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追放された少年  作者: 誰か
戦争編
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第三十八話

戦闘の前にそろそろ回想が入りそうです。

朱美さんの外伝とか入るかも。


エテジアの村近郊


月夜が悲しげに照らす荒野。草木は全くと言っていいほどに生えていない。

シュヴァイツ王国と隣接する東の地域に存在する荒野だ。

風の音に紛れ聞こえる足音。

荒野の中で蠢く集団。

彼らの格好は騎士、というよりも兵士といった方が的確であろう身軽なものだ。

そんな集団の中で一際目立つ、白いマントのようなものを羽織った男。

彼は先頭に立ち、集団を率いている。

暗闇を進むと見えてきたのは、ほんの僅かな光。

その光は今回の目印であり、目的地を示すものだ。

始まるのは戦争という名の蹂躙。

平凡な村はこれより、一夜限りの戦場と化す。


教会内


外から隔絶された教会内。

いつもはこの時間になると、静まりかえっているのだが今日は違う。

村人の悲鳴がわずかに聞こえる。それは教会の外から。

神父は祈っていた。自らの神に。

今、この村に起こっている異変を知りながら。


「神よ…どうか、この村をお救いください。」


神父には祈ることしか出来ない。

この騒ぎの終結を。

神父は信じている。神は必ず救ってくださるのだと。

一日たりとも礼拝を欠かしたこともなく、常に神への尊敬の念を内に秘めた神父。

まさに模範と呼ぶに相応しい神父。

しかし、無常にもその祈りは彼の信じる神に届くことはない。

教会の扉がゆっくりと開けられる。


「…ああ、ここなら見られることはねェな…」


入ってきたのは白いマントを羽織った男だった。

男は入るなり、扉を閉め密室を作り出す。

その姿を見た神父は悟ったように、降伏のポーズとして手を上げた。


(私も奴隷になるということか…)


戦争といっても、無差別な殺戮はまず行わない。

相手の国としても、殺すより労働力が欲しいためだ。

民を捕まえ奴隷にするのが、一般的なやり方となっている。


(だが、奴隷となっても希望を忘れていけない。そして、神への祈りも。そうすれば、いつかは救われるのだから。)


「さあ、どこへでも連れて行ってください。私は抵抗いたしません。」


これからの自分を想像し、神父は覚悟を決めた顔でそう言った。


「……」


しかし、男は眠たそうな眼で一向にこちらに向かっては来ない。

だらしなく頭を掻き上げながら、男は左手で短剣を神父へと放り投げる。


「?」


カランと乾いた音が、教会内に響き渡る。

わずかに差し込む月明かりによって、銀色に鋭く光る短剣。

男の意図が分からない神父は首を傾げる。

やがて、男がめんどくさそうに言葉を発した。


「降伏は無駄だ。抵抗をしろ。」


「…なに…?」


「聞こえなかったのか?降伏しても無駄だから、抵抗しろといったんだ。その短剣でな。」


男が指さした先には放り投げた短剣。

神父は言葉の意味を理解出来ない。

頭が混乱する。回る思考。

そんな神父に男は追い討ちをかける。


「もう一度だけ言ってやる。降伏は無駄だ、抵抗しろ。でなければ今すぐ殺すぞ。」


神父は理解する、言葉の意味を。

いや、本当はとっくに理解していた。

ただ、目を背けていただけ。

頭が弾き出した答えは、どう進んでも袋小路のデッドエンド。

生き残る術はわずかに一つ。

それは奇しくも、男の短剣を使わなければ出来ない。

神父は混乱しながらも、短剣を手に取った。

生き残るには男を殺すしかない。

既に神父の頭は正常ではなかった。


「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


獣のような叫びを上げて男に飛び掛る神父。

自分でもこれほどまでのスピードで動けたのかと思うほどの速度だった。

しかし、それは神父からすればの話。

男はなんなくその一撃をかわす。


「ごくろーさん」


そんな声が神父の耳に届いたときには、身体はなにかによって貫かれていた。

それが剣だと分かる頃にはもう立ち上がれなくなっていた。

溢れ出る血。男はゆっくりと剣を神父の身体から引き抜く。


「神よ…なぜ…私…を…見捨…てた…ので…すか……」


それが神父の最後の言葉。

倒れながら、虚ろな眼でそう呟いた。





手に残る人を殺したという感触。

男はその余韻に浸っていた。


(神様ねェ……)


息の無くなった神父を足元に見据えながら、憐れむような視線を送る。


(神様っていうのは、きっとお前らが思ってるような救いの神様なんかじゃあない。それこそ、どうしようもなく気まぐれで理不尽な存在なんだろうぜ。)


(じゃなきゃ、オレみたいなのがこの世界にやってくるなんてことはないからなァ)


男は笑う。嘲るように。

足で神父の頭を弄びながら。


(さて、とっとと死体の処理しねェとな。)


そこまで考えてからふと気づく。


(って、何やってんだオレは。ここはあっちの世界じゃねェんだから、一々バラバラにする必要もねェだろうが。)


思わず昔を思い出す。

元の世界にいたときは身体をバラバラにし、内臓をミキサーにかけ下水に流したものだ。

しかし、この世界ではそんな必要はない。

閉じていた教会の扉が開かれる。

入ってきたのは金髪の若い部下だった。

若いといっても自分に次いで地位は高いし、戦闘能力も高い優秀な部下だ。


「こちらにおられたのですか…その死体は?」


指さす先には神父の死体。


「抵抗しないと思ったらいきなり短剣で斬りつけてきたからな。まったく、とんだ不良神父だ。」


白々しい嘘を吐きながら、神父の手から短剣をこれみよがしに引き抜く。


「本当ですね。抵抗しなければ、生き残れたというのに…」


「そっちの状況は?」


「こちらはほぼ制圧完了しました。大した抵抗もなく順調です。」


「そうか、今日はここまでだな。進軍は明日にしよう。」


「了解しました。」


去っていく部下を見送ることはせずに男はおもむろに地図を取り出す。

ギール王国の地図だ。

現在地を指でなぞり王都へのルートを確認する。


(次は…この村か、やたら小せェな。名前もねェのか?)


村の名前が書かれていない。それほどにちいさな村。

エテジアの村から少し離れた村だ。

次の標的を見つめながら男は笑みを浮かべるのだった。



































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