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追放された少年  作者: 誰か
回想:名も無き村編
69/150

第六十一話

疲れた

今回の後半は大分テキトー

次回で終わらせられるかな…


 迎えた祭り当日。

 天気は村人の活気を表すように燦然と輝き大地を照らす。

 一方設営を任された村人たちは本番の夜に向けて忙しなく動いていた。


「いやーホントダルいべ…」


「文句いいなや、ほれしっかり動かせ」


「もう50のじさまだっちゅーのに」


「しゃーないべや、村の若いもんはみーんな今回のことで死んじまったんだから」


 愚痴を垂れながら、村を飾り付けていく。

 家屋同士の上に紐をつなげ、そこに草木で出来た工芸品を掛ける。

 行なっているのは決して若いとは言えない男ばかりだ。

 そんな中一際目立つ若い男がいた。


「おっ、ありゃあ村長んとこの小間使いじゃねーか。そういやぁ、アイツは討伐に行かんかったな」


「あん時は何で行かんのかと思うたが、今考えると行かんくて正解だったか。あんなん命を捨てに行くようなもんだ」


 未だに村に残った傷跡は深い。若者は根こそぎ死、または出て行ってしまった。

 そう考えればあの若者が残ったのは、朗報といえるかもしれない。

 しかしここで、一人の中年は一つの疑問にぶち当たる。


「そういえば―――」


「―――アイツはいつからこの村にいたっけか?」


「………さあ?」




宿屋内


「おー、やってるやってる。あの飾りどうやって作ってんだろ?」


 朝、眼を覚ましたクロノは窓の外を見て嘆息の声を漏らした。

 昨日まではよく見ていなかったからか、祭りの飾りが突如出現したかのような錯覚を覚えた。

 生暖かいベッドを出て、ドラの方を見るが―――


「…あ…れ…?」


 そこにドラの姿はなかった。あるのはぐちゃぐちゃに乱れたシーツだけ。

 首を傾げ、少々思案して出した結論は――


―――ドラのことだからどこに行っても心配はいらないか


だった。

 自分より早起きして朝食を食べに行ったのかもしれない。

 何にせよ、特に何かあったとは考えなかった。

 

 クロノが部屋を出て食堂へと向かう途中、厨房を覗き込むとドラ、それとドラに背を向けているチェスの姿。

 状況はよく分からないが、仲よくやっているそうなのでそのまま食堂へと入っていった。

 


「なにやってるの?」


 不意に後ろから聞こえた声にチェスは身を震わす。

 声をかけられるとは思っていた。誰かが自分を見ていることには気づいていた。

 だから、声をかけられたことに驚いたわけではない。

 ただ、その声が思っていた人物クロノとは違った。それに加え、声が近かった。

 警戒はしていた。部屋の外からクロノの気配は感じた。


―――だが、これはどういうことだ?


 頭の中に浮かぶ疑問疑問。


―――どうして――――


 チェスは振り返る。


―――このガキが真後ろにいて、オレに声をかけている?

 

 そこにいたのは、緑髪の少年。


「ねえ?なにしてるの?」




数分前


 たまたま、クロノより早く起きたドラは宿屋の中を徘徊していた。トテトテ、そんな表現が似合いそうな歩き方で。

 歩いていると、良い匂いが鼻孔をくすぐった。

 匂いからして朝食だろうと判断したドラが厨房へと向かうと、鍋の前に立つチェスの姿。

 

(まーた、やっとるのか…懲りんのう…コヤツも…)


 半ば呆れに近い感情を抱きつつも、気配を完全に殺してチェスに接近していく。


(毒なんぞ入れても無意味じゃというのに…)


 心の中で溜め息を吐く。

 

(主にはクロノをクロノが自覚出来る様に、追い詰めて貰わんとな……そんな毒で暗殺されては敵

わんわ……しっかりとクロノと戦え。儂を人質として使い、戦いやすくするために近づいてきたんじゃろ?なら、その通りにするがいい……)


 ドラはチェスの考えなど大体は見通していた。

 そこまで考えてからドラはふと思う。


(……待てよ……儂が人質になった、からといって意味がない?)


 よく考えれば実力を知っているクロノが、自分が人質になったからといってチェスの言うとおりにするだろうか?

 答えは否。

 なぜなら、自分はそんな状況に陥ったとしても一人で抜けられるからだ。

 これが無力な一般人であればまだしも、自分であればクロノは黙って静観を決め込むだろう。

 大人しい他人のペットを盗んだと思ったら、手に負えない猛獣で、それを知っている飼い主は慌てない。という何とも間抜けな構図が出来上がってしまう。

 焦る要素がない。そして、焦って貰わねば意味がない。

 

(………)


 気づいた痛恨のミス。

 己の未熟さに舌を噛む。


(……しょうがない……儂以外の人間を使わせることにしよう…とりあえず、儂が人質として使えんことを思い知らせておかんとな…)


 気配を断ちチェスの真後ろへとたどり着く。

 途中背後にクロノが来たが、どうやら覗き込んだだけらしい。

 まだチェスはドラに気づいていない。

 そして、ドラはゆったりとした口調で、チェスへと声を掛けた。


「なにやってるの?」





 唐突に聞こえた声にチェスは驚きながらも、言葉は冷静だった。


「ちょっと、おばさんに頼まれてここを見ててって言われたんだ。」


 嘘ではない。宿屋の主人は確かにそう言って出て行ったのだ。

 朝方から食事の用意をしていたのだが、客が起きてくるのが思いの外遅かったらしい。

 ドラの頭はそんなことどうでもいいと言わんばかりに、別の考えが占拠していた。


「ふーん。で、その手に持ったものはなに?」


「……!」


 視線の先にはチェスの手に握られた鮮やかな色合いの花。なかなか珍しい紫色が印象的だ。


「綺麗な花だね。どこにあったのそれ?」


 一歩一歩ゆっくりと、チェスに詰め寄っていく。

 

「こっ、この前拾ったんだ!綺麗だったから。」


 チェスは感じ取る、不気味なナニカを。後ずさろうとするが、背後は鍋だ。

 二人の距離はもうぶつかるほどに縮まった。

 眼が合う。黄色を讃えた作り物のように澄んだ瞳。三白眼とはまるで正反対で、大部分が黄色に侵食されている。

 しかし、チェスにとってそんなことはどうでもよかった。もっと、別なナニカが自分を覗きこんでいるような気がしたから。

 視線が外せない。外したらその瞬間に食い千切られてまうかのような錯覚。

 いや、もしかしたら錯覚ではないかもしれない。

 この感覚を知っている。懐かしく苦々しい記憶。盗賊にベッドの下から引きずりだされたあの時の恐怖。

 だが、この感覚はそれ以上の恐怖。

 警鐘を鳴らす本能。逃げることを許さない視線。息が詰まる。足が竦む。手が震える。

 突如として現れた少年から発せられるナニカに怯える。

 いや、これは少年ではなく、別のナニカだ。

 ナニカは言葉を発しようとはせず、ただ不敵な笑みを浮かべている。さっきまでと変わらない顔のはずなのに、別人のように見える。

 時が凍りついたのかと思うほどに長く感じる時間。

 チェスはただ、待った。凍った時が再び動き出すのを。正確にはそれしか出来なかった。

 ナニカは笑みを浮かべたまま、チェスへと解凍の言葉をあっさり投げかける。

 同時にナニカは殺気を解いた。


「ホントに綺麗だね! その花」

 

 瞬間チェスの悪寒が消えた。呼吸が出来る。

 フッと、時間が動き出した。

 ドラの方を見るとそこにいるのは紛れもなく少年で、さきほどのような不気味なナニカではない。

 無邪気そうな笑みの少年は、チェスの手に握られた紫の花を興味深そうに見つめている。

 チェスは乱れた呼吸を整えるように二三度深呼吸をして、心を落ち着かせた。

 その間にドラはチェスの手から、花を奪い取る。


「こっれ欲しいなー!」


「だっ、駄目だよ…それは…」


 言いかけてチェスはその先の言葉を呑み込んだ。

 それは…の後に続く言葉は、到底言っていい言葉ではなかったから。

 矛盾しないように、その先の言葉を再度捻り出す。


「…僕が見つけたんだから…」


「う~」


 不満そうに口をすぼめつつ、花をチェスへと投げ返した。

 ドラは知っている。この花こそが毒の元凶であると。よく覚えていないが、名前はトリなんとか。一昨日の毒もこれだろう。

 

(目的は果たした…後は見張るだけか……)


 今回の目的は自分が人質として使えないと思い知らせること。

 先ほどの殺気でそれくらいは理解出来ただろう。そんな事すらも理解出来ていなければ、見込み違いだったということで、クロノではなく自分が始末するだけだ。

 後は手に持ったあの毒を混入させないこと。

 見張っておけば、下手な真似は出来ないだろう。

 

「そろそろ、ご飯運ぶから先に行ってて」


 チェスもドラがいると下手なことは出来ないと悟り、排除にかかる。


「僕も運ぶよ! 君が盛ったものを持ってくから、早く盛って?」


 笑顔の表情を崩さず、余計なことはするなと急かすドラ。

 綺麗な言葉の裏に仕込まれた本来の汚い目的。

 チェスは内心舌打ちする。


(クソがッ! 早く行けや!!)

 

 ドラは動かない。このままずっとこうしていても埒が明かない。

 そう判断したチェスは諦め、素直に皿に朝食を盛り、ドラへと手渡した。


「ありがとう! お兄ちゃんもう起きたかな~?」


 もう、お前の兄は起きてるよ。と言いかけたがチェスは言葉を止めた。

 鼻歌混じりに出て行くドラを見送り、大きく安堵の息を吐く。

 思い出す先ほどの恐怖。


(なんだ…アレは…)


 いつの間にか背後にいた少年。殺気を放つナニカ。

 

(これは…ちょっと弱みとして使うのは考え直した方がいいかもな…)



 この時点で、チェスは余計なことをせず逃げ出せばよかった。

 そうすれば少なくとも、これから起こるようなことにはならなかっただろう。

 だが、彼のプライドがそれを許さなかった。

 クロノに負けた。あんな甘い人間に負けたという事実。

 つまらない意地を張ってしまった。

 結局のところ彼はまだ幼い少年であったのだ。

 


食堂


 ドラがプレートを持って、食堂に入るとそこにはクロノの姿。他に人の気配は感じられない。

 クロノはドラの姿を認めるなり眼を丸くする。


「…なにやってるの?」


「なんじゃ、悪いか?」


「…いや…意外だなーって…」


「たまにはこういうこともするさ」


 プレートをクロノの前に置き、再び厨房へと戻っていく。

 少しして、自分用の朝食を持ち再び入ってくると、今度はクロノの隣に置き、そこにドラも座った。


「食べるとするかの」


「いっただきまーす」


 普段は見られない、間延びした声を出すクロノ。ここら辺はまだまだ子供だな、とドラは思う。

 

「ドラは今日どうするの?」


「ふむ、好き勝手やるさ」


「…なにそれ…」


「そういう主はどうする気じゃ?」


「そうだね…午前中は畑かな…午後からは未定。気が向いたら村長のところに行くけど」


「はっ、本当に主は農家か。」


「久しぶりにやってみると楽しいもんだよ。ドラも一度やってみる?」


「…遠慮しておこう…」


 引き気味に遠慮するドラ。こうしてみると、本当にクロノかと疑ってしまう。

 続く二人の他愛ない談笑。


 気づくと、互いの手元にあった朝食は消えており、若干遅めの朝食タイムは終わりを告げた。

 

 


 前日に雨が降ったため、土は未だに湿っており色も黒く変色している。

 空から降り注ぐ太陽の光の影響か、若干ではあるが湿気が多いように感じる。

 ぬかるみ、まではいかないが、歩くたびに沈むような柔らかさ。

 そんな畑を目の前に、クロノは腕組をしていた。


「余ったな…」


 視線の先には、畑の中でも端の端。

 長方形の畑なのだが、右上には不自然に飛び出した小さい正方形がある。

 聞くと、もっと広げようとして掘ったはいいが、途中でめんどくさくなって放置した結果らしい。

 小さすぎて作物を育てるには適さないが、このまま放置というのも何かもったいない。


「なにがいいかな…」


「あーっ!!ようやく見つけましたよ!」


 クロノがあれやこれやと思案していると、背後から声を掛けられた。

 メアリーの元気の良い声が耳を突き抜ける。


「今日祭り出てくれますよねーー!?」


「気が向いたらね。ちょうどいいや。こっち来て」


「えっ、えっ、ええ…」


 挙動不審に陥りながら、言われるがまま畑へと向かう。


「どうしたんですか?」


 クロノは畑の隅を指さして、メアリーに尋ねた。


「あそこのさ、余った箇所どうする?」


「あれって…何も植えないって言ってませんでしたっけ?」


「野菜は無理だね」


「じゃあなんで…」


「野菜はであって、他のならなんとかなるよ。野菜だって植えられないわけじゃないけど、一つだけしか植えられなくて寂しいし。具体的に言うと、一本でも映えるやつ。花…とか? あそこだけ何もないっていうのは不自然だし、見栄えが悪いから。」


 完全に自分の世界に入り、陽気に語るクロノ。


「花…ですか…」


「出来れば」


 メアリーは困ったように俯きながら、思考を張り巡らせる。

 

(花…何が良いんだろう?)


 いきなり言われてもなかなか思いつかない。

 とりあえず、記憶を思い起こしてみることにした。


(花かぁ…十字岩のところとか綺麗…)


 脳裏に浮かぶ十字岩の中にある秘密基地。まるで異空間のような花畑。

 

(あんな風になれば…って言うのは無理だとして…)


 願望を抑え、鮮明に記憶を思い出す。

 

(紫も、黄色も、綺麗だったなぁ…下は緑の絨毯で…)


 記憶の中で思い出し悦に浸る。紫、黄色、緑、様々な色を思い出していく。


(あっ……そうだ……)


 ここでふと、何かに気づき、無意識のまま口が動いた。


「……赤……」


「赤?」


 いきなり発せられた言葉にクロノは思わず聞き返すが、聞こえていないのかメアリーはその言葉に返答しない。


「…赤…そうだ…赤がないんだ…」


 うわ言のように呟くメアリー。心ここに在らず。

 不思議に思ったクロノは、メアリーの両頬を手で包み、ズイっと顔を近づけた。


「とりあえず落ち着いてくれ…」


「ひゃ…ひゃい…ッ…!?」


 いきなり何が起こったのか理解できずおかしな声を上げてしまう。

 だが、お蔭で現実世界に戻って来れた。

 恥ずかしがりながらも自分の願望を口にする。

 

「…赤い花がいいです…」


「赤か…なんでまた?」


「見たことないから…」


 記憶をいくら探っても赤い花の記憶が出てこない。十字岩の裏にもなく、この村のどこにもない。

 口にしてから、メアリーはふと気づく。


(って…何見たいものを言ってるんだ私…)


 しかしクロノはあっさりとそれを肯定する。


「いいね。それにしよう。この近く…あったかな…?」


「えっ、あの…無理ならそれで…」


「品種の指定はある?」


「いや…ない、ですけど…」


「王都の近くにあったか……うん! 明日辺り採ってくるか」


 混乱するメアリーを尻目にクロノは、何かを決意したのか手を叩いた。

 冷静に考えてもここから王都までは一日以上、往復で三日はかかる。

 それでもやると言ったら、やれてしまいそうなのがクロノではあるが。

 クロノは何度かうんうんと頷き、おもむろに耕具を取り出すと、楽しげに笑った。

 

「じゃっ、とりあえず今日も始めようかな。畑の整備」



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