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追放された少年  作者: 誰か
青年期
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第三十二話

ミスったーーー

王都


ソフィアが王都へと戻る頃には、空は暗く王都の光が際立って見えた。

賑わう通りを抜け宿屋へと戻る。

宿屋の食堂では先に戻っていたザイウスとメギドが食事をとっている。


「ごめん遅くなった。」


「いや俺たちも、今来たところだ。」


手を休めそう答えるメギド。

対するザイウスは手を止めることなく、ばくばくと食事を飲み込んでいく。


「そっちはどうだった?」


「そうだな、あまり収穫は得られなかった。ソフィアの方は?」


「そこそこ収穫はあったけど、なーんか最後のが引っかかるのよ。」


ソフィアが思い出すのは孤児院の去り際に見た二人組みの男。

不思議と危険な気はしなかったが明らかに堅気ではなかった。

そして見覚えがある。どこだかは思い出せないが確実に知っているはずなのだ。


「あの二人どっかで…。」


「あの二人?」


ソフィアの疑問にメギドが反応するがソフィアは気づかない。


(思い出せない…。)


「おいソフィア。」


(誰だっけ?繋がりはないけど、どこかで見た気がする…。)


「ソフィア!!」


「へぇっ!?な…なに?」


一人物思いにふけっていたソフィアをメギドが現実へと引き戻す。


「大丈夫か?何か考えごとをしていたみたいだが。」


「ちょっとね…。」


「疲れてるのなら休んだほうがいいぞ。」


「そういうわけじゃないけど。」


そこまで言ってからソフィアは思いつく。


(私が見覚えあるって事は、もしかしたらメギドも知ってるかも。)


「ねぇ、褐色の肌にスキンヘッドの男って見たことない?」


「褐色の肌にスキンヘッド?どこかで見たような…。」


「どこで見たか思い出して。」


「うーん……。」


首を傾げ思考をめぐらせるメギド。


「悪いが思い出せないな。見たことはあるはずなんだが。」


「やっぱりか、私も思い出せないのよ。」


「で、そいつがどうかしたのか?」


「いや、ちょっと見かけたから気になっただけ。気にしないで。」


ザイウスの方を見るが、相変わらず食べることに夢中で答えてくれそうにもない。


(明日もう一回孤児院に行けばいいか。)


あの二人組みの正体は気になるが、大した問題はないかなと思い疑問を頭から消し去りその日は床についた。



翌日 王都北西


ソフィアたち三人は王都北西の孤児院に向かっていた。

パーティーの実質的なリーダーはソフィアだが、子供たちを預けることに関しては他のメンバーの意見も聞いておきたかったからだ。どうにも預けるかどうかの決心がソフィア一人ではつかない。

主に意見を聞きたいのはメギドからでザイウスには微塵も期待していないが。

整備された道を抜けると、見事に手入れされた庭が3人を出迎える。


「……、どうなってるんだこれは。」


思わずメギドが驚愕の声を漏らす。

一方のザイウスはというと、眠たそうな眼をこすりながら何とか意識を保っている状態だ。

美しい庭の先には大層立派な屋敷という言葉がふさわしい建物。

一度見たソフィアからしてみればそこまで驚く光景では無いが、はじめて見る人にとっては驚きだろう。


「なあ、これは地図の場所を間違えてるんじゃないのか?」


「私も最初そう思ったけど、ここであってるのよ。さあ、行きましょう。」


孤児院の中に躊躇いなく入るソフィア、そしてザイウスを引き連れメギドは中へ。

中へと入った三人の眼に飛び込んできたのは、元気に遊ぶ子供たち

―――と人相の悪い褐色の肌をした男。


「あん?ここに何か用か?」


そこらへんのチンピラなんじゃないかと思うほどぶっきらぼうな男の言葉。

信じられない事だが、この男は今現在子供たちと楽しそうに遊んでいた。

こんなに悪い顔をしているのに不思議と子供から嫌われていない。


「あっ、ソフィアさんじゃないですか。」


奥の部屋からメリーの声が聞こえ、ピンク髪の少女が顔を出す。


「知り合いか?」


「昨日見学しにいらっしゃったんですよ。」


男と普通に話すメリー。


「今日はどういったご用件ですか?」


「えっ、ええ、他のパーティーメンバーにも見学してもらいたくて。」


「そうでしたか、どうもはじめましてメリーです。」


ザイウスとメギドに自己紹介をするメリー。


「俺はメギドです。で、こっちがザイウス。」


「ってぇな!!引っ張んじゃねぇよ!」


耳を引っ張ってメギドがザイウスを起こす。


「そちらの方は?」


自己紹介を終えたところでソフィアが人相の悪い男について尋ねる。


「こちらは当院の院長であります、ユリウスさんです。」


「ま、大体はメリーとヘンリーに任せてるけどな。」


ソフィアの第一印象は信じられないだった。

失礼な話だがこの男が孤児院など似合わないにもほどがある。

メギドも驚いているようで言葉が出ない。


「ユリウスさんは冒険者もやられているんですよ?」


「冒険者?」


ソフィアの頭の中で、記憶が再生される。


冒険者 ギルド スキンヘッド―――


頭の中でキーワードを並べ一つずつ当てはめていく。

そして、ついに記憶が完全に合致した。


「…Aランク冒険者のユリウスさん?」


「おう、よく分かったな。」


肯定するユリウス。


「そうだ、そうだ、何度か王都のギルドで見たことある。」


「最近はそこまで活動してないけどな。」


メギドも思い出したようだ。

世界でも一握りしかいないAランク冒険者の一人。

一時期王都でも噂になったことはあった。

二人組みのAランク冒険者。

AランクからBランクの壁はとても厚いとされてる。

現在BランクのソフィアたちでもAランク到達には遥か及ばない。

こんなところで孤児院を経営しているとは、ソフィアは思いもしなかった。


「ではご案内しますね。私についてきてください。」


メリーがソフィアたち三人を奥へと案内する。

左右に螺旋状についた階段。敷かれたカーペット。昨日とまるで変わらない室内。

子供たちがはしゃぐ空間。


「質問があれば何なりと言って下さい。」


「ここの経営はどうなっているんですか?」


ソフィアが疑問に思っていたことを投げかける。


「今はユリウスさんとマルスさんからの援助、それとそれ以前にここにいた子供からの寄付金で成り立っています。」


マルスというのは二人組みの内のもう一人だろう。

彼もAランク冒険者だった覚えがある。


「それ以前?」


「ユリウスさんとマルスさんがここを買い取る前ですね。買い取ったのが丁度2年ほど前になります。それ以前のここは経営が厳しく、ここを出て行く人が後をたたなかったそうです。その内の一人が今でも寄付をしてくれてるんです。彼女も冒険者ですので、お会いしたことがあるかもしれませんね。」


彼女ということは女性なのだろうか?頭の中で検索するが思い当たる節はない。

メリーは広い廊下を進みながら一部屋ずつ丁寧に案内していく。

食堂、寝室、学習部屋、ソフィアには昨日も見た場所ばかりだったが初めてみるメギドにはどれも驚きのようで、事あるごとに感嘆の声を漏らしていた。

とある馬鹿はどうも無関心だったが。

一通り施設の紹介を終え、通されたのは昨日と同じ質素な造りの部屋。

どうみてもここだけ手を抜いているというか、他の部屋とは雰囲気が違うように感じる。

メリー曰く


「この部屋は客室専用なんですよ、ユリウスさんが「客室豪華にするくらいならその分子供の方に金使えよ。」っておっしゃったので、他の部屋に比べて質素なんです。」


との事だ。確かにその分子供たちの為の設備を整えた方が遥かにいいだろう。

どうやらここは子供のことを第一に考えているらしい。

しかし、ソフィアはいまいち決めきれない。


「メギドはどうだった?」


「そうだな、確かにここなら安心といえば安心だな。」


「私もそう思う。」


「ただここに丸投げするというのも無責任な気がする。」


「……そうね。」


ソフィアが迷っていたのはそこだった。

自分たちが引き取った子供たちをここに丸投げするというのは、無責任な気がしてならなかった。

確かにここなら安心して預けられるだろう。

しかし気持ち的な問題として、どうも納得出来なかった。

もやもやとした感情を抱えながらソフィアは悩む。


「悩んでおられるようですが、どうかしたんですか?」


メリーから心配そうな声をかけられる。

どうやら顔に出ていたらしい。


「少しだけ…ですね。」


「じっくり考えて結論を出して下さい。子供の事を第一に考えて。」


「子供の事を第一に考えて……。」


その言葉がソフィアの頭の中で何度も再生される。

自分は彼らの事を第一に考えているのだろうか?

何があの子たちにとって一番良いのか?

考えたときに出てきたのは、何を迷っていたのかというほど単純な解答だった。

どうみてもここに預けた方がいいのは明白。

(結局私が迷ってたのは、無責任だとか自分の事ばかりじゃない。)

責任だなんだと自分に言い聞かせて、彼らのことを考えていなかった。

そう思うと心のもやが晴れたような気になった。


宿屋内


数時間後


「分かりました。俺たちはそこに行きましょう。」


ソフィアたちは王都の宿屋内にいた。

孤児院を見た後でも、その場で決めることはできない。

彼らの意見を聞かないと、本人たちが嫌がるのであれば預けはしない。

その為に一度孤児院を見てもらう必要があった。

しかしレイリーは見る迄もないと言わんばかりにあっさりと快諾した。

慌ててそれでいいのかと確認するが、気持ちは変わらないようだ。


「ただ、少しお願いがあるのですが…。」


「なに?」


「これをとある人に渡してきてほしいんです。」


そう言って差し出したのは格式ばった封筒。


「とある人?」


「シュガー神聖国の領主メイ・シュガーさんです―――」






レオンハルト王国内


王のいない会議場はにわかに賑わっていた。

それは先日の大勝の影響もあるが、別の理由もあった。

この日集められたのは国の重鎮ばかり。

会議場は待っていた、主役の登場を今か今かと。

バンッと乱雑に扉は開けられた。

それを合図に会議場の空気が一転して重苦しいものに変わる。

入ってきた男は周囲を見渡す。


「今日皆様に集まってもらったのは他でもない。王から新たな勅命が下った。」


男は高らかに告げる。


「王は言った。我らこそがこの大陸を支配するにふさわしいと!!」


会議場の中では驚きの声が漏れる。


「しかし王は今病床に臥せっておられる。そこで、私が代理として選ばれた。これがその署名だ。」


手に持った書類を掲げる男。


「異論があるものはいるか?」


誰も声を上げようとはしない。

男が完全に空気を支配していた。


「これよりわが国はフィファル大陸を制覇する!!」


喝采が沸く。誰も何も疑問に思うことすらも無かった。

(ちょろいな。ちょろすぎる。)

勇者である男に羨望の眼が向けられる。

羨望だけではなく嫉妬の眼も見て取れた。

そんな中、男は気づく、自分を射抜く鋭い視線に。

(あいつは…。気づいてるな…。だが、それだけじゃない。)

その眼には見覚えがあった。

記憶を探るが思い当たる節はない。

(あの眼は…憎悪…か?まだ、恨まれるようなことはした覚えねェんだがな。)

それは何度も見た感情の篭った眼。殺される直前の眼。

(一応注意しておくに越したことはないか。今から信用を失ったら計画がパーだからな。)

男は自分の快楽の為に動く。

気の向くままに。



ようやくアイツが本性を表した。

私はアイツを絶対に許さない。

今回のことも絶対にアイツが仕組んだに違いないのだ。

ああ、どうして私にはこんなにも力が足りないのだろう。

だが、チャンスはあるはずなんだ。

絶対に私がアイツを殺す。



それぞれの思いを渦巻いてこれより時代は戦乱へと傾く。

始まるのは歴史に名を残す最悪の戦乱。

その行方はまだ誰も知らない。

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