭から消去する。


「…私はその質問にYESともNoとも言える」


「誤魔化すなよ…!」


 いきり立つドラ。


「誤魔化してはいないわ。二百年前、確かに私はそんな無駄な称号を持ってた」


「なら…!」


「でも、アナタが聞きたいのは違うでしょ? あの『戦争』での、『勇者』のはずよ」


 戦争――今では御伽噺として語られるほどの大戦。二百年前に行なわれた最大規模の魔物との戦争。

 御伽噺の中ではこう語られている。「王都壊滅の後、『勇者』によって魔物側は滅せられた」と。

 だが、これは後世の創作だ。真実は別にある。


「…あの戦争は、言われるほど大きなものじゃなかった。ほーんと、大した事もないくらいにね」


魔物こちらとしては、大層な戦力じゃったがな…それでも…王都は落とせなかった…」


「そうね。規模は大きかった。今に至ってもあんな量は見たことないわ。天と地を覆いつくす大群。城内から見てた私でも、負けを確信するほどだった。あの時にはドラゴンも多少いたみたいね。なのに、落とせなかったのは『勇者』なんてふざけた存在がいたから。結局魔物側は実質一人によって壊滅した」


 ドラはここで疑問を覚える。


――見てた? みたい?


 これではまるで当事者ではないかのようだ。


「それが、お主じゃろ?」


「『勇者』っていうのはね。文字通り勇ましい者なの。本来、異世界の人間に無条件で与えられるようなものじゃない。あの頃の私に勇気なんてなかった。怖くて震えるしかなかった。私は所詮お飾りだったの」


「じゃあ、あの時の『勇者』は誰だと言うんだ…?」


「あの時の『勇者』は私なんかとは違う、本物よ。己の無力を知って、絶望から這い上がった本物の『勇者』」


 イマイチ理解出来ないドラは顔に疑問符を浮かべる。


「順番が違うの。『勇者』は戦争の前からいたわけじゃない。戦争で活躍した者が『勇者』と呼ばれた。戦争があったから『勇者』が出てきたの。それ以前のは紛い物」


「お主ではない…と?」


「あの『戦争』のは…ね。私は…そう…魔王。人々を無慈悲に屠る魔王。いや、魔王にも失礼か。酷い殺人鬼ね」


 自嘲気味に朱美は笑った。


「じゃあ、王都の壊滅は…」


 朱美は何も答えない。

 それでも、眼だけでドラは悟った。壊滅が誰の手によって行なわれたのかを。

 重苦しい空気が室内を包む。


  


 重苦しい空気を打ち破ったのは朱美だった。

 いつもと変わらない表情で、気さくに話しかける。


「それにしても、アレにドラちゃんが参加してたとはね。よく生き残ったわね」


「…参加はしておらん。ただ、最後に聞きたかっただけじゃ。多くの同胞を葬った奴が誰なのかを」


「ゴメンね…『勇者』については私も思い出したくはないのよ」


「もう、いい…」


 興味なさそうに言うドラに、朱美は半ば、独り言のように呟いた。


「まあ、今度はそうも言っていられないのだけど――」

 

――クロノのため、そして私のためにも…ね

 


 

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