第四十六話
回想編書くのメンドイ
一旦飛ばして戦争編行っちゃ駄目ですか?…
駄目ですね、はいすいません
全体的に雑
陽は高く暖かな陽気。空を一日の始まりを告げるように鳥たちが鳴きながら優雅に飛んでいる。そろそろ村人も活動を始めようかという時間。
宿屋の娘であるメアリーは母と共に久々に客用の料理を作り終え、とある場所へと向かっていた。
「よっ!どこ行くんだお前?」
突然後ろから声を掛けられ、肩に手をポンと置かれた。
慣れたことなので、振り返ることもせずに手を払う。
毎回自分を見つけては行く先を聞いてくる。めんどくさいことこのうえない。
「別に…アナタこそこんな所で油売ってていいの?」
「んー?まあ、どうせやることもないしな。はは。」
男はそう言って軽薄な笑みを浮かべた。
メアリーはこの男トーリが嫌いだった。いや、正確には今の彼が。
元から嫌っていたわけではない。同い年で家も近く、昔は幼馴染としてよく遊んだものだ。その頃のトーリはよくも悪くもガキ大将で、面倒見もよく誠実で村の子供たちを引っ張っていた。
それが今はどうだ。仕事もせず村の中を一日中ブラブラして、人の邪魔ばかりする。昼間っから酒を飲み、時にはメアリーの家に勝手に上がって来ることもある。正直迷惑でしょうがない。
もちろん彼には彼の事情もある。
盗賊が現れたときに最初の犠牲者となったのは彼の父だった。見つかったその死体は身体のど真ん中を何かに貫かれ、ごっそりとその部分の肉が抜け落ちていたのを覚えている。
それが原因かは定かではないが、彼の母は死体が見つかった数日後に首を吊って自殺した。
その後からだ、彼がこんな風になったのは。
両親の死がどれほど彼に影響を与えたのかはわからない。
ただ、それを差し引いても今の彼は許容出来るものではなかった。
村の皆も、傷が癒えるまで暫く放っておこうという見解のようで、咎める者はいない。
そんな対応が彼のこの態度と生活に拍車をかけているとメアリーは思う。
だからこそ、メアリーは毅然とした態度でトーリに接する。昔の彼に戻って欲しいから。
「じゃあ、私もう行くから。」
「おっ、おい!待てよ!」
呼び止める声を無視してメアリーは、スタスタと歩き出す。
「絶対外出んなよ。危ねえから。」
これもいつものこと。毎回のように注意してくる。心配しているのかも知れないが、お前はそんなことより働けと言ってやりたい。
「別に…外に出るわけじゃないわ。珍しく客が来たから野菜とか貰いにいくだけよ。」
嘘だった。
今までは馬鹿正直に外に出るときは出ると言っていたのだが、その度に強引に引っ張られ行くことは出来なかった。これから行く場所はトーリと出会わなかった日に何度か行っていて、危険な目にあったことはない。
だから今回は嘘をつくことにしたのだ。邪魔されないように。
大体トーリもブラブラと村の外に出て行くことがあるというのに。一々彼に邪魔される筋合いはない。
「客?ああ、あの二人組か。」
「何でアンタが知ってるのよ?」
「たまたま入ってくのをみたんだよ。なら、いいんだじゃあな。」
トーリはホッとしたように胸を撫で下ろし、背を向けて手を振り歩き出す。
その姿を見送ることなどせず、メアリーは歩き出した。目的の場所へと。
村の外には煤けたような荒野が広がっている。大地に亀裂が入り、傍目には草木など見当たらない。
切り立った岩、硬い大地。
そんな荒れた地をメアリーは歩いていく。
やがて、一つの大きな岩の前で立ち止まった。
風化によってところどころ削られた岩。最初は綺麗な真四角だったのだろうが、端が削られギザギザになっている。真ん中に至っては綺麗な十字傷が刻まれていて、故意につけられたものではないかと疑ってしまうほどだ。
その周りにも同じような岩が四つあり、何かを囲むように聳え立っている。
この岩は同世代の間では割りと有名で、十字岩と呼ばれている。幼少の頃に皆で発見したもので、大人たちは知らない。
十字岩をぐるりと回りその裏へと向かう。
次の瞬間メアリーの眼に飛び込んで来たのは、この地には似合わない草や花、そして小さく円状に広がる池だった。
草が生い茂る地に腰を下ろす。
ここは端的に言えばオアシス。五つの岩に囲まれた秘密の場所だ。幼少の頃には秘密基地としてここでよく遊んだものだ。
メアリーは定期的にここを訪れる。特に深い意味はない。
ただ、何となく。昔を思い出すように。
あの頃の友人の大半はもう村にはいない。ある者は家族と共に村を離れ、ある者は討伐に参加して死んでいった。
花の冠を作っていた彼女も、池に飛び込んでいた彼も、もういない。
戻れないあの頃を思い出して感傷に浸る。
変わってしまった自分たちと、変わることのない場所。
花はあの頃の記憶と寸分違わず咲き誇っている。
いつかは自分の畑にもこんな綺麗な花を咲かせてみたいものだ。新鮮な空気を吸いながらそう思った。
暖かな陽気に包まれ、思わずまどろんでしまう。ウトウトと舟を漕ぎ、終いには夢の世界へと落ちてしまった。
同時刻宿屋内
クロノとドラは朝食を取り終え、自室で寛いでいた。
窓から差し込む光によって、室内は暖かい。
「そうだドラ、メアリーって子の居場所分かる?」
「なんじゃいきなり?はっ、まさかお主あの小娘に一目惚れしたのか!?」
からかうように聞いてくるドラ。
「むしろ、ドラにそういう発想があった方が驚きだよ。ちょっと、あの畑に関しては色々言っとかないと。あんなんじゃ野菜が可哀想だよ。」
「お主は農家か!大体、儂に聞かずともアヤツの母親に聞けばよいじゃろうが。」
「いや、聞いたんだけど知らないってさ。畑もあの娘に一任してるらしいし。」
「で、儂に鼻で追えと。」
「そういうこと。」
「じゃが、断る。儂は犬ではない。」
「終わったらシュガー行ってアイス――」
「よし、行くぞ。早くせい。」
(犬よりも単純な気がするけど黙っておこう……)
「――ん?あれ?寝てた?」
柔らかい草の上からメアリーはゆっくりと身体を起こした。どうやら寝てしまっていたらしい。
眼を何度か瞬きさせ、身体の覚醒を促す。
視界には太陽の光が差し込む。
大きな欠伸をして、そろそろ帰ろうかと立ち上がる。
「……する?…や、確か……駄目って…」
声が聞こえた。気のせいではない。確かに声がする。
起きかけの脳内で声の主を探るが該当者はいない。
つまり、見知らぬ人間。そして、ここにいるということは盗賊の可能性が高い。
背中がざわつく。頬には冷や汗が伝う。
間違いなく声の主は敵だ。声がするのは十字岩の向こう。
恐る恐る、岩の陰から顔を覗かせると――
「あ゛?」
眼が合った。紛れもなく、それは人の眼だった。
一歩一歩後ずさる。
死ぬ。逃げなきゃ。逃げる?どこへ?
入り口は十字岩のあそこしかない。他の岩にも隙間はあるが、到底抜けられるようなものではない。
袋小路に追い詰められていた。
死ぬ。死ぬ。死ぬ。覚悟した。自分の死を。
しかし、いつまでたっても入ってくる気配はない。
「あ゛あ゛、めんどくさい。行くか。」
そう言うと、そのまま立ち去ってしまった。
緊張が解け、力が抜けたようにへたりと座り込む。
生きてるという実感。安堵。恐怖からの解放。
さまざまな感情が襲ってきて、頭がパンクしそうだ。
ぐにゃりと視界が揺れる。
そしてそのまま、意識を失ってしまった。
(襲わなかった?何かあったのか?)
訝しげな表情で、盗賊の消えた先をクロノは見つめる。
ドラの鼻を頼りに十字岩を見つけたまではよかったが、そこには盗賊が二人待ち構えていた。
どうやら中にメアリーがいるらしく、そろそろ倒しにでも行こうかと思っていたのだが、予想に反して盗賊はそのまま立ち去ったのだ。
(おかしいな、何かが…)
微かな違和感を覚えながら、クロノは十字岩の裏へと向かった。
「アレが例の女だろ?」
「確かな。手出したら「首領」に殺されるわ。」
「何であの女に固執するのかね?」
「さあな。サッパリ分かんねえ。余計なこと考えてもしょうがないだろ。」
「それも、そうか。ハハッ。」




