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追放された少年  作者: 誰か
戦争編
47/150

第三十九話

久々の更新です。

正直リルのところは何で書いたんだろうレベル。

追放少年にこういう要素いらない気がしてならない。

多分次々話から回想になると思います。

翌朝

宿屋ビッグマウンテン


「…代金ここ置いとくぞ」


クロノは袋から金を取り出し、カウンターで眼が半開きになって寝ている少女の前に置く。


「ん~~~???ね、ねみゅい……誰だっけ?…うう、頭痛い…」


眼をしばたかせ意識を覚醒させる少女。

かわいらしく右手で頭をさすっている。

あどけなさの残っていそうな少女だ。

しかし、その印象は吐息から漏れる酒臭い息によって瞬く間に瓦解する。


「クロノだ。とりあえずここまでの代金な。」


「ああ~~…??誰だっけ?」


「いい加減にしろよ、酔っ払い。」


「冗談だよう。怒らないでよう」


眼を潤ませながら、上目遣いで少女は顔を見上げる。

知らない人が見れば幼い少女を苛めているように見えるだろう光景だ。

実際はそんなこともなく、眼が潤んでいるのは事前にしたあくびのお蔭なのだが。


「いい年して何やってるんだか…」


呆れたようにクロノが呟く。

彼女宿屋店主ユイ・ビッグマウンテンの実年齢を知っているクロノからすれば、ユイの言動は痛いだけだ。

その発言にユイの眉がピクリと動く。


「なーにか言った?」


声のトーンが一段階下がる。

笑顔で不思議な威圧感を纏うユイ。

不思議な威圧感に一瞬たじろいでしまう。


「……まあ、いい。じゃあな」


これ以上首を突っ込むのは得策ではないと判断したクロノは早々に話題を切って、宿屋を後にした。

その姿を遠くから見る影が一つ。


「あれ?クロノどこか行くのかな?」



アース近郊


クロノは街から少し離れた林道を歩いていた。

碌に整備されておらず、歩くたびに足を草にとられそうな悪路。

天気は生憎の曇り。大陸全域を黒い暗雲が支配していた。

林道は暗く若干の不気味さを感じさせる。

林道を進むと少し開けた場所へとたどり着く。

そこの切り株にポツンと座るのは見慣れた緑髪の少年。


「ようやく来たか、待ちくたびれたぞ。」


「ちょっと無駄話しててね。」


軽く問いに答えるクロノ。

メイからギールの状況を聞いたクロノはその日の内に行こうとしたのだが、その時は既に外が暗く、戦争もまだ始まっていないとの事だったので翌朝にしたのだった。


「ところで、後ろにいるのはどうするつもりじゃ?」


ドラが鼻をひくつかせながら尋ねる。


「?何のこと?」


「気づいとらんのか…我が主ながら呆れるな……ほれ、出て来んか」


首で誰もいない森に出て来いと合図を送るドラ。

草木が揺れ影が姿を現した。


「リル!?」


「あっれー?結構自信あったのに…」


「舐めるでない、儂からすれば丸分かりよ。どっかのマヌケは気づかんかったようじゃがな。」


「いや、本当に気づかなかった。」


「まあ、殺気は出しておらんかったから気づかんのは無理もないが。」


「私がクロノに殺気なんて向けるわけないよ!」


語気を強めるリル。

その姿を見てクロノは内心頭を抱えていた。

そもそも、朝にしたのはリルに見つからないようにするためだ。

恐らく、これから言うことはクロノでも容易に予想出来る。


「クロノこれからどこ行くの?」


予想通り。予想通り過ぎて怖いくらいだ。

そして、自分がこの先何を言ってもどんな返答が返ってくるかさえ分かってしまう。

自分の予想が外れることを祈りながら、クロノは答えを返す。


「ちょっと仕事でギールの方にね。」


「私も行く!」


駄目だ、もう駄目だ。予想通り過ぎて頭が痛い。

たとえどう嘘をついたとしても、同じ返答だっただろう。

再び深く頭を抱えてしまう。

リルだけはギールにどうしても連れて行きたくなかった。

これから戦争が始まる国になど、連れて行きたくなかったのだ。

クロノが戦争に参加すると言ったら、終わるまで一緒について回ることになるだろう。

通常のモンスター討伐依頼であればそれでも構わないのだが、今回は戦争だ。

どこかで、必ず人が殺されることを見ることになる。

リルにそんなものを見せたくはなかった。

そんな現実を知るにはリルは幼すぎる。

これまでも、最大限配慮はしてきた。

リルには盗賊の討伐など人相手の依頼は受けないように言いつけているし、一緒のときもそういう依頼を受けることは避けてきた。

願わくば、永遠にそんなことを知らないまま育ってほしいとさえ思う。

いつかは冒険者なんて辞めて、戦いなんてものから離れてほしかった。

それに、リルの身を危険に晒すことにもなる。

結果的にこんな世界に引きずり込んだのは自分なのだ。

身勝手だとは自分でも分かっているが、どうしてもそんな現実を見せたくはなかった。


「絶対に連れていかないから。」


「じゃあ、私は絶対に付いていくから。」


意地でも付いていこうとするリル。

こうなったらリルは意地でも付いていく構えだ。

普段であればここで引き下がるクロノだが、今日は抵抗を試みる。


「本当に連れてかないから。」


「いいよ、私は絶対に付いてくから。」


かみ合わない会話。


「早く行こうかドラ。」


(うーむ、珍しくクロノが食いさがっとるのう…)


「ドラ君は私を乗せてくれる よ・ね?」


リルは標的を変え、眼が笑っていない笑顔でドラに話しかける。


(この殺気……クロノはとんでもない怪物を育てんじゃんなかろうか…)


「乗せなくていいからいくよドラ。」


リルを無視して、出発しようとするクロノ。

板ばさみになったドラは苦笑いを浮かべている。


「んもう!!!どうして、連れてってくれないの!?」


「どうしてもだ。」


激昂するリルに冷静に言葉を返すクロノ。

普段であれば絶対に見られない光景だ。


「だからどうして!?」


クロノは大きく溜め息をつく。


「はぁ…、リルはギール王国がどうなってるか知らないんだよ。あそこはすぐにでも戦争が始まる。そんな危ないところに連れて行くわけにはいかないんだ。」


「私だって、戦えるよ!クロノの足手まといにもならないから!!」


リルは諦めない。

その様子を見てクロノは再び大きく溜め息をついた。

そしてゆっくりとリルに近づき、優しく抱きしめた。


「……クロノ…?」


「分かってくれ……リルにあんなものを見せたくないんだ。戦争は人が死ぬ。人が死ぬ光景になんて慣れたら駄目なんだよ。」


クロノの手は震えていた。

頭の中でフラッシュバックするのは、始めて人を殺した記憶。

あの人を殺した感情も感触も鮮明に思い出せる。


「あんなものに慣れたら人を殺せるようになってしまう。リルは俺みたいな最低な人間になっちゃいけないんだ。」


手の震えが止まらない。

悲しくなるほどに、その言葉は自分自身に突き刺さった。

過去の記憶と重なって、リルの顔が目の前で血に染まったところを浮かべてしまう。

重ねたのは過去の自分で、その眼はどこまでも虚ろに遠くを見つめている。

浴びているのは、自分の血ではなく返り血だ。

紅く染まった顔で、過去の自分はゆっくりと口を開く。

オ    マ    エ    ガ    コ    ロ    シ    タ

思わず眼を背ける。

何度も見た幻覚。

あの日からこんな幻覚を何度も何度も何度も繰り返し見た。

クロノは思う。

リルにそんなものを見せてはいけないんだ。

罪悪感に苛まれる人生を送らせてはいけないんだと。




「……違うよ…クロノは最低な人間なんかじゃない…」


リルが小さな声で囁いた。


「クロノはいつだって私を助けてくれたから、初めて会った時も、それからも、いーっぱい助けてくれたから……最低なんかじゃない!!」


声を上げるリル。


「顔上げて?」


「リル……」


「クロノは私にとって、王子様みたいな存在なんだよ。いつまでも、俯いてるなんてらしくない。だから…ね?元気だして。」


華奢な身体でリルが精一杯クロノを強く抱きしめる。

その手は温かくて、あの日を思い出す。


「…ありがとう、リル。」


視界から血まみれの自分が消え、現れたのは笑顔のリルだった。

顔を上げ、リルを見据える。

自然と手の震えは治まっていた。


「うん、私の大好きなクロノの顔だ。大好きだよクロノ。」


「ああ、俺もだリル。」


(儂がいること忘れとるじゃろ……絶対あの二人、好きの意味がかみ合っとらんの……)


実に冷静に二人の状況を分析するドラ。

完全に一人取り残された格好だ。


「だから、リルは今回連れて行けない。分かってくれ。」


「うん、今回は付いていかないよ。クロノが私のこと大切に思ってくれてるって分かったから。」


「ただし、絶対無事で帰ってきてね。約束だよ?」


「ああ、約束だ。」


リルは背の高いクロノを上目遣いで見上げながら、安心したように笑顔を浮かべる。

その笑顔はとても無邪気でクロノには眩しく見えた。

再度抱擁を交わした後、どちらともなく手を離す。

二人の様子を見て、自分の主に呆れつつドラは龍へと姿を変える。

鮮やかな緑で、神々しささえ感じさせる龍。

その姿に臆することなくクロノは上に飛び乗った。


「じゃあ、行って来るよ。」


「うん、無事で帰ってきてね。」


ドラが大きな翼を羽ばたかせ、ゆっくりと飛び立つ。

森に強風が吹き荒れる。ざわめく木々。

強風の中でもリルは揺らぐことなく、飛び去っていく二人を見つめていた。





「そういえば、そもそものギールに行く目的は保護じゃった気がするんじゃがどうするんじゃ?」


「メイから貰った紙に全部書いてあるよ。」


そう言って、クロノは強風が吹き荒れるドラの上でポケットをまさぐる。

ポケットから小さな正方形の白い紙を取り出す。

昨日メイから渡された紙だ。

それを右手に持ち目の前に持ってくる。

その時ドラの身体が若干揺れた。


「えっーと、うおっ…あっ……あーーーーーーーーーーーーーー!!」


揺れた拍子に紙が手から離れ、空へと飛んでいく。

瞬く間に、揺れながら視界から消えてしまった。


「どうしたんじゃ?」


「紙が飛んでった……ま、いっか。内容は昨日見て全部覚えてるし。」






(あああああああ、クロノが好きって言ってくれたよ!!夢じゃないよね?夢じゃないよね?)


二人が過ぎ去った後で、リルは答えの出ない自問自答を繰り返していた。

頭が熱くなって何度もさきほどの映像が再生される。

そんな、夢見心地のリルの前に迫る白い物体。

白い物体は徐々に速度を緩め、目の前の地面へと着地する。

着地したのを見てみると、どうやら紙らしい。


(なんだろう?これ?)


好奇心で拾い上げてみるとそこに書かれていたのは、依頼らしき内容。

特徴的な語尾から見て、書いたのがアース神聖国の領主メイ・シュガーであろう事が容易に想像できた。

内容からして特定の人物の保護らしい。


(どうみてもクロノの…だよね…)


周囲を見渡すが人の気配を感じられない。

落としたのはクロノで間違いないだろうと確信を持つ。


(うーん届けに行った方がいいのかな?でも、ついてくるなって言われたし…)


(いや、これがなくてクロノが困ってるかも知れない……ちょっと行って帰ってくるだけならだいじょ-ぶだよね?だいじょーぶだいじょーぶ。よし、行こう。それに、この場所なら私が役に立つかもしれないし。)





領主の館


独特の匂いがする特徴的な部屋。

見るものが見ればすぐに和室だとすぐに分かる部屋だ。

そこに座布団を敷いて正座するのはこの街でも有名な三人。


「―――なーんで、この二人に囲まれるとウチが最年長に見えるんや…」


「そんな事ありませんよ、メイさんはいつでも若々しいじゃないですか。」


「若々しいんやなくて一番若いんやけどな…」


「しょうがないよう。私は永遠の12歳だし、ユウ君は永遠の18歳だからー」


「つまり、実年齢22歳のウチが一番老けとるっちゅうことか……くっそう!世の中はどうしてこんな理不尽なんや!」


バンバンと畳を叩きながら理不尽を嘆くメイ。

その様子を見ながら丁寧な持ち方でお茶をすするユウ。

ニヤニヤと笑っているユイ。

コントのようなやり取り。

ひとしきり畳に理不尽な怒りをぶつけたところでメイは顔を上げる。


「まあ、おふざけはこれくらいにして」


「それにしては熱心に叩いていた気がしますが…」


「で?結局何の用なのかなあ?予想はついてるけどう。」


場の空気が変わる。

ユウも大体は察しがついているようだ。

メイは二人の顔を確認してから、ゆっくりと本題を切り出した――




名も無き村


宿屋の店主である女性は朝の追悼が終わった後も、娘の墓の前にいた。

既に他の村人はいなく、墓場には彼女一人だ。

墓場には浅い霧がかかっており不気味に見える。


「今日は雨が降りそうだねえ。」


物言わぬ娘に話しかける女性。

空は生憎の曇り空。今すぐにでも雨が降ってきそうだ。


「この花もすっかり元気になって…」


墓の前には花瓶に添えられた赤い花。

つい、先日までしおれていたのが嘘のように咲き誇っている。


「じゃあ、また明日。」


一度墓石を撫でて娘に別れを告げる。

そして家に戻ろうと振り向いたその時――


「誰もいないよなァ…」


声が聞こえた。

それは男の声。

村人は全員知っているが、誰も当てはまらないその声。

徐々に霧に隠れていた男の輪郭がはっきりとしてくる。


「ここなら、殺しても見つからねェな」


物騒な言葉を当然のように言い放つ。

その言葉の矛先が誰に向いているか、女性は本能的に察知した。

男はじりじりと近づいてくる。


「悪ィけど、昨日みたく遊んでる暇はねェんだ。じゃあな」


高く掲げた剣。特別な装飾が施されたその剣はとても眩く光って見えた。

あっさりと、死刑宣告を告げた男は剣を振り下ろす。


次の瞬間     鮮血が     飛び     散った






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