第二十八話
ここからソフィア視点でちょっと進みます。
治癒から物質化までとか光チートすぎ。
メギドさんはいつになったら魔法使うんですかね?
茶色い焦げたような色の大地に剣戟の音が木霊する。
「今日は思う存分やれるなぁ、蠍共!!」
ザイウスが吠える。
「近くで騒がないでもらえるかな。」
「うっさいわよ馬鹿。」
仲間からの容赦ないツッコミ。
彼らは前日と同じくキラースコーピオンの討伐に来ていた。
四方を10数匹に囲まれているが焦った素振りは無い。
「それにしてもめんどくさいわね、これ一体ずつ狩らないと駄目なんて。」
空中に無数の光の剣を発生させながら、ソフィアは溜息をつく。
「そういうな、これも依頼だ。」
それに答えるメギドは剣を振るいながら、次々と蠍たちを倒していく。
倒した蠍には漏れなく光の剣が刺さっている。
「アイツが使えればいいんだけど…。」
「無理な期待をしてもしょうがないだろう。」
二人の視線の先には大剣を軽々と振り回すザイウスの姿。
「あん?魔法ならいつでもぶっ放せんぞ?」
「アンタのは私たちも巻き込む上に、討伐証明の部位すら灰にするでしょうが!!」
ソフィアは少しイラつきながらも、次々と蠍に剣を突き刺していく。
「加減は苦手なんだよ。」
ザイウスの属性は火。
普通の術者であれば火の加減くらいは当然のようにできるのだが、ザイウスはそれが出来なかった。
発動に時間がかかる上に魔力の消費が荒い。
代わりに威力はなかなかのものだが、討伐証明のためには適さないのだ。
「その加減を覚えてもらいたいね…っと。」
迫りくるハサミと毒針の二重攻撃を軽やかに避けながら、メギドは蠍へと斬りかかる。
光の剣で蠍を足止めするソフィアに、ひたすら大剣を振るうザイウス。
軽口を叩きながらもそのペースは衰えない。
いつしか四方を囲んでいた群れは跡形も無くなり、死骸だけが無造作に転がっていた。
「終わったわね…。早速毒針の回収始めるわよ。」
「やれやれ、休む暇もないね。」
「めんどくせぇなぁ…。」
文句を言いながらも、討伐証明の為に手早く毒針を切り取っていく三人。
集めた毒針は慎重に扱い袋へと詰める。
「ふう、さてと村に戻りましょうか。あの子たちを待たせるのも悪いしね。」
一息ついてから、村に置いてきた子供たちを思い出す。
「そうだな。」
「どうでもいいから早く帰ろうぜ。」
微妙に方向性の違う二人だったが、帰るというのは一致したようだ。
茶色い大地に背を向けて彼らはエテジアの村へと戻っていった――
「これからどうすんだよ?」
村に戻るとザイウスが疑問を投げかけてくる。
「どうって…、ギルドに毒針を持っていくけど?」
何当然の事を聞いてくるのだこの馬鹿は。
「ちっげぇーよ、あのガキ共の事だよ。適当に受け入れちまったが、アイツに任せた方が良かったんじゃねぇの?」
アイツとはクロノさんの事だろう。思えばザイウスは受け入れに好意的な感情は持っていなかった。
「元はと言えば私たちが拾ったんだし、最後まで責任を持つのが筋だと思うけど。」
「そうだな。見ず知らずの人にあれ以上頼るのは良くないだろう。」
私の言葉に続いてメギドからの援護が入る。
いつもならここでザイウスが引き下がるのだが、今日は違った。
「じゃあこっからあのガキ共を連れて仕事しろと?金だってそんなないだろ。」
いや、今金がないのは半分お前のせいだ。そう叫んでやりたかったが、言葉を呑み込む。
ザイウスの指摘は私も考えていた所だった。
金に余裕のあるパーティーではないし、時には野宿をするような危険で不安定な生活をさせるのは決して良い生活とは言えない。
クロノさんにどうするのかと聞かれた時は責任感で引き受けてしまったが、ここに来て少し自分の浅はかさに嫌気が差してしまう。かと言ってここで見放すなんていうのは無責任にも程がある。
「良い引き取り先が見つかるまでは、そうなるわね。」
問題を一先ず先送りにする事で事態の収束を図る。
ザイウスはまだ何か言いたげだったが、それ以上追及して来る事は無かった。
何だかんだ言ってアイツも、本気で少年たちを見捨てようとしているわけではないのだ。
宿屋へ戻り少年たちの居る部屋に入る。
部屋には木製の堅そうな椅子に座り、置物のようにジッと座り眠る弟をみつめているレイリーの姿があった。
「調子はどう?」
「体調に問題はないよ。」
愛想を感じさせない受け答えをするレイリー。
「弟さんは…眠ってるのね。」
視線の先にはスヤスヤと寝息を立てるスーラーの姿。少し涎を垂らしながら子供らしくスヤスヤと寝入っている。
「アイツはまだ子供だからね。逃げてきた時の疲れが溜まってるんだ。」
そう答える彼の眼は何かを思い出しているように見えた。
「そう…。寝てる所悪いけど、今日中にここを発ちたいから起こしてくれる?」
「どうして俺たちがアンタらに付いていく事になってるんだ?」
「じゃあ逆に聞くけど行く宛はあるの?」
レイリーは何も答えない。
「だからって…、それにこれ以上世話になるわけには…。」
意外な所で礼儀正しい奴だ。
年齢的にはもうちょっと甘えてもいいと思うのだが、そこらへんは出自が何か関係しているのか。
「じゃあこうするわ。あなたたちが使った食事代や宿代の代わりに私たちについてくる事。」
自分でも少々無理やりだと思ったが、これなら付いてこざるをえないだろう。
渋々といった表情のレイリーだったが諦めたのか、ベッドに駆け寄り弟を起こし始めた。
「んぁ?お兄ちゃん…もうあさぁ?」
「何寝ぼけてんだ。ほら顔洗ってこい。」
眠たい眼をこすりながら、私たちに気づいた様子なくスーラーは部屋を出ていった。
「で、どこにいくの?シュヴァイツ国内とかなら絶対に行かないよ。」
こちらに向き直り相変わらず不機嫌そうに聞いてくる。
「とりあえずこの国の王都に行くわ。」
行き先を告げるとレイリーは興味なさげにただ「わかったよ。」と言った。
本来王都に行く予定は無かったのだが、彼らの受け入れ先を探すにはあそこが最適だろう。
田舎よりも裕福な家庭が多いし、治安も比較的良い。
「王都か、歩いて行くと二日はかかるかな。」
「めんどくせぇな。」
行き先を王都に決めた私たちは、スーラーが戻って来てからすぐにエテジアの村を旅立った――




