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追放された少年  作者: 誰か
回想:名も無き村編
70/150

第六十二話

終わる終わる詐欺

今回でも名も無き村編終わらん

次回ようやく夜に突入

ひっさびさの戦闘描写


「こんにちは!」


「おう、元気がいいな坊主」


 少年へと声を返した後、男は首を傾げる。


(あれ…? あんな子供この村にいたか…?)


「お、い……?」


 疑問に思った男が少年に尋ねようとするが、既に緑髪の少年の姿は消え失せていた。




 男の横を通り過ぎたドラは、そのまま村を駆け抜け、外に出たところで立ち止まった。

 振り返り、不敵に笑う。

 

「誰じゃ? 尾けてきてるのは?」


 楽しむような声で無人の荒野へと問いかけるが、答えが帰ってくることはない。

 風の音だけが空しく響く。

 

「出てくる気はなし…か…まあ、いい」


 依然として荒野には、ドラ以外の人影は見当たらない。

 それでもドラは確信している。誰かがいると。姿は見えずとも。

 同時に感じる危険な気配。

 その誰かに声をかけてはみたが、どうやらこたえる気はないらしい。

 

(不気味じゃな…)


 殺気を放ってはいるが、相手に動揺した様子は感じられない。

 相手に敵意はない。おそらく。

 ただ、そこにいるだけ。

 不気味さを感じずにはいられない。


(不確定要素は排除しておくか…)


「出て来んなら、こちらから行かせてもらうか…のッ!!」


 地面を強く蹴り上げる。衝撃で煤けた大地が凹む。

 少年の体躯からは想像も出来ない速度で、誰もいない荒野の中心目がけて飛び掛る。

 爪だけを龍のものへと変化させ、確信を持って見えない誰かを切り裂いた。

 

 ギィィッ!!!

 爪が弾かれる。金属と金属が擦ったような耳障りな音。

 

「ッッ……!!?」


 何かがある。壁のような何かが。

 即座にドラは距離をとり、臨戦態勢に入る。今までは牽制のつもりだったが、こうなっては仕方ない。


―――もう、舐めん…!!こやつはここで叩く…!!


 鋭い野生の眼差しで、誰もいないように見える荒野を睨む。

 油断は捨てた。慢心は無い。

 呼吸を整え、狩るべき獲物をじっくりと見据える。

 相当の相手。ざわつく背中。


 眼に見えない敵にドラは躊躇うことなく、再び飛び掛る。

 今度は切り裂く、ではなく砕きにかかる。壁を壊すイメージ。

 龍へと変化した手に全身全霊を籠め、本気の一撃を叩き込んだ。

 

 パリィン!!

 

 シンプルな音が響く。何かが割れた音。

 比喩ではなく、現実として地が揺れた。衝撃で土煙が辺り一面を覆う。

 ドラは止まらず、中にいるであろう誰かへと続けざまに一撃を放つ。

 

―――これで……ッ!!?


 感触が違う。肉を抉る感触が、壁の中には存在しなかった。抉ったのは煤けた大地だけ。


―――いない…?


 気配が消えていた。確実にいたはずなのに。痕跡すらも残ってはいない。

 まるで煙のように忽然と消え失せた誰か。


「やってくれる…」


 仕留められなかったことにイラつき、もう一度爪を地面へと突き刺す。

 大地には深い爪痕が二つ出来上がる。

 ドラは真剣な表情で抉った大地を見て、眉を顰めた。

 

―――きな臭くなってきたの…



昼 宿屋


「今日は倒れなかったね」


「なっ! そんな毎日倒れるわけないでしょう!」」


「そう? 何か毎日倒れてるイメージがあったんだけど」


「うう…否定できない…」


「冗談だよじょーだん。よく頑張ってるよ」


 そう言って頭をポンポンと撫でる。


「すっごい子供扱いされてる気が…」

 

 クロノとメアリーは畑仕事に一区切りを付け、一旦宿屋に戻っていた。

 畑仕事は、馬鹿みたいにでかく、ウネウネと動くムカデとの遭遇などのハプニングはあったが、比較的スムーズに進んだ。

 

「そういえば…クロノさん頭よく撫でますよね?」


「いやだった?」


「嫌というか…(嬉しいけど)あんまり軽々しくそういうことはしない方が…」


「おっかしいな…リルは「こういうことされたら女の子は喜ぶから、いっぱいして!」って言ってたのに…」



とあるギルド


「はっ! 何か私にとって大きな敵が出現したような…!?」




宿屋


 メアリーと別れたクロノは自室へと戻ろうと、薄茶色のドアを開けた。

 部屋の中は外よりは涼しいが、それでも暑さを感じてしまう。

 汗で湿った上着を脱ぎ捨て、ベッドの上に放る。

 そして嘆息を漏らした。


「あっつ……」


 手を団扇代わりにヒラヒラと顔に向けて煽ぎ、冷たくもない風を送る。何もしないよりはマシだ。

 陽の入る窓際を避け、ドアに近い日陰で涼もうとするが、陽で暖められた部屋の中では微々たる抵抗に過ぎない。

 天井の木目を何となく数えながら、予定を考えていると、ドアが乾いた音を立てて開いた。

 音に気づき、ドアへと眼を向けるとドラの姿。


「………」


「お帰り。今日暑くない?」


 同意を求める言葉を掛けるが、返ってくることはない。

 それどころか、こちらに気づいていないように見える。


(…?何かあったのか?)


「何かあった?」


 ようやくクロノの存在に気づいたのか、顔を向ける。


「何でもない」


 通常時の顔に戻ったドラに、クロノは確信を持って言い放つ。


「嘘だね。何かあった顔だ」


「ほう? どうしてそう思う?」


「そりゃあ2年も一緒にいれば分かるさ。表情で何を考えてるかくらいはね。たとえば、ドラが嘘をつくときは左手を握り拳にして、右頬が緊張してるのか微妙に上がるんだ。今もそう」


 ドラは一瞬眼を丸くし、左手の握りこぶしを解き、途端にブスっとした顔になる。


「…ふん…今後は気をつけることにしよう」


「話す気は?」


「ないな」


 迷う間もないほどの即答。

 追撃を予感し、次はどう答えようかとドラは考えていたのだが、クロノは短く


「ならいいや」


とだけ言った。


「さて、寝よう寝よう。畑仕事で疲れたし」


「…待て…!」


「なにさ?」


「聞かんのか…!?」


「話す気ないっていったのはそっちでしょ?」


「……お主にとって何か良からぬことを企んでおるかもしれんぞ?」


 言ってからドラは後悔した。聞かないのであればそれでいいではないかと。なぜ、自分から傷を広げに行っているのだ。

 ドラの問いにクロノは、呆れに近い感情を抱きながら答えた。


「良からぬこと…ねえ…そうだなぁ……もし、ドラがさ、俺を殺そうとか考えてるなら、俺はもう諦めて死ぬよ? 寝込み襲われたら勝てないし」


「なっ……!」


「それくらい、俺はもうドラを信用しちゃってるんだよ。多分ドラが俺を殺そうとした時には、ショックで動けないかも。ははっ」


「………」


「ドラが俺に黙ってるのも、何か考えがあってのことだろうし。だから、俺は無理に聞きはしない」


 何も返す言葉がなかった。

 「信用」という言の葉が、いやにドラの心に残る。同時に湧き上がる罪悪感。

 はたして、自分はこれでいいのかと。この「信用」を裏切ってもいいのかと。

 揺らぐ、靡く、傾く、心が。

 自分に言い訳をしてでもこのまま進めるべきなのか?

 いつから、罪悪感なんて感情を自分は抱いたのだろうか?それもただの人間に。

 クロノの視線が痛い。

 どうしようもなく、居た堪れなくなって、ドラは部屋を飛び出した。

 後ろから、クロノの声が聞こえたけれど、それすらも無視してひたすらに駆け抜けた。

 気づくいた時には、村の外。広がる荒野。

 

「―――――――」


 そこで出会ったのは、勇者、或いは魔王。

 蘇る記憶。

 随分前と、多少前と、少し前の、記憶が重なった。

 






とある民家


「俺はやれる…大丈夫だ…」




宿屋


(予定変更だな…まっ、大筋は変わんねえけど)





村長の家


「準備終わりました」


「そうか、ご苦労ご苦労。後は休んどいてええぞ。夕方スタートの祭りまでな」


「……はい……」



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