表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された少年  作者: 誰か
幼年期
7/150

第六話

ユリウス達の出番はこの後しばらくありません 多分

青年期まで出てこないと思われ


 大通りでは人がそこそこ賑わっているが、路地を一本入ればまるで別世界のように静まり返っている。それに賑わっているといっても、規模は小さく、王都とは比べ物にならない。

 王都のように貴族街はなく、代わりにスラム街と呼ばれる所が多々ある。

 スラム街では盗人や孤児は当たり前。奴隷商人もたくさんおり、人攫いも日常茶飯事らしい。


 ユリウスさんからそう説明を受けた僕は、このバグラスという街でどう生きていくかを考えていた。

 手元には十万コル。

 宿屋が大体一泊三千コルらしいので約一カ月は宿屋に泊まれるが、その後の予定も立っていないのに、いきなりそれだけお金を使うのはまずいだろう。

 今現在僕に出来ることは算術くらいのものだ。

 一応元貴族であったので算術も出来るし、字も読める。

 この国の識字率は低くはないが、この街であれば出来る者は限られてくるだろう。

 算術と読み書き両方を生かせる職業としては商人があるが、たとえ十万コルを元手にしたとしても子供の商人など舐められるのがオチだ。


 まだついたばかりであるわけだから、そこまで慌てる必要もないか。じっくりと生きる道を探っていけばいい。


 僕がそんなことを考えていると、目の前を歩くユリウスさんから声をかけられた。


「オイ、クロノお前行くあてはあんのか?」


 最初は坊主としか呼んでくれなかったが、一週間のうちにクロノと呼ばれようになっていた。

 今、僕たちはバグラスの街を歩いている。ユリウスさんが街を案内してくれると言ったからだ。

 行くあてと言われても、初めてきた街でそんなものがあったら苦労はしない。


「いえ、全くありません初めて訪れた場所ですし」


「そうか。だったら、これから二週間ほど待ってくれればいい所を紹介してやる」


「ほ、ほんとですか!?」


 衝撃的な提案に声が裏返ってしまった。

 二週間というのが気になるが、渡りに船である。

 僕はこの一週間でユリウスさんを信用していた。マルスさんの方は目を逸らされてしまうので、嫌われているのではないかと思ったが、ユリウスさん曰く人付き合いが苦手なだけらしい。

 この人であれば奴隷商人に売り飛ばされるようなことはないだろう。


「ああ、一応ユースティアの旦那にもいわれてるしな」


 素直に驚いた。

 父上―――いや、元父上がそんなことを言っていたとは。あの父上の態度からはおおよそ考えられない。

 正直違和感が拭えないが、ご厚意に甘えさせてもらうとしよう。


 同時に、あまり期待しすぎるのもよくないとも思う。期待しすぎても裏切られるだけだ。

 これは僕がクロノ・ユースティアとして生きた十年で身にしみてわかった事だ。期待が大きいと、裏切られたときのショックは増す。世の中そう、旨い話は転がってはいないものなのだ。

 なので、一応その話がダメになった時のことも考えておかなければ。


「二週間は宿に泊まるといいだろう。俺とマルスは一度王都に戻らにゃならんしな」


 なるほど、二週間というのはユリウスさん達が王都を往復する時間か。


「その間信頼できる宿屋も紹介してやる。ほれあそこだ」


 ユリウスさんが目線を向けた方向には、旅人の宿とかかれた看板がたっていた。

 三階建ての一目で宿屋だとわかるような外観。

 この街でもトップクラスで綺麗な宿であろう事が想像できた。外観から、他の黒ずんだ建物と一線を画す綺麗さ。三階建て自体、この街に入ってきて初めてみた。


 ユリウスさんの後に続き宿へ入っていく。

 中はこじんまりとしているが清潔そうで、下級貴族の家といっても通用しそうだった。

 中を眺めている間に、ユリウスさんは受付を済ませお金を払っていた。前金が必要なのだろう。

 慌ててお金をだそうとするが、ユリウスさんに手で制せられてしまう。


「いいんだよ、ユースティアの旦那から金貰ってんだ」


 そこまで元父上がして下さったとは。

 疑問が湧きあがるがそれよりも感謝が止まらなかった。追い出される身としては、もう少しまずい状況を想定していたのだが。

 受付を済ませ鍵を貰った僕たちは部屋と向かった。


 部屋は白いベッドと粗末ではないテーブル。円形のテーブルはなんとも、まあ、普通だ。普通のテーブルというやつというのを想像したらこんな具合になるだろうと思う程度には。

 そして鏡台まであった。鏡は希少価値が高いので、この部屋は宿の中でも相当に高い部類だろう。

 部屋に入り、ユリウスさんから宿屋の説明を受けた。

 三食付き。食べる時は食堂へ。とてもシンプルだ。

 その他の事は大体僕でも知っていたので大した問題はなかった。


「それと、あまり街中にはでるなよ。大通りならまだしもスラム街になんて入っちまったら危険だからな」


「分かりました。二週間ここで待っていた方がいいわけですね?」


「ああそうだ。まあ、完全にここから出るなとまでは言わねーがな。どーせ完全にでるなっつてもでるんだろう?」


「ええ、多少はこの街の事も知らないといけないですしね」


「お前が好奇心旺盛なガキだっつーのは、一週間で分かってるからな」


 クククっと笑う。こうしてみると悪人にしか見えない。本人にそんな気はないのだろうが。

 それに僕はそこまで落ち着きがなかっただろうか? と考え込むが、あまり思い当たらない。


「とりあえずこれで説明は終わりだ。俺とマルスはこれからすぐ王都に行くから、二週間いい子で待ってろよ?」


「はいありがとうございます。道中お気をつけて」


「おう、んじゃあな」


 そう言ってユリウスさんは部屋から出て行った。

 一人で使うには広すぎる部屋。人が一人居なくなっただけで物足りなく感じた。


 同時に僕は見知らぬ土地での新生活に、少々心が躍ってしまうのだった。






十日後

 ユリウスとマルスはバグラスへ戻ってきた。

 王都の往復を急いできたのだ。あの少年をあまり待たせるわけにはいかないと思い。


 しかし、少年は忽然と姿を消していた。









 ユリウスと別れてから四日たったある日、クロノは路地裏へと出かけていた。

 街の実情を知るためだ。なにより、はやる好奇心を抑えられなかった。

 この二日で大通りはもうまわり尽くしたので、今日は路地裏に行こうと考えていた。

 宿の人に聞くと道一本入ったくらいなら大丈夫だろうとのこと。


 そこは大通りと違い静かで、大通り側の建物のせいであまり陽が入ってこない。まさに大通りとは隔絶された世界のように思えた。

 ここに居る人も、皆死んだ魚の様な目をしていて、大通りに居る人とは違う生物のようだ。死人といってもいいほどに。まるで死ねないゾンビのようだ。特に顔面を真っ白いクリームで塗りたくったような、丸い赤鼻の男など最早何がなんなのか分からない。


 僕が暗くジメッとした路地裏を歩いていると、もっと奥に続く道から何人かの屈強そうな男が出てきた。

 慌てて路地の端に避け、目立たないようにやり過ごそうとする。

 男たちは円を作り、何かを囲むように歩いている。

 その集団を端から観察していると、真ん中にいた男と目があった。

 真ん中にいた男は周りに居る者とは違い、高そうな服をきているがぶくぶくに太っており、似合わないことこの上ない。格好だけなら、まるで貴族や大商人のようだが、もう少し痩せた方がいい。

 おそらく周りはその太った男の護衛なのだろう。護衛をつけられる位には金を持っていそうだ。なぜ、こんな危険な場所にいるのかは疑問だが。

 真ん中にいた男は僕を見て、気持ちの悪い笑みを浮かべたかと思うと、何事かを周りの男に耳打ちし始めた。

 突如、周りにいた男たちが僕に向かって走り出した。走ってくる男の目を見て昔の恐怖がよみがえる。


怖い   怖い   怖い  怖い   怖い


 あれは兄と同じ目だ。いい玩具を見つけたと言わんばかりの。

 僕を見るたび魔法で僕を痛めつけてきた兄。何度死に掛けたか分からない。

 そんな兄と同じ目をした男たちに捕まっていい筈がない。


 全速力で大通りへと逃げだした。すぐそこの角を曲がれば大通りだ。

 

 そう思った時―――突如後ろから強い衝撃を受けて、僕は意識を暗い路地に落とした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ