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追放された少年  作者: 誰か
戦争編
40/150

~プロローグ~消えた囚人

投稿間違えたーー


少年には怨みだとか憎しみだとかそんなものはなかった。ゲームと現実の区別はつくし、死んだら人が生き返らないことも知っている。ただ、やってみたかっただけ。

少年の家庭は恵まれたと十二分に言える家庭だった。優しい両親は言えば何でも買ってくれた。しっかりといけない事をしたら叱りもした。

全く問題無く彼は成長していた――端からみれば。

はじまりは好奇心からだった。見かけたのは道路を這う蟻。親に踏まれ、潰れた蟻を見て少年は何となく真似をした。

少年は次に蜘蛛を見つけた。家に入ってきた蜘蛛は母が大騒ぎし、父が潰してからティッシュにくるんでゴミ箱にすてた。少年も同じように真似をした。

 そんな事を繰り返してるうちにいつしか少年は虫を殺すのが趣味になっていた。

 初めは蟻、蜘蛛、トンボ、蝶、バッタ。

 次第に虫では飽き足らず動物を殺すようになった。ねずみ、鳥、犬、猫。

 近所では野良犬や野良猫が減ったと少し問題になったが、少年の名があがることは無かった。

 少年はそれがいけない事だと気づいていたし、見つかれば問題になることも分かっていた。その為ばれないように入念に処理をしていた。

 悪いことをやっているという背徳感と、わずかに芽生える罪悪感が癖になりやめられなくなっていた。

 少年が小学校六年生の夏休み、たまたま歩いていた交差点になぜか人が突然現れた。その人間は現実を無視するかのように、瞬く間に朽ちていき、最後には骨だけと成り果てた。

 それを見てふと思った。

――人を殺したらどんな感覚を味わえるのだろう。

 この頃の少年は動物にも飽きてきており、何か別の事はないかと考えていた。

 少年はある意味で好奇心旺盛だった。早速やるために計画を立てた。

 選んだのは隣の家。両親と、同じクラスの男の子が一人に妹が一人の4人家族だ。

 確実に殺したかった。狙うのは相手の親がいなくなった日。少年はわくわくしながら機を待った。


 その日は夏休みの中でも特に暑く、気温は35度を越え猛暑と呼ぶにふさわしかった。

 少年が部屋から確認した限りだと、親だけ昼ごろに出かけたようにみえた。少年は親に遊びに行ってくると告げ家を出た。ポケットに出刃包丁を差し込んで。

 隣の家のインターホンを鳴らすと少女の声が聞こえた。兄の友達であると告げると少女は簡単に信じてくれた。

 ドアが開くまでの間は興奮しすぎてポケットに隠していた筈の包丁を出し、知らず知らずの内に握り締めていた。これから平和な家は戦場へと変わる。

 やがてドアが開く。茶色い靴棚。その上には赤い花が活けられた花瓶。

 姿を現したのは幼い少女。少女の眼は陽に照らされたまばゆく光る包丁に向く。

 悲鳴を上げようとする少女の口を少年はすばやく押さえる。

 そしてそのまま、無我夢中で腹に刃を突き立てた。

 肉をえぐる感触。泣きながら玄関に倒れる少女。深く赤い血溜まりが広がる。

 少年は左手で家の鍵を閉め、逃げ場を消した。

 少女は呼吸することすらも困難だがまだ息があった。止めを刺そうと包丁を振り上げた。

 そのとき部屋の奥から少女の兄でもあるクラスメイトが、不審に思ったのか部屋の奥から顔を出した。

 兄は見つけるなり怒声を上げながら突撃してくる。見事に少年は飛ばされ包丁は靴棚の下へと消えた。

 妹へと駆け寄る兄。

 彼は気がつかなかった。倒れた少年に背を向けた。いや向けてしまった。

 駆け寄った瞬間に一瞬だけ向けたその後姿を少年は見逃さない。

 ゴンと鈍い音が響く。その音は少女の耳にもはっきりと聞こえた。

 兄を襲ったのは花瓶だった。中の水が玄関に飛び散りポツポツと玄関に水玉模様を作りだす。

 少年は倒れこむ兄にもう一度花瓶で追撃を加える。完全に玄関に倒れる兄。それでも息はあるようで、必死にもがき少女に逃げるようにと叫ぶ。

 兄に少年は最後の一撃を加える。そのときの少年の顔はこれ以上無いくらいの笑顔で、少女の眼には悪魔にすら見えた。

 少女はピクリとも動かなくなった兄を見て悲鳴を上げた。家の中に甲高い悲鳴が響き渡るがその声は誰にも届かない。必死に少女は逃げようとするが身体が動かなかった。

 やがて少女にも終わりのときが訪れる。

 下に潜り込んだ包丁を取り出した少年は動けない少女の上に馬乗りになる。

 少年は恍惚とした表情で、少女は憎しみと恐怖の眼でお互いを見つめた。

 少年はついに凶器を振りかざす。

 一撃で心臓を貫いた刃は黒と赤が混ざり合い別種の美しい色合いをかもし出した。

 血が滴る刃。

 やり終えた少年は笑っていた。知らず知らずの内に。それは歪んだ笑み。

――ああ、最高に嬉しくて楽しい。

 湧き上がる達成感と微かな罪悪感が心地よい。

――最高だよ最高。もっと俺にこの感覚を味あわせてくれ!!

 少年は既に息の無い少女に何度も刃を突き立てる。フォークでケーキを崩していくように。グチャリグチャリと歪な音を立て原型が消えていく。

 もうなんだったか分からないほどに崩れたところで、少年はその家を出た。

 興奮が収まらない。頭の中では整理がつかず、ここが現実ではないかのようだ。

 家に帰ると母が包丁を探していたので刺した。書斎に篭っていた父がこちらに背を向けていたので刺した。殺しという快楽を覚えた少年はたがが外れたかのように刺した。

 刺した 刺した 刺した 刺した 刺した

 殺すのに大した理由などいらなかった。殺したかったから殺した。ただそれだけ。

 彼らがどんな顔をしていたのか少年は覚えていない。覚えているのは圧倒的快感。

 少年は金品を持って家を出た。少年は逃げ続けた。捕まりたくはなかった。捕まったらあの感覚を二度と味わえない。

 逃げながらも少年は殺し続けた。射殺、刺殺、絞殺、毒殺、斬殺、撲殺、焼殺、扼殺、圧殺、轢殺、爆殺、色んな方法を試した。

 罪悪感は完全に消え、呼吸をするようにごく自然に殺し続けた。

 やがて少年は青年に青年から大人になった。

 彼はついに警察に捕まった。自分から。何かが満たされない。普通に殺すのでは彼の心は満たされなくなっていた。

 何をしても、どうやっても、昔のような快楽は得られなかった。

 彼に下された判決は死刑。囚人となった彼は無気力に日々を過ごした。最期のときになど興味は無かった。

 そして死刑執行一週間前、彼は突如として姿を消した。その後の彼の行方は誰も知らない。


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