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追放された少年  作者: 誰か
回想:名も無き村編
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第四十八話

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農業編スタート

名も無き村 宿屋内


 宿屋の店主である女性は昼食の準備に取り掛かっていた。

 久々の客だ。張り切って作らないと失礼というものだ。

 

(それにしても、あの娘はどこ行ったんだか…)


 本来娘であるメアリーにも手伝って貰おうと画策していたのだが、見当たらない。

 

(これは帰ってきたら説教だね。)


 そう心に決め手元へと注意を向ける。

 女性は慣れた手つきで料理をこなしていく。

 そしてもうそろそろ出来上がろうかという頃――キィッと宿屋の扉が開いた音がした。

 厨房にいても確かに聞こえたその音。

 娘か客かと思い料理を切り上げ女性は、厨房を後にした。

 入り口には外からの風が扉から差込みヒュウヒュウと音を立てている。

 だが、女性はそんな風の音など耳には入っていなかった。目の前の光景が風の音に気づかせることを許さなかった。

 そこで女性が見たのは――


「えー?畑に行くんじゃないんですか?それといい加減下ろしてください!」


「うるさい…とりあえず勉強からだ。まず基礎知識を覚えないと作物は育たん。」

 

ギャーギャーと言い争いをしながらも、お姫様抱っこされている娘の姿だった。



数分前 十字岩裏


「えっ?作物…です…か…?」


 面食らったようにポカンと口を開けるメアリー。

 クロノは大きくそうだと頷く。


「まず、あの畑は改善しないと駄目だ。ほら、行くぞ。」


「行くってどこに?」


「宿屋だ。畑はあそこにあるのだから。それにここに長居するのも危ない。」


 イマイチ言ってることは理解出来なかったが、最後の長居するのは危ないというのには同意だ。


「だから行くぞ。」

 

「は…はい…」

 

 促されるまま、メアリーは立ち上がろうとするが――


「…ッ!?…」

 

足が上がらない。どうしても力が入らない。

 へたりとその場に座り込んでしまう。


「?どうした?」


「いえ、あの…立ち上がれなくて。」


 何度も立ち上がろうとするが、その度に力が抜けて座り込んでしまう。

 その様子をまじまじと見つめ小さくクロノは溜め息を吐いた。

 

「腰が抜けてるな…まあ、俺が引きずっていけばいい話か。」


「ひきずっ!?」


「冗談だ。しょうがない、背負っていくか。」


 掴めと右手をメアリーへと差し出すクロノ。

 おずおずとその手をメアリーは掴む。掴むと同時にグイッと一気に引き上げられる。


(どこにそんな力が…)


 そこまで太くないクロノの腕を見て驚愕するメアリー。

 引き上げたところでクロノは何かに気づいたのか一瞬動きが止まった。


(あっ、今背中にエクスナンタラ背負ってるんだった…)


 クロノの背中には大きな大剣。

 このままではおんぶしたときに邪魔になってしまう。

 

「…?…」


 固まったクロノを不思議そうにみつめるメアリー。

 

(どうしようか…あっ)


 思考を張り巡らせていると、何かを思いついたかのようにクロノは頷いた。


(背負わなきゃいいね。)


 

名も無き村 宿屋内


「とりあえずここにでも座っておけ。」


 客室にある椅子にメアリーを座らせるクロノ。

 座らせた後、メアリーの向かいに椅子を持ってきてそこに自分も座る。

 ドラはいつのまにかどこかへと消えており室内には二人だけだ。

 流れに身を任せてここまでやって来たメアリーだがここで平静を取り戻したのか抗議の声を上げる。


「ちょ、ちょっと、何する気なんですか!?」


「勉強だ。さっき言っただろう。」


 混乱するメアリーを尻目にクロノは続ける。


「とりあえず聞いておこう。あの畑っぽいものには何を植えている?」


「えっと…人参とか、キャベツとか…」


「なぜそれを植えている?」


「色々料理に使えそうだからですけど…」


 クロノは小さく呆れたように溜め息をついた。


「それが駄目なんだ。ここの土壌にその作物は適さない。」


「えっ、でも…ここら辺の農家さんは作ってますよ?」


「それは客土してるんだろう。」

 

「客土?」


「他のところから、土を持ってくることだ。そうすれば土の質は変わる。たとえ向いていない作物でも作ることが出来る。」


「じゃあ、今植えてるものを作りたければそれをしろってことですか?」


「そうだ。と言いたいが客土は一々他の場所から運搬しなきゃいけない。わざわざ遠いところからあてもなく見つけてお前が運べるか?」


 メアリーは自分の腕を見つめる。細いというわけではないが、太いというわけでもない。とても力があるようにはみえない。

 がっかりしたような顔のメアリーをみて、クロノは違うと首をふった。


「だから、土を変えるんじゃない。植えるものを変えろ。」


「植えるもの?」


「こういう土地には芋が一番だ。あれなら大体どんな場所でも育つ。そもそも芋というのは――」


 長々と授業を始めるクロノ。

 メアリーはその様子を見て顔には出さず心の中で笑った。


(フフッ、まるで別人みたい。)


 第一印象では無愛想で無口な気難しい男という印象だったが、今農業について力説する姿を見るとそんなことはなく、むしろこちらが彼の本来の姿なのではないかと思ってしまう。

 

(案外いい人なのかもね。)


 頭の中でフードの下に見えた素顔を思い浮かべる。

 黒髪青眼という特徴的な顔立ち。

 思いだしてみると同い年くらいかもしれない。


(後で年齢も聞いてみようっと。)

 

 そう心に決めた。


 この後クロノの授業は5時間に渡って続き、頭がパンクしたメアリーの脳からそんな考えは消え去ってしまうのだが、まだ彼女はそのことを知らない。



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