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追放された少年  作者: 誰か
青年期
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第二十九話

2年前付近の回想は後で纏めてやらないとなー

すっかり夜の帳が下りた空。

地面にはうっすらと草が生えているが微々たるものだ。

エテジアの村を旅立って以降私たちの旅は順調とは言い難い。

メギドは二日で着くと言ったが、子供二人の体力を考えれば一日プラスしなければならないだろう。

今日も予定であればもうとっくに中継地の街に着いていた筈なのだが、所々休憩を入れているので当初の予定の3分の2程度しか進んでいない。

こういう時馬車を買っておけばよかったと内心歯噛みする。

(今度まとまった金が手に入ったら馬車買おう…。)

今までは値段の高さに足踏みしていたが、心に強くそう決めた。

「すぅすぅ…。」

ザイウスの背中で寝ているスーラーから穏やかな寝息が聞こえてくる。

ザイウスの歩き方を見るにあまり揺らさないように気を遣って歩いているのがありありと見てとれた。

何だかんだ言ってちゃんと気遣いは出来る男だ。

兄のレイリーは黙々と歩き続けているが、顔には疲労の色が見える。

(早めに休憩を取ったほうがいいわね。)

ここで休憩を取ると今日は時間的にもう動けないだろう。

こんな所で子供たちを野宿させるわけにはいかない。

今日中に中継地の街に行くのは諦め、歩きながら地図を広げる。

(えーっと、今ここら辺だから…。)

指で地図をなぞり泊まれそうな場所を探す。

(お、あったー。ちょっと右にずれるけどここなら近いわね。)

本来の進行とは少しずれるが仕方ない。

「みんな、右に曲がって。もう少しで村があるから。今日はそこで泊まるわ。」

後ろを歩くパーティーメンバーに告げる。

疲れが溜まっているのか返事は返ってこなかったが、皆無言で右に進路変更をした。

少し歩くと灯りがほんの少し見えてくる。

あまり大きな村ではないようで、門を潜り村の中に入っても人の姿は見受けられない。

時間帯も普通の農村であれば家に帰っている時間なのでしょうがないことか。

人の気配を感じられない村の中で宿屋を探していると、ようやくそれらしき家を見つける事できた。

普通の民家のようだったが、確かに宿屋の看板がかかっている。

民家にしか見えない木製の扉を開け中に入る。

扉を開けると鈴の音がチリンチリンと鳴った。

「んん?お客さんかい?珍しいねぇ。」

受付で大きな欠伸をしながら退屈そうに喋る中年女性。

「今日ここに泊まりたいんですけど大丈夫ですか?」

「数は?」

「5人です。」

「全員同じ部屋で良いならあるよ。」

「大丈夫です。」

「そこの部屋自由に使っておくれ。朝はこっちで用意するから。」

指さした先にはドアが開けっぱなしにされた大部屋があった。

というか客室らしきものがそこしかなかった。

普通宿屋での客室といえば2階が主となるのだが、2階自体存在していないようだ。

「こんな時間に来るなんてアンタ達冒険者かい?」

金を払い部屋へと向かおうとすると女性に呼び止められた。

宿屋で素性の詮索とは珍しい。

「はい。そうですよ。」

「そうかい。あの人が来て以来だから2年ぶりだね、冒険者が来るのは。そういえばあの人も幼い子供を連れていたねぇ…。」

どこかなつかしむように女性は呟く。その眼には色々な感情がこもっているように思えた。

それはお母さんのように優しい眼でもあり、同時に悲しそうな眼。

「おっと、すまないねぇ呼びとめてしまって。疲れているんだろう?早く休みな。」

ハッとした表情で女性は顔を上げる。

せかされるまま私たちは、部屋へと入って行った――


決して綺麗とは言えずベッドが4つあるだけの殺風景な室内。

「よっと。」

ザイウスが起こさないよう慎重にスーラーをベッドに寝かせる。

寝息をたてスヤスヤと眠っている彼に毛布を掛け、ザイウスは部屋の隅へと座り込んだ。

「じゃあ俺はもう寝るからな。」

そう言って眼を閉じ寝に入る。

ベッドは4つしかないので誰かが必ず外れてしまう。

これはアイツなりの優しさなのだろう。

「俺がそこで…。」

レイリーが口に出そうとした言葉をメギドが手で制す。

「アイツがそこでいいといってるんだからいいんだよあれで。筋肉馬鹿にベッドはもったいない。」

「そうね。あの馬鹿にベッドはもったいないわ。」

メギドに続き私も援護する。本心では無く、こうでもしないとレイリーはベッドで寝てくれないだろう。

こんな子供を床で寝かせて自分たちはベッドで寝るなんて事は許されない。

ザイウスは寝たフリを決め込む。少しこめかみの当たりに血管が浮いている気がするが。

未だ納得していないようだったが、俯きながらも無言でレイリーはベッドへと入ってくれた。

ホッとしながら、メギドの方を向くと視線が合う。彼も同じ気持ちのようだ。

ザイウスからは怨嗟の念のような視線が飛んできたが気にしない。

安堵した私たちはそれから言葉を交わす事無く、それぞれ眠りへと落ちていった――


カーテンの隙間から零れる朝陽によって目を覚ました。

ベッドから足を出し立ち上がる。

少し肌寒い。室内を見渡すとまだ誰も起きていない。

(起きるの早すぎたかな?)

馬鹿のいびきが気になったが、子供たちが目を覚ます気配はなかった。

「んーー」

背伸びをしながら身体を左右に回す。準備運動のようなものだ。

手を何度か握り完全に身体が起きたのを確認する。

(しばらく誰も起きそうにないし、散歩でもしてこようかな。昨日は暗くて村の様子見れなかったし。)

肌寒い室内を抜け受付へと向かう。受付に女性の姿は無い。

朝食でも作っているのだろう。

宿屋を出て外に出ると、室内よりも圧倒的な寒さを感じられた。

(もっと暖かい服着てくればよかった…。)

機能性重視で薄い服しか持ってこなかった自分の失態を恥じる。

寒さに身を震わせながら、歩きだす。

村の中は昨日と同様に人の気配を感じられない。

(朝早いから…?)

頭の中で疑問符を並べながら村を探索する。

昨日は暗くてよく見えなかったが広さはエテジアの村と同程度か。

どこをどう歩いても人の気配は無い。

はっきり言ってここまで人の気配が無いのは異常だ。

民家はあるのだが明らかに人が住んでいない家がいくつもあった。

村の奥の方に進むとようやく人影が見える。どうやら一か所に三十人程が集まっているようだ。

ソフィアは早足で人影へと近づく。

ソフィアがたどり着いたそこは―――墓地だった。

無数の墓標が建てられた墓地。明らかに集まった人よりも多い。

手を合わせ祈りをささげる村人らしき人たち。その中には宿屋の女性もいた。

目を閉じ無心で祈っている。ソフィアは声をかけられずただ呆然と目の前の光景を眺める事しか出来なかった。

やがて村人らしき人たちは祈りを止め、各々別の方向へと去っていく。

「こんな所で突っ立って何やってるんだい?」

呆然と眺めていたソフィアだったがこの言葉で現実に引き戻される。

それは宿屋の女性の声だった。

意識がまだ半分上の空で言葉が出ない。

「大丈夫かいアンタ?」

心配するような女性の声。

「だ、大丈夫です…。」

ようやく落ち着いてきたソフィアは何とか言葉を口に出す。

「そうかい?ならいいけど…。」

「皆さんはここで何をされてたんですか?」

疑問に思った事をぶつけてみた。朝からあんなに多くの人が集まって墓に祈るなど明らかにおかしい。

「毎朝村人全員で死者を弔う為にお祈りしてるのさ。」

(村人全員?あれで?)

先ほどの光景を思い返すが、多く見積もってもせいぜい二、三十人程度。

村の規模からいってそれの倍以上は居てもいいはずだ。

毎朝のお祈りというのも気になる、普通の村であればそんな事はしない。

「どうしてそんな事をしてるんですか?。」

「そうさねぇ…、どこから話せばいいのやら…。」

一呼吸置き女性は喋り始める。

「元々この村には今の倍近い村人が居たんだよ。私も娘と平和に暮らしてた。それが2年半くらい前になるかねぇ、この近辺に盗賊が棲みつくようになったんだ。」

「盗賊…。」

「最初は何とか村人が頑張って、追い返したりしてたんだ。しかしある時、耐えかねた村の若い衆が意気込んで盗賊を追い払いに行った。誰一人として帰っては来なかったがね。」

「……。」

「そっからは酷い有様だよ。村の防衛を担ってた若者がみーんな、いなくなったんだから。防衛を失った村は盗賊にやりたい放題。何人もが殺されたり、捕まって売られたりで村の人口は激減さね。」

「ギルドに依頼とかはしなかったんですか?」

「したさ、最初の内は何組か来てくれた。でも相手にかなりの手練れが居たらしくてね、帰ってこない奴もいたし帰ってきて逃げていった奴もいた。何組か失敗した後は評判が広まったのか、誰も来なくなったよ。」

「……。」

言葉が出せない。もし冒険者が自分だったら?と考えると同じ行動を取っていたに違いないからだ。

故に逃げていった彼らを責める事は出来ない。敵わない敵と遭遇したら逃げる、というのは冒険者の間では常識だ。自ら命を捨てる事程愚かな事はない。しかし同時に村人の気持ちを考えると胸が痛くなった。

「そして盗賊が来て半年くらい経ったある日一人の冒険者がやってきた。小さな子供を連れ、黒いフードを身に纏った怪しげな男だったよ。村人はもう期待していなかったがね。私もまた失敗だろうと諦めてたさ。また同じだろうと。」

女性は言葉を続ける。

「でも、あの人は違った。瞬く間に盗賊団を制圧して、全員を縛り上げ村に連れてきた。村人はそりゃあ湧いたね。私も娘も浮かれたさ。そして……」

そこまで言葉を続けてから女性の顔が一瞬曇る。昨日見た時と同じ眼。

「と、まあこんな事があって毎朝村人全員であの半年で亡くなった人を弔おうってやってるわけ。」

最後は明るい笑顔で言葉を締めくくった女性。その顔は無理をしているように見えた。

「さてさて辛気臭い話はもう終わりだよ。今日は久々に腕によりをかけて作るからね。」

パンッと手を叩き宿屋へと戻って行く女性。

女性の後ろ姿を追いかけ、ソフィアも宿屋へと向かった。

戻ってから出来上がった朝食は女性の言う通り豪華で珍しい郷土料理等が並べられていた。

どれも芋中心の料理で、量も相当なものだ。

目を覚ましたザイウスの前には跡形も残らなかったが。

女性に手を振り私たちは王都へと旅立った――


「久々だったねぇ、お客さんなんて。」

冒険者を見送り、しんみりと呟いた。家から花瓶を取り出し、足を墓地へと向け歩きだす。

やがて着いたのは一つの名前が刻まれた墓の前。

刻まれているのは娘の名前だ。

「何の因果かねぇ、アンタが死んでから初めての客は冒険者だったよ。」

物言わぬ墓に喋りかける。

墓の前には自らが置いた花とこの近辺では見られない赤い花が供えられている。

手を伸ばし赤い花を手に取る。

赤い花は少ししおれ、元気が無いように見えた。

「アンタは恨んでるかい?あの人を。」

2年前を思い出す。突如現れこの村を救ってくれたあの人。

そして娘を殺したあの人。

「元から恨んでないって?ははは、アンタはあの人好きだったからね。」

娘に喋り続ける。

「私はまだ恨んでる。あの人の事を。でも…」

娘が死んだと聞いた時は、何も言えなかったあの時。

短い声で謝り続けるあの人の声も響いては来なかった。

村についてお礼すらも言わなかった、言う気にもなれなかった。

本当は知っている。あの人が殺したんじゃない。

それでもあの頃の私は現実を理解出来なくて、つい彼にあたってしまった。

「今度あったらお礼を言わないといけないねぇ…。」

しおれた花を見て、そう呟いた。随分前から水を吸っていないのでしおれてしまった花。

この近辺では見られない花。去年今年と娘の命日に置かれていた。

誰が置いたのかは定かではないが、その日は何故か村で黒いフードの男が一瞬だけ見られるらしい。

しおれた花を持ってきた花瓶に入れ墓の前に置く。

「じゃあね。また明日会いに来るからね。」

宿屋の女性は娘に別れを告げ墓の前を立ち去る。

後に残されたのは赤い花と花瓶。

その花は美しく、久しぶりの水を吸って元気になったように見えた。



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