~外伝~奴隷少年と貴族少女
このストーリーは裏設定のままにしとこうかと思いましたが、何となく書いてみました。やっぱり恋愛とか書ける気がしない。
朱美外伝はストーリーが進んでからじゃないと書けないし…
隷属の首輪を2話連続使用とか珍しい。
やっぱりこの二人が主人公な気がして来た。
とある農村で次男として生まれた少年がいた。
5人家族の家は生活が苦しかったが少年は不満など持っていなかった。
少年が六歳の頃不作でますます生活は苦しくなった。
少年はある日奴隷になった。
生活苦の為売り飛ばされたのだ。
家族と離れるのは少々寂しかったが家族のためならと受け入れた。
奴隷商に売られて少し経ったある日、貴族風の男と同い年くらいの少女がやってきた。
少女用の奴隷を買いに来たらしい。
檻に囚われた奴隷を見て回る少女。
少年は少女とふと目があった。
純真そうな眼差しで少年をじっと見つめる少女。
暫く見つめあった少年は檻から出され少女の手によって奴隷の証である首輪を付けられた。
何が気に入ったのか少年には分からなかったが、こうして少年は彼女の奴隷となった。
立派な豪邸に連れていかれ、奴隷用の部屋へ通された。
部屋には他にも数名の奴隷が居たがどれもが生気を失った眼をしていた。
その日から雑用に少女の話相手、時には館の主人である少女の父親からストレスの捌け口として拷問を受けた。そんな中で少年の精神は徐々に壊れ始めていた。
そんな少年の心を最後まで持たせていたのは、自分の主である少女だった。
少女には同年代の友人が居ないらしく、初めて話す時は大分緊張していたが徐々に心を開くようになっていた。少女と話す時間はこの生活のなかで唯一の安らぎであった。
次第に少年は少女の事を好きになっていた。そして少女も。
同時にここから抜け出したいという思いが芽生え始めていた。
しかし自分は売られた身、抜け出すのは重罪だ。
何より万が一家族に知られたら危害が及んでしまうかもしれない。
そして少年は少女とある約束を交わす。
やがて少年は青年へと成長し、少女は美しい女性へと成長した。
この頃になると昔のように話相手をする事はめっきり減り、青年は彼女の父親に付く事が多くなった。
彼女の父親はギャンブル好きで頻繁にカジノに入り浸っていた。
ギャンブルの腕は中々のもので、次々と勝ち星を積み上げていく。
青年は付き人としてその姿をじっと見ていた。
そんな日が続いたある日、館の主である男は奴隷たちにこう言った。
「儂にギャンブルで勝てれば、解放してやっても良いぞ?」
暇つぶしのつもりだったのだろう。
しかし、この提案に乗る奴隷はいなかった。
誰しもが生気を失い気力を失っていたからだ。
そんな事は主である男が一番分かっている筈なのに。
反応の薄い奴隷の中で青年が只一人名乗りを上げた。
すると男はニヤリと笑い、青年を挑戦者として認めた。
男には唯一生気を失っていない青年に少しの希望を与え、それを奪ってやった後の青年がどんな風に絶望してくれるかという楽しみがあった。こんな提案をしたのもそのためだ。
負けるなどとはゆめゆめ思わないが、男には万が一負けても逃がさないという自信があった。
ゲームはポーカー。男が最も好むゲームだ。テーブルに並べられたカード。
青年は冷静にゲームを進めていった。
チップは動く、男の方にではなく青年の方へ。
青年は男をいつものように見続ける。ただ冷静にじっと。手の動き、息遣い、表情、血管、眼の動き。
男のギャンブルする様を一番近くで見続けた青年にはそれだけで自信があるのか強いのか弱いのか分かってしまう。結果は青年の圧勝。
ゲームが終わり青年は安堵し握られた自分の手を見る。手の中はじっとりと汗ばんでいた。
安堵する青年を尻目に男は言った。
「フン、儂の奴隷からは解放してやるが、貴様の首輪は娘が付けたものだからな。娘しか外せんよ。つまり貴様は一生奴隷のままだ。フハハハハ」
勝ち誇った高笑いをする男。男は勝負には負けたが、娘があの首輪を外さなければ青年は奴隷のままだ。
「娘に泣いて懇願でもしてみるか?連れてきてやっても良いぞ?」
男は絶望に染まった青年の顔が見たくて青年の顔を覗き込む。
そこにあったのは絶望に染まる青年の顔…ではなく、いつもと変わらない冷静な青年の顔だった。
「ではそうしてみる事にしましょう。」
この言葉が男を苛立たせた。同時にどうしても青年の絶望した表情がみたくなった。
「貴様の言葉で娘が首輪を外すとでも?ならば見せてもらおうではないか。」
そう言って、男は別の奴隷に娘を連れてくるように命じた。
暫くしてギィっとドアを開け、娘が入ってくる。
「ほれ、泣きついて懇願するがいい。」
男は青年に促す。
青年はスッと立ち上がり凛とした透き通る声でこう言った。
「私は旦那様とのギャンブルで自らの奴隷解放を賭け、勝ちました。この首輪を外して頂けませんか?」
泣きつくことなくはっきりと。
娘は父親の方をちらりと見るが、彼は沈黙したままだ。
無言を肯定と受け取ったのか、父親から視線を外し青年を真っ直ぐ見つめる。
男は娘が断る瞬間を今か今かと待ちわびていた。
青年の顔が絶望に染まるその瞬間を。
しかしその時は永遠に訪れる事は無かった。
娘は青年の首へと手を伸ばし…そして首輪を外したのだ。
何が起こったのか男には理解できない。
「あばよクソジジイ。」
男が呆気にとられている内に娘と青年は部屋から出ていった。
その様を男は見ている事しかできなかった――
「遅いよ~~。何年待ったと思ってるの~~?」
「うっせ、中々難しかったんだよ。」
二人は走りながら、街を駆け抜ける。
背後には何人もの追手。
「「俺がちゃんとした形で奴隷から抜け出せたら、お前の事迎えに行くよ。だからそれまで待っててくれ。」って~~、今思うと臭過ぎるよ~~。」
「そういう事言うな、俺が恥ずかしくなる。どうしてあんな事言っちまったんだ俺は…」
思い出すのは幼い日の約束。
「でもまぁ、結局叶ったんだからいいじゃねぇーか。」
「そうだけど~~。」
夜の街を只ひたすらに外を目指し抜けていく二人。
背後には未だに追いすがる追手。
「この分だとこの街…いや国には居られねぇな。あのジジイの追手がきつい。」
「ど~~こ行くの~~?」
「どこでもいいだろお前となら、とっととレオンハルト王国は抜けねぇとな。」
二人は走り続ける。どこまでも――




