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追放された少年  作者: 誰か
青年期
32/150

第二十六話

久々の戦闘?パートです。

一話長いかも。

この二人メインに小説書きたいレベルだったり。

珍しく残酷描写ありますね。

最近ダッシュ依存症な気がしてくる今日この頃。



「まあゆっくりしていってやー。」

細かく網目状に張られた床。草で出来ておりタタミというらしい。独特の香りがするタタミ。

部屋を仕切るのはスライドさせる事によって開くフスマ。ドアというには少し軽すぎる。

何度見ても不思議な部屋だと思う。

なぜか先回りされていたメイに招かれやってきた領主の館。

外観は一国の主の館としては似つかわしくない、少しでかい家といった印象。

誘われるまま中に入ると、このワシツに案内された。

「もう下がってええよ」

使用人らしき女性から変わったコップを受け取り、下がるように伝えるメイ。

「ほいっ。熱いからきーつけてな。」

目の前に差しだされたコップに触れるが熱い。

鉄のように堅い円く黒いコップ。中は深い緑色の液体が渦巻いている。

変わったコップを無言でドラに渡す。

「あれ?ドラ君の分が足らへんかったか。もう一回呼ばなあかんな。」

その姿を見て、スッと立ちあがって使用人を呼ぼうとするメイ。

「いや、いい…。」

慌てて手で制す。

実際の所俺はあの飲み物が苦手だ。

初めて飲んだ時、苦すぎて口に含んだ瞬間吐きだしてしまいそうになった。

以来悟られぬ様にそれとなく避けている。

メイはそれ以上何かを勧めてくる事は無かった。

再び部屋の中を見渡す。足元には柔らかいクッション。

足を折り曲げその上に座っている。

最初に来た時はこの姿勢が辛かったものだ。

昔かーさんと各国を回っている最中この国にも寄った。

他の国と違い軍隊を持たず、中立を貫く国。

その時点でかなり驚いたのだが、最も驚いたのはかーさんの態度。

他の国のように敵対心むき出しで接するのではなく、極めて友好的。

特にこの部屋に来た時は子供のようにはしゃいでいた。

どれくらいの時間がたっただろう。

昔を懐かしみながら、部屋を見渡しているとふと思う。

(あれ?どうしてここに呼ばれたんだっけ?)

ギルドで会ってから、問答無用でこの部屋に連れてかれた。

そういえば何も聞いていない。

メイもドラもあの苦い液体を平然と飲みながら和んでいる。

部屋の中は時が止まったかのような静寂。

この空間を壊すのは憚れるが、何か言わないと先に進まない。

「で、用は何だ?」

ぼけーとした表情で和んでいたメイがハッとして顔をこちらに向ける。

「ん?用が無かったら呼んじゃあかんの?」

イタズラっ子のように意地の悪そうな笑みで答えるメイ。

しかしそんな笑みにはもう騙されない。

「はぐらかすな、用もないのにここには呼ばないだろう。」

コイツが俺をここに呼ぶ時は大抵なにか面倒くさい事がある時だ。

今までも、呼ばれては盗賊団壊滅の依頼やらSSSランクの討伐など面倒くさいことばかりだった。

「うー、昔のクロノはもうちょっと可愛げがあったんやけどなぁ。」

口を尖らせ残念そうにつぶやく。

「まあええわ。ほな、本題にはいろか。いうても難しい話やないけどな。単純な依頼や。」

こちらを真っ直ぐに見据え喋り始めるメイ。

「この近くに盗賊団が拠点作ったらしくてな、そこの壊滅を頼みたいんや。」

「場所と規模は?」

「大体20人ってとこらしい。場所はここから西にちょっといった所の洞窟。元々ギルドに依頼出してたんやけど、情報が入ってな。元Aランクの冒険者崩れがいるから、クロノに頼もうと思ったんや。」

「元Aランク冒険者か。分かった、依頼は受けよう。」

立ち上がって、依頼に向かおうとするがメイに止められる。

「只、問題があってな。」

「問題?」

次の言葉を真剣に待つ。なにか重要な問題があるのか?

「いやー、元Aランク冒険者って情報が来たのがついさっきやから、まだ依頼下げとらんのよ。ちなみに依頼ランクはCな。もう他の冒険者に依頼持ってかれてるかもしれんわ。」

頭をかき笑いながら告げる。元Aランクが居るとなると依頼もAランク相当だろう。

「それを早く言え…。」

そう言って俺は、未だに和んでいるドラを引き連れ部屋を出ていった――


(これで早期壊滅は確実っと。)

誰も居なくなった和室で、お茶をすすりながら案件の解決を確信する。

(依頼はさっきギルドに出したばっかりだし、解決が早いっていいことよね。)

盗賊団の情報が届いたのは今朝方。その時既に元Aランク冒険者が居る事は分かっていた。

あえてクロノに伝えなかったのは、その方が急いで解決してくれるだろうと思ったからだ。

(クロノには悪いけど利用させてもらいましょう、ふふふ。)

ここまで考えついた自分を自画自賛しながら、物思いにふけっていると

「メイ様、至急御耳に入れたい事が…。」

後ろの襖が開き突如声が聞こえてきた。

「何や?」

(あー、びっくりしたぁ。諜報のこの登場の仕方はどうにかならないのかしら。)

振り向く事もせず凛とした声で答える。

内心動揺したが、何とか取り繕わなければ。部下の前でだらしない姿は見せられない。

「昨日シュヴァイツ帝国が勇者軍に占拠されました。」

内心に気づいた様子もなく、状況報告する部下。

「さよか、もう下がってええよ。これからも監視は続けといてや。」

「はっ、失礼します。」

スッと襖を閉め部下が出ていったのを確認して、新たな案件に頭を悩ませる。

(今回のは随分と国に素直に従ってるみたいだけど…。)

再び一人になった室内。気づけば湯のみのお茶は無くなっていた。

(昔の過ちから本当に学ばないのねあの国は。あーめんどくさい。)

大国の間抜けさに呆れてしまう。

何度同じ事を繰り返せば気が済むのか。

(やんなっちゃう。普通に平穏な暮らしを送りたいな。)

その願いは叶わないものだと思っても、望んでしまう。

領主の家系に生まれ、幼少の頃から領主になるように教育されてきた。

祖先に習って良くわからない作法やら、人前ではあんな喋り方をするようにと。

本当に無駄な慣習だ。

お茶だって最初は大嫌いだった。途中で勉強や習いごとを止めると親に叱られた。

全部掟だからと、自分に言い聞かせ覚えた。

普通に遊ぶ子供を見て何度羨ましいと思った事か。

慣習、伝統、掟、こんなものに縛られて生きなければならない自分に嫌気がさす。

大体この国が神聖なんて名乗っているのも、可笑しな話だ。

先祖が「神聖って名乗ったら、どこからも攻撃されないやろ?」と言ったのが発端らしい。

全くお花畑な頭してる先祖だ。

そんな奴のおかげで、自分がこんな窮屈な生活を送らなければならないかと思うと嘆かずにはいられない。

(本当に嫌になるなー。まあ嘆いてもしょうがないんだけど。)

嘆いたところで変わる事の無い現実。

(さてと、店連中にも連絡しとかないとね。ウッドブックは除外っと。)

頭の中で思考を切り替え次の行動へと移す。

(万が一に備えておきましょうかね。今度はあの人みたいにならないようにしないと…。)

頭の中に思い浮かべる一人の人間。

ある決意を固め一国の領主は部屋を出ていった――



一方ギルドへと向かったクロノは依頼板の前で目当ての依頼を探していた。

(これじゃないし…。これも違う…。)

木の板に無数に貼られた依頼の紙をかき分け、一心不乱に探す。

(おっ、あれか。)

ようやく見つけた紙に手を伸ばすと

「「ん?」」

横から伸びてきた手と声が重なった。

手が伸びてきた方をみると、細身だが筋肉質の腕がみえる見覚えのある男が立っていた。

頭の中で検索するが、なかなか名前が出てこない。

「あ~~~、クロノさんじゃないですか~~。」

男の後ろからとても間の抜けた声が聞こえてくる。

こんな喋り方をするのは、あの人しかいない。

その声に答えようとするが

「久しぶりですね。」

ドラに先を越されてしまった。

敵意剥き出しで男をじっと見つめるドラ。眼が完全に野生の眼だ。

「おーおー、あの時の少年じゃねぇか。」

対する男は視線に怯むことなくサラリと受け流す。

両者の間からピリピリとした空気が伝わってくる。

「アレク~~~、こっちがクロノさんだよ~~。」

そんな空気をものともせずに、相変わらずマイペースな声。

「確かこいつの兄貴だったか?」

「うん~~~。」

俺の事をアンナさんが話したのだろう。アレクは品定めするように俺を見る。

「コイツの兄貴ねぇ、そうは見えねぇが。」

(まあそりゃ、兄弟じゃないしな。)

「つーか、んなことはどうでもいい。今の問題はこれだ。」

そう言って視線を依頼板に貼られた一つの紙へと向ける。

そこには「盗賊団壊滅依頼」と書かれている。

依頼人の名前はローラ・クロイツ。どうせ偽名だろう。

ランクは言われたとおりC。

「何が問題なんだ?お前がこちらに譲ればいい話だろう?」

少し挑発するようにアレクに言ってみる。

依頼内容は実際にはAランク相当。Aランク以上の冒険者などそうそう居るものではない。

もしこの依頼のランクを見て受ける気になったのなら、早急に止めてもらうべきだ。

「あ?どうして俺が譲らなきゃなんねぇんだ?」

喰いかかるようにこちらをみるアレク。

どうやら挑発に乗ったらしい。

頭に血が上ってしまえばこちらのものだ。後は冷静に対処するだけ…

そう思ったのだが

「じゃ~~~。一緒に受けましょ~~よ~~。」

という全く空気を読まない言葉によって、俺の計画は完全に崩れ去ったのだった、


木々が生い茂り、地面を草の絨毯が覆い尽くす山道を進む馬車。

この山道は不自然な程狭く明らかに一般的なものではない。

ガシャガシャと車輪が回る音が聞こえる。

中はガタンガタン揺れており路面状況は最悪。

そんな馬車の中には3人の冒険者と一匹のドラゴン。

あれから、断ろうとしてもマイペースに一緒に依頼を受ける方向で進めるアンナに流され結局パーティーを組んで受ける事となってしまった。

まあ危なくなったら、自分がどうにかすればいいのだからと自分に言い聞かせて。

馬車の中は無言で言葉を出すのも憚れる程重い空気。

原因は会った瞬間から睨み続けているドラとアレク。

両者の間には依然張りつめた空気が流れている。

御者台にはアンナが、幌の中にはクロノとドラ、反対側にアレクという絶妙な配置。

クロノとしてはアレクが御者台に行って欲しかったのだが、なぜかアンナが御者台へ。

地図を確認すると目的の洞窟まで、10分というところか。

後10分もこんな重い空気が流れているのかと思うとげんなりする。

「おいアンナ!!そろそろ迂回してくれ。」

不意にアレクが声を上げる。

「分かった~~。」

間の抜けた声で返事をするアンナ。

そういうと、いきなり右方向に山道を外れ道無き道を進み始める。

「うぉっ。」

路面状況は最悪からさらに下降。

もう何かに掴まっていないと、振り落とされてしまいそうだ。

「何をするんだ!」

声を荒げアレクへと言葉をぶつける。

「あん?洞窟の方に向かってるだけだろうが。」

何を当たり前の事を聞いているんだ?と言わんばかりの顔。

「洞窟はあのまま真っ直ぐだろう。」

「ハッ、お前は馬鹿か。誰が正面からなんて行くかよ。まずは偵察からだ。」

鼻で笑うアレク。そうしてる間にも馬車は進む。

(そういえばリル以外とパーティーを組んだ事は無かったな。普通は偵察からか。)

今まで何度か壊滅依頼を受けた事はあったが、全部正面から乗り込み潰していた。

偵察などやった事は無い。というか必要が無かった。

クロノには敵がどれだけ武装していようが相手にならないからだ。

(今回は従うとするかな。普通のパーティーがどうやってるか見てみたいし。)

これも経験だと思い反論はしない。

「おらよ、もう着くぞ。」

徐々に揺れは収まり、木々も薄くなってきた。

木々を抜けると視界が一気に晴れ青空が見える。

「着きましたよ~~。」

馬車は足を止め山の中でぽっかりと少し開けた場所で停車する。

幌から降り馬を見ると、明らかに疲労の色が見える。道無き道を無理やり進んだので当然か。

「ここはどこらへんだ?」

「地図を見ろ、指定された洞窟の上にちょっと小さい点があるだろ。」

地図を開くと確かにここだけ、少し空いている。

よく見ないと分からない程に小さい点。

(ここまで見てたのか。)

挑発に乗りやすい熱い奴かと思っていたが、案外注意深く観察しているようだ。

「とりあえず下の方を見て、見張りの有無を確認しないとな。」

木の間から下を覗き込むアレク。その後ろを馬車から降りたドラがトテトテと追う。

「っち、よく見えねぇな。木が邪魔すぎる。」

「見張り3人ってところかの、左から順に弓と短剣、槍と剣、剣一本じゃな。」

すらすらと持っている武器を上げていくドラ。

ドラの眼は身体強化したクロノ程では無いが、かなり良い。

「へぇ、眼いいんだな少年?あと口調もな。」

ドラはハッとして口に手を当てるがもう遅い。

「追及はしねぇよ。誰にだって知られたくない事はあんだろ。」

どこか自虐的な笑みを浮かべる。

「見張りが問題だな、どうするか。」

笑みをフッと消しすぐさま、目の前の問題を考えるアレク。

「見張りくらいなら何とかしてやる。それ以外はどうにかできるのか?」

「ほー、自信ある見てぇだな。洞窟にいる連中は楽勝だ。」

(洞窟の方が人数多いんだが大丈夫か?)

アレクの自信の程が気になるが、そこまでいうなら何か策があるのだろう。

「なら、そっちは任せる。タイミングはいつがいい?」

「ハッ、分かりやすい合図してやるよ。」

早速アレク達と別れ見張りの方へと向かおうとすると、背後から声が聞こえる。

「そうだ、洞窟からは離れておけよ。巻き込まれてもしらねぇーぞ。」

「了解した。」

振り向かず返事をして配置へと向かう。

見つからないように忍ぶように木々をかき分け進む。

「主だけでやってしまってもよかったじゃろうに。」

ドラから不満そうな声が漏れる。

未だにあの男が気に食わないのか、先ほどの失態のやつあたりか。

「これも経験だよ。今まで他のパーティーと組んだ事なかったしね。」

ドラを諭し配置にひっそりと着く。木々の隙間から相手を微かに視認できる。

ここならいつでも見張りを狙えるだろう。

後は合図を待つだけだ。

息を殺しじっとその時を待つ。鳥や葉が揺れる音がはっきりと聞こえる程に静かな森の中。

時折吹く風が心地いい。自然に身をゆだね、森と同化したかのように流れる時間。

やがてその時はやってきた。

ゴゴゴゴゴと大きく派手すぎる崩落音によって――


「さーて、もう離れてくれたかね。」

クロノ達を見送って、少しの時間が経った。

これだけ時間があれば配置には着いた事だろう。

「こっちもだいじょ~~ぶだよ~~。」

アンナは自らを光らせ魔力を込めている。

「そんじゃあ、始めましょうか!!」

一息ついてから、地面に手を当て集中し始める。

(かてぇな、多分ここだろ。)

当たりを付け魔力を最大限地面に込め、一気に貫く。

ガラガラと地面から音が聞こえ何かが蠢いたかと思うと、グラグラと足元が崩れだす。

崩れ去る地面。このまま落ちれば死は免れない。土砂の中に生き埋めになるだろう。

「当たりだな。後は頼むわ。」

「は~~~い。」

アンナの輝きはどんどん増しており、目が眩む程だ。

「行くよ~~。」

瞬間光が放たれたかと思うと、アンナとアレクそして馬車の周りには長方形の光の壁が展開された。

落下は止まらない。山の一部が音を立て崩れていく。上から身長の2倍はあろうかという岩が転がり落ちてくる。しかし光の壁に守られた二人に、ダメージは与えられない。

急スピードで落下していく中、アレクはもう一組を案じる。

(あっちはどうなってるか…。最悪俺たちが3人相手することも考えなけゃな。もう俺魔力無いんだがなぁ。)

その心配が杞憂だという事を彼はまだ知らない――


もの凄いスピードで崩れ去る洞窟。

遠目に見てもあの中の人間は助からない程凄惨な状況であろう事が容易に想像出来た。

「あれは…。ひどいもんじゃの。」

さしものドラも同情したのか、小さな声で呟く。

「洞窟ごと壊滅は考えてなかったよ。」

視線を洞窟の前にいる見張りに移すが、見張りも2人土砂の下敷きになっている。

残ったのは剣を一本持った奴だけだ。

必死の形相で、洞窟から離れこちらに向かっている。

標的が減るのは良いことだ。

茂みの間からでて、男の前に立つ。

「う!?うわぁーー!?」

男は混乱したのか奇声を上げ襲いかかってくる。

(なんか可哀そうだな。)

若干憐憫の目でみつめ、握られた剣を素手で奪い取る。

この程度なら身体強化を使うまでもない。

「????」

男は何が起こったのか理解出来ていないようで、その場にヘタリと座り込んでしまった。

「抵抗はするな。抵抗すれば殺す。」

背後に回り剣の先を首筋に当て、そう脅すと男はコクコクと人形のように首を振り気絶した。

「本当にこやつは盗賊か?」

呆れた様子のドラ。

「一応そう…なんじゃない?」

やった事を振りかえるとこちらが悪役に見えてしょうがないが。

男を放置し洞窟へと向かう。振動は収まっており、洞窟は完全に埋もれてしまった。

入り口だった当たりに人の腕が出ており、かなり生々しい。

(これ、あの二人も死んでるんじゃないか?)

身を案じていると

「よう、そっちはどうだったよ。」

土砂の中から、光の壁に囲まれたアレクとアンナが出てきた。

「一人はとりあえず気絶させた。後の二人は崩落に飲まれて死んだよ。」

「そーか、なら依頼完了だな。」

洞窟崩落の真相を知りたかったが、今は聞かないでおこう。

後処理と報告をどうするかなどと考えていると、ガラッと土砂の中から音が聞こえる。

目を向けると、水が溢れ岩が変色していた。水は徐々に勢いを増している。

この近辺に川は無かった、考えられるのは二つ、洞窟の中に水源があった。

それならば問題は無い。そしてもう一つは、水属性の奴が居るという事。

水が噴水のように一気に土砂の間から放たれたかと思うと、そこから一つの人影が現れた。

全身を水で濡らし、不精髭を蓄えたゴツイ男。

「くそがッ、てめぇらの仕業か!!」

こちらを見るなり、憎しみのこもった声で咆哮を上げる。

おそらくあれが元Aランク冒険者だろう。

「へぇ、よく生き残ったな。」

「音がしたから、おかしいと思ったんだよ!時間が無くて自分以外に壁は作れなかったがな。」

水の膜を自分の周りに作り、クッションにしたのだろう。

「無茶苦茶にしてくれやがって、ぶっ殺してやる!!」

大鉈を取り出し、再度声を上げる。その様は大きな熊のようだ。

男の周りには、水が蠢いている。

(大鉈を振り上げて、かわした先に水属性の魔法ってとこかな。それとも他に使い道あるのか?)

クロノは頭の中で考えるが、答えは出ない。

男は向かってくる、ドラの方へ。どうやら子供を第一ターゲットにしたらしい。

他人の戦闘を見て死にそうだと思う事はある。傍から見ても死が迫る恐怖を感じられるのだ。

今回もそんな予感がする。ドラにでは無く、向かう男の方に。

このまま放置しても良いのだが、アレク達にドラの真の姿を見せるわけにはいかない。

「レベル4」

小さくそう呟いた瞬間、クロノの姿は男の背後にあった。

「動くな。動いたら殺す。」

首筋に切っ先を当て低いトーンで命令する。

右手にはいつ抜いたのか分からない愛刀。

「!?」

男は大変驚いたようで、微動だにしない。

(流石にさっきのようにはいかないか。)

「武器を置け、魔法も止めろ。」

男の首に少し血が出るくらい、剣を喰いこませ高圧的に命じる。

血が微かに滴る紅朱音。紅い刀身に別種の赤が滴りなんとも言えない色合いを醸し出している。

「っち。」

大きく舌打ちをして、しゃがみ大鉈を足元に置こうとする男。

従った事にクロノは安堵し剣を首筋から離したが

「んなわけねーだろうが!!」

しゃがんだ状態からグルリと回り振り向き様に大鉈を振り回す。

風を切る音が聞こえる程のスピード。人がいれば真っ二つにされてしまうだろう。

しかしそこにクロノの姿は無かった。

「え?」

これが最後の言葉。

「言ったはずだ。動いたら殺すと。」

男は不思議そうに自分の胸を見る。

そこには、深紅の変わった剣に貫かれた自分の心臓があった――


ここはどこだろう?

身体を動かそうとするが、思うように動かない。

黒で塗りつぶしたように黒い世界。

わずかな浮遊感。

やがて音が聞こえてくる。ザァザァと雨の音のようだ。

視界が徐々に晴れてくる。ぼやけた視界で見えるのは、真っ赤に染まった自分の手。

この血は自分のものではない。不思議とそう確信できる。

目の前には優しげな笑顔。外は土砂降り。

ああ、間違い無い。あの日の出来事か。

泣き崩れる自分に優しい笑顔のかーさん。

「………ら、…が………。」

光がかーさんを包みこむ。

俺は何かを叫ぶ。必死に光へと手を伸ばしたが、届かない。

眩しすぎる光はどんどん小さくなっていく。

そして光の消えた後には何も残ってはいなかった。


「痛っ」

ガタンガタンと揺れる馬車。

木の板に頭をぶつけて、もやが晴れるように意識が覚醒する。

「大丈夫か?うなされておったようじゃが…。」

目を開けるとドラが心配そうに顔を覗き込んでいた。

「ん、大丈夫」

(夢か…。)

「ならいいが」

どうやら寝てしまっていたらしい。

外は夕陽が辺り一面を金色に染めている。盗賊団を壊滅させた後、街に戻る道中。

崩れた洞窟などはそのまま放置してきている。

あれから事後処理や報告の事を考えて、ギルドに丸投げしようという結論に至ったのだ。

反対方向に座るアレクをみると、豪快にいびきをかいて寝ている。

自分の手を握り、感覚を確かめる。

手に残るのは殺したという感覚。

だが冒険者である以上は必要なのだ、と自分に言い聞かせる。

あの時に比べればなんて事はない。無力感に苛まれるよりは何倍もマシだ。

迷う時はもう過ぎたのだから。

しかしリルにはこうなってほしくないとも思う。

自分勝手な願望に苦悩しつつも、そう願ってやまないクロノだった。


今回はクロノが人を殺すって事を書きたかったんですはい。


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