第五話
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そういえばユースティアの人間全く名前出さずに家でちゃった
べっ、別に名前考えるのが面倒だったわけじゃないんだからね
目を覚ますと、突如背中が痛くなった。なぜだろうか、と思いつつ身体を起こす。
そして、床を見て現状を思い出した。
(そういえば、追い出されたんだっけ)
今僕が寝ているのは、いつも寝ていたようなやわらかいシーツのひかれたベッドではなく、茶色く堅い木の板の上だった。
当然シーツなどなく、そのまま寝てしまうと夜冷える事は確実。
しかしそこまで考えた所で思い出す、今まで僕は確かに寝ていたのだこの床で。
自分の身体の順応力に感心しつつ、ぼやけた記憶を探ってみる。
確かユリウスさんの話を聞いてる途中で、眠たくなって寝てしまったんだった。心なしかお腹も空いた気がする。
(今は何時くらいだろう?)
気になった僕は幌から顔を出して外を見た。
瞬間、とても眩しい太陽が目に入ってきて眩みそうになる。直射日光は正面からみるものじゃない。
次第に目が慣れてきて、視界がはっきりしてきた。太陽の位置を見る限り朝方のようだ。
視線を下に戻すと、右の方にユリウスさんとマルスさん? だったかが、煤けた大地を中心に座っていた。煤けている大地を見るに、夕べは焚き火でもしていたのだろう。
僕の視線に気づいたユリウスさんがこちらに顔を向け話しかけてきた。
「オウ、起きたか坊主。昨日はぐっすり寝てたなぁ」
眼の下にはくっきりと黒い隈が浮かんでおり、なんとも眠たそうだ。
夜通し見張っていてくれたのだろうか? 王都を出て一日なので、そんなに王都とは離れていない。
王都の周りは国内でも治安が良い方なので、まだそこまで夜のことを心配する必要はないはずなのだが。
案外心配症なのか。
そう思い僕は気にしないことにした。
「ええ、おはようございますユリウスさん」
僕は馬車から降り、無難に挨拶をした。そしてその向かいに居る人へと視線を向けた。
この人も隈ができている。
「おお、そうだ昨日はまだお互い話してなかったな。こっちが昨日話してたマルスだ」
マルスと呼ばれた茶髪で痩せ形の男は、こちらを向くと消え入りそうな声で言った。
「よ、よ…ろしくです…」
「クロノです。こちらこそ短い間ですがよろしくお願いしますね」
恥ずかしがりや。
それが第一印象だった。茶髪で、見た目は二十代前半くらいだろう。痩せ型というより、どこか頼りなさを感じさせる。
僕がマルスさんをそう値踏みしていると、ユリウスさんが豪快に笑った。
「がははっ、こいつは恥ずかしがり屋でな。今みたく声が聞こえづらいこともあるだろうが勘弁してやってくれや」
「す、すいません……」
「いえいえ、私の耳にはちゃんと聞こえますし、そんなに謝らないでください」
その話を聞き、自分の第一印象が間違っていなかった事を確信する。
今も頭を下げオドオドとしているマルスさんを見て、ふと疑問が湧いてくる。
この人は冒険者なのだろうか? と。
僕の持つ冒険者のイメージは荒くれ者が多く腕っぷしの強い者
それこそユリウスさんのような豪快で筋肉質のような人だ。
しかし、目の前にいるのは痩せていて気弱そうな豪快とは程遠いような男。
僕は彼がどれくらいの強さなのか知りたくなった。悪意などない純粋な好奇心からだ。
だが、どれくらい強いのかなどと馬鹿正直に聞けば失礼だろうし、これからわざわざ魔物を倒して下さいなどというのも論外だ。
そこで僕は思いついた。自分の疑問を解消してくれる方法を。
僕はすぐさまそれを実行に移した。
「ところでお二人とも強そうですがギルドランクはどれくらいなのですか?」
そう、ギルドランクを聞けばよかったのだ。
冒険者である以上ほぼ間違いなくギルドに登録しているだろう。
冒険者ギルドは各国にあり、国とは独立した体制をとっている。
ギルドランクというのは、ギルドが定める冒険者の階級でF~SSSまである。
単純にギルドランクが高ければそれだけ強いという事になる。
Cランクで一人前。Bランクで一流。Aランクともなれば国の一大戦力として扱われる。
Sランクより上は最早人智を超えた超越者とされているが、こちらは現在いるかどうかすら怪しい。
「ハッ、坊主も世辞がうめぇな。俺はともかく、マルスを見た目で強そうなんて言うやつはいねぇぞ?」
「そんなことはありません。マルスさんは腕の立つ魔術師なのでしょう?」
「ほう、そこまで分かってるたぁーな 俺もマルスもBランクだよ」
こちらの考えを見抜かれていた事に内心慌てたが、予定通りの解答をして事なきを得た。
どう考えても戦闘が出来るように見えなくても魔術師であれば、そこまで筋力を鍛える必要はない。
一般的に冒険者の中でも、戦い方によって名前が分かれる。剣士であったり、射手であったり。
それぞれ基本的には、最低限の魔力が必要で、魔法を補助として使い、剣で斬りかかったりするのである。
しかし、魔術師は、魔法だけ。それをメインとして戦うのである。
余程、自分の魔法に自信がないと出来ない。
予想していたことだ。僕には一生縁の無い名前だが。
そしてユリウスさんのBランクという言葉。
Bランクといえば世間一般では一流と呼べるクラスだ。
あの気弱そうなマルスさんも、戦闘となれば力を発揮するのだろう。まったくもって想像できないが。
何はともあれ自分の疑問を解消出来て満足した僕は、もうあれこれ考えずにユリウスさんと会話していた。
(結局マルスとガキについて話し込んで朝になっちまった…)
まあ、もう少し東の方にいけば寝ずに見張りをするつもりだったのでそこまで苦ではないのだが。
太陽が見えてきてしばらくすると、馬車からあのクロノが顔を出してきた。
挨拶した後、マルスの方に顔を向けて居るのをみて昨日二人は話してなかった事を思い出し、マルスを紹介した。
その後、クロノは自分たちのギルドランクを聞いてきた。
大方、マルスがどれくらい強いのか気になったのだろう。聞く時にさりげなくお世辞を混ぜてくるあたりなかなか賢い。
あえてお世辞の場所を指摘したが、するりとかわされてしまった。同時に人を見る目もあるようだと思った。大抵の人間はマルスをユリウスの従者だと思う。
しかし、一発で魔術師と見破るとは。本格的にクロノを育ててみたくなった。
(とても面白い拾いものをしたもんだ)
只、夜マルスに言われたことが気がかりだった。
「ユリウスは顔が怖いから、子育てには向かないと思うよ?」
(俺ってそんなに強面か?)
褐色の肌をした男は知らない。自分のスキンヘッドがどれだけ自分の顔と相まって相手に威圧感を与えるかを。
それから六日後。
大した問題もなく馬車はバグラスへと到着した。