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追放された少年  作者: 誰か
回想:名も無き村編
68/150

第六十話

少年のお話

祭り前夜

次の当日で名も無き村ラストにしたい

完全に勢いで書いた少年のお話


 少年の村は貧しかった。人口は全員合わせても30人もいない。

 主に農業で暮らしていた。

 少年はそんな小さな村で、五人家族の三兄弟の三男として生まれた。

 少年が生まれた年は不作で、家は貧しくなりとても五人も養えるような環境ではなかった。

 両親は悩んだ末、次男を売りとばした。

 この時のことを少年は知らない。

 まだ、少年は幼く物心つく前であったから、次男がいたという事実すらも知らないのだ。

 だから、少年は次男として育てられた。

 少年は幼いころから才能があった。同年代の子よりも勉強は出来たし、魔法についても多分村一番であった。

 両親はそのことを大変喜び、その顔を見て少年は益々嬉しくなって励んだ。

 褒められている自分をみる兄の顔が、嫉妬に染まっていたことをよく覚えている。

 少年が5歳の頃、またも不作の年に見舞われ、家計は苦しくなった。

 両親は悩んだ。子供を売り飛ばそうにも跡継ぎである長男は不可能。

 かといって、才能ある少年を売り飛ばすのももったいない。

 非常に打算的な思考。両親にとって子供はその程度の道具でしかなかった。

 ここで、両親は決断を下す。


 両親が下した決断は新たに猟を始めることだった。

 魔物の討伐は村でも急務であったから、父がそれを始めることで家は窮地を脱した。

 本来であればそんな簡単にいくものではなかったが、少年を連れて行くことで面白いように仕事は捗った。

 もう、少年の魔法は村でもトップであり、誰も敵うものはいなかったのだ。

 近辺の魔物でさえも少年には勝てなかった。

 この頃には少年も、両親の愛情が歪んだ汚いものだと気づいてはいたけれど、見放されるのが怖くてそれを口にすることはなかった。

 しかし、少年には問題もあった。

 それは――――生物を殺すことへの忌避感。

 どうしても、殺せない。だから猟には父が必ずついて行った。トドメを刺すために。

 父は殺せない少年を何度も叱ったけれど、それでも少年は殺せなかった。


「生きたければ闘え。闘わねば生きられない。弱者は死ぬんだ。覚悟を決めろ。強者は弱者を殺せ。それがこの世のルールだ」


 父の言葉で一番これが印象に残っている。弱肉強食。

 言われたときは、弱い父が何を言っているのだと思ったものだ。

 だが、少年は後で知る。これは紛れもない真実であると。

 

 少年が9歳の頃、事件が起きた。村を盗賊が襲ったのだ。

 真っ先に少年は父に呼ばれた。

 少年は自分が一番この村で戦えると自覚していた。

 そして、父と外へ出ると瞬間―――父が死んだ。

 それはもう、一瞬の出来事で、声を上げることすらも出来なかった。

 物言わぬ肉塊に成り果てた父を見て少年は思う。


―――――怖い


 湧きあがる恐怖。

 容易に自分がこうなると想像出来た。

 自分が強いのはあくまで村の中での話。

 世界から見れば、自分など雑魚もいいところだ。

 少年は脇目も振らず駆け出した。

 怖くなって、死にたくなくて、一心不乱に駆け抜けた。

 確かにこの時の少年は弱かった。このまま戦えば、おそらく死は免れなかった。

 少年は気づけば、自分の家のベッドの下にいた。

 暗く狭い空間。

 外からは悲鳴が聞こえる。

 自分を呼ぶ母の声も聞こえる。しかし、それはすぐに悲鳴へと変わった。

 兄の悲鳴も、友人の悲鳴も、断末魔として少年の耳に響く。

 ここで勇気を出して戦っていれば、あるいは何人かは助かったかもしれない。

 だが、少年は身を震わせベッドの下でその惨劇の音を聞くことしか出来なかった。

 やがて、悲鳴の合唱は終わる。

 ここからは盗賊本来の目的ある物色タイムだ。

 少年の家にも、当然盗賊は侵入し、あらゆる箇所を探っていく。

 少年は緊張しながら、暗闇の中で必死に息を殺す。

 盗賊が近づいているのが、足音で分かった。

 盗賊はベッドの周りを物色する。その間の少年は生きた心地がしないほどに心臓が悲鳴を上げていた。

 物色が終わったのか、盗賊がベッドの周りから離れた。

 少年は安堵し、小さく息を漏らしてしまった。

 その微かな音を盗賊は聞き逃さない。

 ベッドの下まで伸びたシーツを持ちあげ、下を覗き込む。少年の視界は一気に開けた。

 安定した暗闇に射し込む絶望の光。

 無理矢理に少年を引っ張り出し、盗賊は下卑た笑みを浮かべ、少年に鋭利な血のついたナイフを突きつけた。


「お前はどんな声で鳴いてくれるんだ?」


 その言葉は少年の耳には届いてはいなかった。

 盗賊は刃物を少年の腕に強く当てる。じんわりと、血が腕からあふれ出した。


―――――僕は死ぬ?


 少年は思い出す。父の言葉を。


「生きたければ闘え」


―――――そうだ。闘うしかない


 盗賊は振り下ろす。少年の首にナイフを。死は目前に迫っていた。


「死に、たく、ない…! まだ、僕は死にたくないィィ!!!」


 少年は咆哮を上げる。生きるために。それでもナイフは止まらない。

 それでも少年は叫ぶ。死にたくない。


「ア゛゛ア゛゛ア゛アァァァァァァァァァ!!!!!!」



 人は追い詰められたときに真の力を発揮する。

 いわゆる火事場の馬鹿力というやつだ。

 普段の生活では無意識的に眠らせている潜在能力ポテンシャル

 ほぼ全ての人間にはそれがある。

 だが、だからといってそれを発揮したとしても、全ての人間が生き残れるわけはではない。

 そんなものであれば誰も死にはしないのだ。

 結局のところ、潜在能力ポテンシャルの差である。

 たとえば、普段の力が3の人間が二人いたとしても、潜在能力ポテンシャルが50と100であれば、力を発揮したときには100の方が強い。

 それはつまり才能の差であり、努力などではどうにもならない。

 だから、少年には確かに才能があったといえるだろう。

 きっかけがなかっただけで、少年はもっと強くなる可能性を秘めていたのだ。

 それが、今、追い詰められた状況で開花しただけの話。

 


 少年は無我夢中だった。

 何も考えずにひたすら、溢れ出る力を奮い続けた。

 地を揺らしながら。


 そして、気づくと、誰も、いなくなっていた。

 手には汚らしい血の痕。それを見て少年は笑う。

 正確には笑いしか出てこなかった。


「アハッ、アハハハハハハハハアハハハハハハハハハハッハッハハハッハハハッハハッハハッハハッハハハッハッハハッハハッハハッハハハハハッハハッハハハッハハッハアハッハハハッハハッハハハッハハアハ!!!!!!!!!!!!!」


 少年はもう狂っていた。

 

 何も、誰も、いなくなった村だった場所には少年の笑いだけが、響き続けた。


 この後少年は盗賊の首領となる。狙うのは小さな農村ばかり。自分の過去をなぞるように。






夜 名も無き村


「明日は祭り、出てくださいね!」


「気が向いたら行くよ」




「明日どう転ぶかの? 楽しみじゃわい」





「細工は流々。後は仕掛けをご覧じろってとこか…」





「決行は明日…」





「皆の者! 明日の祭りの準備はいいか!?」


 

 様々な欲望を渦巻いて、夜は更けていく―――


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