第五十一話
短め
チェス君は多分10、11、歳くらいのイメージ
彼の過去も後で書くことになりそうです
(あ~~、こりゃあ無理だな。)
「首領」は暢気に目の前の惨状を見つめながら、そう心の中で呟いた。
見つめる先には、何の抵抗も出来ずにバタバタと倒れていく部下たちの姿。
お前らはただ突っ立っているだけの案山子か、と言ってやりたい気分だが、相手がアレでは無理からぬことだろう。相手の実力を見誤った自分にも責任はある。
自分の失態に唇を噛みながら、もういない部下の言葉を思い出す。
「武器は奇妙な形をした剣みたいなものでした。攻撃に関しては分かりません…。気づいたら、回り込まれてて…。」
そのときは属性も分からないままやられたのかと落胆したが、今見れば理由が分かる。
(属性も分からなかったのはこういうわけか…。文字通り剣しか使ってないし。)
目の前の男は剣しか使っていない。ただ、肉体のスペックに任せた戦い。
にわかには信じがたいスピードとパワーで、部下たちをなぎ倒している。
思えば、最初から相手の行動はおかしかった。
絶対に這い上がれない穴の底へ落としたというのに、一っ飛びで底から上がってきたのだ。
これではどうしようもない。
その行動に驚いた部下たちは、動揺を見せ瞬く間に隊列を崩した。
そこからはもう、無抵抗にやられるだけのサンドバッグと化し、ご覧のありさまである。
(なっさけねェなオイ。まっ、この状況になってもオレに眼を向けねェのは評価するけどよ。どうせ、オレも勝てねェし。)
部下たちの微々たる成長に内心感心した。ここで部下が助けを求めるような眼でこちらをみれば、自分が「首領」だとバレてしまう。
その間にも「首領」以外の部下たちは次々と倒されていく。
だが、ここで「首領」はある違和感を覚えた。
(それにしても――あの剣汚れねェな。)
眼をつけたのは男が振るう奇妙な剣。
細長い形をしたその剣は、夕陽に照らされ妖しく光る。
おかしい、何かが。
その疑問を解決させてくれたのは倒れる部下の姿だった。
部下の姿は汚れておらず、あまりにもキレイ過ぎた。
(血が出てない?……ケッ、通りで、オレが殺気を感じないわけだ。)
「首領」は本来落とし穴なんてものを使う気はなかった。
あんなものは、素人の演技にだまされるアホに使うものなのだ。
本来の目的は油断させるため、というのが一点。後は、万が一部下が負けたときの自分の保身が一点。
では、どうしてクロノに使ったのかというと、それはクロノが強そうに見えずチェスに言われたとおりに道を進んだからである。
今までの人間は皆途中でチェスに詰め寄り、アジトの場所を吐かせようとした。
しかし、クロノはそれをあえてしなかった。
それに、更に付け加えるのであれば、クロノから殺気を感じなかったということもある。
殺気とは文字通り殺す気のことだ。殺す気もない人間など、恐れるに足りないと「首領」は判断したのだ。
(コイツには殺す気がないのか。……ッチ、ザけてんのかよォ!)
手加減されてる。そう思うと、無性に腹が立った。
どうして、こんな奴に負けたのかと。
ムカつく頭を急速に冷やす。
(甘ェな、甘すぎだろ。……まあ、それならそれで、打つ手はないわけじゃない。とりあえず大人しく従うのが吉か。)
最後の部下が倒れたところで、「首領」はクロノへと顔を向け、表情を取り繕った。
これからは「首領」はまた、「首領」ではない別の誰かに成り代わる。
オドオドとした表情で、「首領」―――――いや、チェスはクロノへと謝罪の言葉を口にした。
「ごっ、ごめんなさい!!ぼっ、僕、この人たちに――」




