第三十四話
次回は久々の戦闘パートです
そろそろドラの戦闘も書かないと、まともな描写ない
鉱山の話で一話くらいカイが主役になりそう
誤字ったー
ベイポート近郊
ゆらゆらと揺れる意識の中でカイはまどろんでいた。
夢見心地な頭はイマイチはっきりと意識を覚醒させてはくれない。
夢と現実を行ったり来たりする意識。
その間にもゆらゆらと揺れる身体。
(身体?)
頭の中で疑問符を浮かべる。
意識ではなく、実際に身体が揺れている。
カイは身体を動かしていない。
そう思うと意識が覚醒していく――
「あれ?ここは…。」
目を覚ましたとき見えたのは、黒い布。
わずかに暖かさを感じる。
「起きた?」
「もしかして、俺寝てました?」
「うん、それはもうぐっすりと。」
「も、申し訳ないッス…。」
「まあいいさ。カイは悪くないんだから。ドラが乱暴すぎるんだよ。」
「知らんな、儂に乗るんじゃからあれくらいは当然であろう。」
ドラは不満げに正当性を主張する。
二人の掛け合いを見ていたカイだったが不意に後ろから悪寒を感じる。
「で、カイはいつまでそこに居るつもりなのかな?」
恐る恐る振り向くとそこには、気持ち悪いくらいの笑顔なリルの姿。
顔は笑っているが、眼が笑っていない。
ジトッとした眼でカイを見つめている。
視線に突き刺されたどころの騒ぎではない。
身体をぶっとい刃物で貫いてから、何度も傷口をなぞるように出し入れされているようだ。
(リルの眼が怖いッス……。)
カイは改めて自分の状況を確認し、理解する。
自分の身が危ないことも。
これ以上クロノの背中にいると死ぬ。
主にリルの嫉妬的な意味で。
「あっ、俺はもう起きたんで大丈夫ッスから下ろして欲しいッス。」
「起きたばっかだけど大丈夫?何なら暫くこのままでもいいけど。」
「いや、本当に本当に大丈夫ッスから!」
(早く下りないと視線だけで死ぬぅぅ!!)
(ふむ、理由はどうあれ、リルめなかなかの殺気じゃの。クロノは気づいておるのか?)
「そう?なら、はい。」
(なんかリルが殺気立ってる…。それだけ今日の依頼やる気ってことかな。)
三者三様の心の声。
当のクロノはどこか勘違いをしながらも、ベイポートへの道を進む。
ベイポート
ベイポートはシュガー神聖国の東に位置する貿易の拠点である。
別の大陸からの交易品が流れ込み、人々が賑わう。
近くに鉱山もありそこからは良質の金属が採れる。
物が 人が 行き交う港と市場。
シュガー神聖国の貿易の中心地と呼ぶに相応しい。
それがベイポートという街。
「俺は仕入れがあるので、これで。」
ベイポートの入り口付近でカイはそう告げた。
カイは何やら仕入れがあるらしく、一旦別行動をしてから集まることにしたのだ。
「帰りは夕方に港で。」
「了解ッス。」
「儂もカイについて行こうかの。」
「ええっ!?」
「そうだね、何があるか分からないし、護衛の意味も含めてね。」
「いやいや大丈夫…もがっ。」
言いかけたカイの口をドラが強引に塞ぎ小声で話しかける。
「少しは頭を使え、今のリルといたらいつ背後から刺されるか分かったもんじゃない。只でさえ、さっきのお主の件でストレスが溜まっておるんじゃぞ。」
(まあそんな事はないじゃろうが。儂が依頼に付いていってもやることはないじゃろうし、こいつに付いて行った方が面白いじゃろうて。)
「うう、すまないッス。」
「?」
何を話しているのかさっぱりなクロノは首を傾げている。
「じゃあ、儂らは行くかの。」
「了解ッス…。」
「よくわかんないけどじゃあね。」
ドラに引きずられていくカイをクロノは晴れやかに見送った。
「さて、俺たちも早速行こうか。」
「ええ~、ちょっとここら辺を見て回りたいな。クロノと。」
「先に依頼を終わらせてからね。」
「う~。じゃあ、早く終わらせよう!」
「はいはい。」
クロノは子供らしい駄々をこねるリルを少し微笑ましく思いながら、依頼で指定された場所へと向かった。
ベイポート市場
明るい日差しに照らされた市場。
選り取りみどりといっていいほどに、さまざまな物が並べられている。
客寄せの声が飛び交い、それに耳を傾ける客。
カイとドラはそんな喧騒の中を歩いていた。
ドラは初めて見るものを興味深そうに眺めている。
「これはなんじゃ?」
「ダマスカス鋼ッスね。ここら辺の鉱山で採掘される鉱石を加工したものッス。ポピュラーな刀剣の素材ッスよ。でもちょっと量が少ないッスね。それにめっちゃ高いッス。」
「こっちは?」
「おっ、玉鋼とは珍しいッスね。遥か東の大陸で使われているものッス。兄貴の紅朱音にも使われてるッスよ。おっちゃんこれ全部お願いするッス。」
「全部!?ま、毎度ありー!」
驚いた様子の店主。
無理も無いだろう、店の目玉商品を若い青年が全て買っていったのだから。
「ところで、市場に出回っているものが少ない気がするんスけど何かあったんスか?」
カイは不思議そうに尋ねる。
傍から見れば十分な量が市場には並んでいるのだが、何度も足を運んでいるカイは僅かな違和感を感じ取っていた。
「ああ、最近海に魔物が巣食っちまって船が出せなくてな。何とか在庫を倉庫から引っ張りだしてやってる状態さ。お蔭でストックしてた玉鋼まで出さなきゃいけない始末だ。まったく、早く船が出せるようになってもらわないと、俺みたいな輸入販売の店は商売あがったりだぜ。品物が尽きちまう。」
両手を上げやれやれと困り顔の店主。
しかし、カイはその話を聞いて心配はないと言わんばかりの顔ではっきりと告げる。
「ああ、それならもう大丈夫ッスよ。今日中には船が出せるようになっているはずッスから。それじゃあ。」
「おっ、おいそれはどういう…。」
店主がカイを呼び止めようとするが、その声は賑わう人の波にかき消された。
「あっちはもう終わってるかも知れないッスね。」
ベイポート港
商船の乗組員カルロスは苛立っていた。
そもそもの原因は海に巣食う魔物。
突如として現れたそれは、通る船を一隻ずつ着実に沈めていった。
そのせいで、今は船を出すこともままならない。
だが、彼の苛立ちの原因は他にもあった。
それは今、目の前にいる二人の冒険者の存在。
片方は黒いフードに身を包み怪しい事この上ない。
もう片方に至っては年端もいかない少女だ。
これまで何人もの屈強な冒険者が挑戦していったが、誰もが死に、或いは逃げていった。
その度に船は沈み、何人もの同業者が死んだ。
魔物がいる地点までは遠く、船で行くしかない。
今度冒険者が来たら連れて行くのはカルロスと決まっていた。
覚悟は決めていた。しょうがないと自分に言い聞かせていた。
しかし、今回来たのは屈強な男などではなく怪しげな男と幼い少女。
はっきり言って見込みがあるようには思えない。
ふざけるな、と叫びたくなった。
これでは確実に死にに行くようなものじゃないかと。
1%の確立すらないように思えた。
苛立ちを隠せずに足を何度も地面に向けて踏み鳴らす。
「で、問題の場所はどこだ?」
黒いフードの男はカルロスの苛立ちを無視して尋ねる。
声からして、まだ若いことが容易に想像出来た。
その事実がカルロスを更に苛立たせる。
「こっから沖に結構行ったあたりだよ!」
声を荒げながら、沖を指さして告げた。
はっきり言ってやつあたりだ。
しかし、カルロスはそれを隠そうともしない。
「相手はどんなやつだ?」
「馬鹿デッケェな、そこらへんの船よりも一回りも二回りもデカイ。普段は海の中にいて船が上を通ると姿を現しやがる。」
「そうか、それだけ分かれば十分だ。」
短くそう告げると男は港の端、沖の方へと歩き出した。
「おっ、おい逃げんのかよ!」
「何を言ってるんだ?これから退治しに行く。行くぞリル。」
「はーい。」
男と少女は港の端へと歩み続ける。
訳が分からないまま、カルロスはその姿を見つめる。
そして、二人が港の端へとたどり着いた。
「じゃあね、おじさん。大船に乗った気でいてもだいじょーぶだよ。」
少女が振り向きカルロスに手を振る。
そして、二人は、港の端から足を一歩踏み出した。
その先は海。
二人の姿がカルロスの視界から消える。
海へ転落した、そう思った。
その時、一陣の風がカルロスを襲う。
咄嗟に眼をつぶった。
波風とも違う不思議な風。
吹き荒れる風の中で眼を開けるとそこには――――
「は?」
宙に浮く二人の姿があった。
二人は進む、沖の方へ風に乗って。
カルロスはその姿を呆然と見ることしか出来なかった。
海上
青い海に快晴の空、海鳥たちが飛び交う。
そんな中、鳥ではなく飛ぶ影が二つ。
「リル風の操作上手くなったね。前だったら、もうちょっと揺れてたのに。」
「えへへ~、かなり練習したもん。」
そんなやり取りをしながら二人は進む。
二人が飛んでいるとき、クロノは何もしていない。
リルが自らの魔力で風を操っているのだ。
リルの属性は風。
昔クロノと出会った頃は、力を扱いきれずに何度も暴走したものだ。
クロノはリルの成長に感心しながらも、魔物への対処方を考える。
(船が上を通ったら顔を出すって事は、普段は海の中なんだよなぁ…。このまま飛んでいても顔出してはくれないだろうし…。)
策が無いことはないが、あまりやりたい事ではない。
悩みながらも二人は飛び続ける。
更に少し飛んだ所で海を見るといくつもの木片がぷかぷかと浮かんでいる。
既に港が米粒ほどの大きさに見える地点まで達していた。
「リル一旦止めて。多分ここらへんかな。」
上空で停止し、ジッと海を見つめる。
深い深い青をたたえた海。
水面に揺れる木片。
恐ろしいほどに静かで、時が止まったかのような錯覚を覚える。
「いるねこれ。」
意外にも声を上げたのはリルだった。
海の奥になにかを感じ取っていた。
それは得体の知れないなにか。
クロノは少し思案した後、溜息を吐いた。
「俺が行くしかないか。リル、俺の風を解除して。それと悪いけど、これ持っててくれる?」
クロノは二振りの剣をリルに差し出す。
「良いけど、クロノは?」
「ちょっと、引きずり出してくる。」
リルは少し不安になったが、言われたとおり風を解除する。
纏っていた風が解除されると、クロノの身体は落下を始める。
ちかづく海。落下途中に見えたのはわずかに光る黄色い眼。
獰猛な獲物を見つけた眼。クロノは臆さない、受け慣れた視線だ。
ドボンと音を立て身体が海へと着水する。
暗い暗い海へのダイブ。
無属性を予めレベル3に設定しておいたので、痛みは気にならない。
海の中を見たクロノは思わず苦笑いを浮かべる。
そこにいたのは、巨大な触手を何本も生やした赤黒い魔物―――
(ある程度は予想してたけど、まったく、熱烈な歓迎だな。)
が、10体以上の群れとなって獲物を待ち構えていた。




