第五十六話
短め
次回一気に名も無き村編終わらせたいなあ
あくまで願望
少年二人黒杉
ザクッ、ザクッ、という音が地面から聞こえる。
その音は地面を擦るような足音――などではない。
「ふう~、これくらいでいいかな。」
額に滴る汗を右手で拭う。拭った手にはべったりと土がついていた。
左手には濁ったような色の土に塗れた鍬を握っている。
鍬を一旦離し、腰に手を当て、自分が作り上げたそれを満足げに眺める。
疲れながらも不思議な達成感があった。
「まだ色々やることはあるけど、とりあえずこんなもんか。」
目の前に広がるのは、少し黒ずんだ土で出来た畑。昨日も一昨日もみた畑だ。
初日に見たときに比べれば、大分畑らしくなった。土自体も変わり、赤茶けた土から黒ずんだ土へ。
手を当てている腰が、小さく悲鳴を上げる。痛い。
それもそのはずで、本来レベル5を使った次の日は休養をとらなければならないのだ。
身体の限界を超えた無理な駆動で、全身の筋肉が悲鳴を上げる。
だけれども、今日は朝から手近な(といっても普通に歩いて10時間以上はかかる)ところから、土を何往復もして運んできたのだ。疲れるのも無理からぬことであろう。
午前中から始めて、今は陽が丁度真上に来ており、疲れたクロノの身体を容赦なく照らす。
フラフラとよろめきながら、畑に背を向けて宿屋へと戻ると、廊下でメアリーと出くわした。
びっくりしたようにクロノを見て、心配そうな声をかける。
「だっ、大丈夫ですか!?そんな、泥まみれになって…。」
「大丈夫大丈夫…。ちょっと、用があってね…。」
「だいじょばないですよ!眼とか、死んでますって!」
「死んでるって…、酷いなぁ…。」
「あっ、スイマセン…」
「冗談だよ、じょーだん。じゃあね。」
後ろ手に手を振って、部屋へと戻ろうとするが、どうしてもよろめいてしまう。
「やっぱり、大丈夫じゃないでしょう!ちょっと待ってください。部屋に戻るんですよね?私が連れてきます。」
「いいって…。」
「よくない!!」
「………」
凄まじい気迫で凄まれたクロノは、それ以上なにも言うことは出来ない。
大の男が少女に肩を貸されながら、部屋に戻るという、なんとも情けない自分に溜め息を吐くクロノだった。
一方その頃、ドラは宿屋内をはしゃぎまわっていた。
勿論、演技の一環ではあるが、それが主ではない。
ドラの本来の目的は別にある。
(あやつか…ちょっと探ってみるとしようかの。)
目的の人物を見つけたドラはトテトテと近づき、声をかけた。
「ねえねえ。」
声をかけられたチェスはビクッと身体を震わせながら、頭は冷静に回転を始める。
(コイツは……アイツの弟だったか…)
「なっ、なに?」
(反応が遅いのう…何か考えていたのか。それとも、単純に遅いだけか…)
「何やってるの?」
(年は同じくらいか?とりあえずは、予定どおり演じておくか…)
「いっ、今は掃除だよ。」
「手伝おうか?」
「いっ、いいよ。これが僕の仕事だから。」
(受け答えに不自然さはない…かの?喋り方はちょっと妙じゃが。)
ここでドラは軽く仕掛ける。
「終わったら遊ばない?僕暇なんだ~。」
(これは…使えるか…?)
丁度いい。チェスはそう思った。
あの男の弟であれば、仲良くしておいて悪いことはない。弱みとして使える。
殺すとき大いに役に立つだろう。
(どうでるかの?はてさて。)
今、チェスを殺すのは簡単だ。
だが、ドラはあえてそれをしない。
チェスにはクロノを追い詰めて貰わねばならない。殺さない程度に。
そして自分はそれを見張らねばならない。クロノが殺されないように。
朝のように毒物を入れられては、今のクロノではどうしようもないからだ。
二人の利害は一致した。表面上仲良くする、という点で。
ドラが最後に喋ってから、一秒にも満たない思考でそこまで考えた二人は、再び演技を始める。
「うっ、うん!もう少しで終わるから待っててね。」
「僕も手伝うよ。二人でやった方が早いでしょ?」
「あっ、ありがとう…キミはいい人だね。」
「僕はドラっていうんだ。よろしくね。キミは?」
「僕はチェスだよ。僕こそよろしくね。」
その会話は傍から見れば微笑ましいものであったが、純粋さの欠片もないほどに中身は真っ黒なものだ。
二人の少年は互いに演じあう。
心の中に、見た目からは想像も出来ないほど黒い感情を抱えながら。
(せいぜい利用させてもらうとしよう。アイツを殺すのに使えんなら、何だって使ってやるさ。役に立ってくれよ?クソガキ)
(好きなように動けばいい。だが、慎重に動けよ人間。あまり調子に乗ると、貴様の命の灯火は瞬く間に消え去るぞ?)




